半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

記譜について その3

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島根の病院に赴任していた時の官舎の庭です。2000年撮影。

問い:私はトロンボーンなんですが、アドリブのコピーの時の記譜のコツ、ありますか?

楽譜を書く必要に迫られるのは次のような場合です。

  • レコード・テープ、CD/MDなどから耳に聴いたテーマやアドリブ譜を採譜する場合(一般にアドリブの「耳コピー」と呼称したりします。)
  • テーマ、コードを(本番用に)記譜する場合=リードシート
  • アレンジ(編曲)を行う場合

リードシートを書く場合の注意はすでに その1,その2で述べました。
記譜について: - 半熟ドクターのジャズブログ
記譜について その2 - 半熟ドクターのジャズブログ

では、コピーとか(いわゆるTranscribeですね)アドリブソロは、どう書くのが望ましいでしょうか?
すべての楽器の人達に語る言葉は、僕にはありませんので、一応トロンボーン限定の話とさせてください。

なにに書くか?(用紙の問題)

よく使うのは、

  1. B6版カード式リングノート
  2. B5版ルーズリーフ
  3. B5版ノート
  4. A4もしくはA3変形の譜面(正調)

B5ルーズリーフもしくはB5ノートの良いところはなんと言っても安いこと。
下書きやコピー譜などに大活躍です。
しかし、致命的な弱点もいくつかあります。

  • 視認性が悪い。5線のサイズがちいさいので本番で演奏する場合に譜面が読めないということがまま起こります。
  • 線と5線の間が狭すぎるので上にコードを書き入れるスペースに苦労します。Jazzというジャンルではコードを併記する機会が圧倒的に多い。その点ではこの楽譜は向いていません。音符の羅列なら別に問題ありませんが。
  • 音域の問題。トロンボーンの場合ソロは高音が多い。ヘ音記号で書く場合コピー譜は音符が5線よりも突き出ていることが殆どです。つまり、音符、コード共に「線と線の間のスペース」に書き込みするわけで、非常に読みづらいものになってしまいます。

ちなみにリングノートにしろノートにしろ、並べなおしたりできないものは結構不便ではあります。ルーズリーフみたいに単体で使えるもののほうがいい。

A4変形版は良質紙で、大きくて、読みやすい楽譜です。
いろいろな段数が発売されていますが、Jazzでは前述したようにコードを併記する必要性がありますので、6-10段のものがよいでしょう。
コスト面では非常に分が悪いです。(5枚入りで400-500円くらいしただろうか。)

このA4変形版の譜面(売り譜とか)の欠点は、コピー機にかけて複写しづらいことです。
どうしても少しはみ出してしまう。
これはむしろコピーしにくいようにこの規格が未だに流通しているのだとか。
写譜屋というか、音楽業界の既得権益保護なんでしょうかね。

なので、僕はPDFファイルで白紙五線紙をプリントアウトして使っています。Googleで「五線紙」で探せばあります。
テーマの長さにしたがって6段〜12段まで使い分けています。

この方式の唯一の弱点は、裏がないこと。
両面印刷すればいいのかもしれませんが、どうしてもこの点でルーズリーフには劣ります。

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こういうやつですね
B6式のリングノート式譜面は、譜面の京大式カードのようなものです。ベースの方が、自前のリードシートをこれで持ち歩くのをよく目にしますね。多分メロディーとコードネームまで併記する場合、このスペースには収まらないからかもしれません。
これはフロント楽器としては特にオススメはしません。
また、多分40歳以降にはキツイ。老眼で。

結論:

  • 基本的にはB5の安いやつでいい。(コピー譜、もしくはアレンジ)
  • 外で吹く、お店で吹く場合のリードシートはA4版を使った方が楽チン。

しかし、これを併用する場合二つのファイルを持ち運びすることになって面倒です*1
スタンダードのリードシートをせっせとB5版のルーズリーフに書き写す努力は報われないことが多いので推奨しません。

どのように書くか?(記譜法の問題:ただしトロンボーン限定)

もし、B5版の5線紙に記入するならば、前述した様に、トロンボーンの譜面はヘ音記号で高音部が上にはみ出します。その結果
・書きにくいし、読みにくい。
・コードを併記する場合も音符とぶつかってますます読みにくい
という問題点があります。この解決にはどうすればよいでしょうか?
一段あけて書く。一ページ6段しか書けませんが、まずまず実践的なやり方です。こうするとソロ譜、コード両方とも見やすく書けますし、高い音も無理がありません。しかし、歌もの32小節でさえ1コーラスが一ページに収まらないのは少し不便でしょう。ちょっと間延びしすぎる印象です。
全部[...8vaとつけて一オクターブ下に記譜する。こうすれば音符が丁度いい位置に沈むでしょう。一般的なト音記号の譜面に近い形で読むことが出来ます。
しかし、僕はこれをしたことがありません。理由はヘ音記号の下の方の音を読む訓練をしていないからです。(笑)
いっそト音で書く(この場合見やすさ、書きやすさを考えると実音よりも一オクターブ高い記譜が妥当と思います)。Tpのコピーは僕もト音で書いてます。
ハ音で書く。これは一部の人間にしか読めないのであまりすすめられません。
2番目、3番目の方法が比較的よさそうですが、いずれも実音からオクターブずれてしまう、というのが少し不満なんです。
他の楽器の人、またアレンジャーにわかりにくいですから。普遍性を失ってしまうのはやはりあまり良くない。

僕はトランペットのコピーはト音で(in C)、トロンボーンのコピーは上にいっぱい線が出た音符で仕方なく書いています。ま、これだとぱっと見たときにどっちの譜面だかすぐに区別がつきますし。

調について

幸い、トロンボーンはin Cの楽譜を読むようになっているので、この点では考えなくて済みます。
サックス、トランペットなどではこれに関して非常に議論の余地があると思います。

ピアノに合わせてin Cにするか、自分の楽器なりの記譜を続けるか。
理論の習得なども変化してくる重要な問題だと思います。
 一般的に、吹奏楽/オーケストラ等で楽器の基礎訓練を十全にしている経験者は、今までの遺産を引きずって楽器の原調で考えることが多いですね。
初心者で始める場合、(しかもピアノの経験はあったりする場合)、あっさりとin Cをメインにした方がいいかもしれませんね。
そうなるとビッグバンドの譜面が吹きづらくて、それはそれで困るのですが。

なおかつ困るのがコードネームの併記です。
知人のトランペッターで、楽譜はin Bbで読み書きし、しかしコードネームはin Bbに移調せず、in Cのコードを記入している人がいました。これはおそらくスタンダードブックがin Cであるが故にこのような発達をしたんだと思うけれども、実際頭の中はかなり大変なことになっているような気もします。

しかし、出版譜によくある、コードネームを移調するスタイルも、あれはあれで疑問が残ります。ルート音である実音が変わってしまうのは、ちょっといいのかと思うところもある。実音は絶対的なもんですからね。例えば、in CでCはドで、in Bbではレです。しかし、Cm7は、in BbではDm7……にしていいものかどうかと思ったりもします。ローマ字表記ならいいと思うんですけれども。

2019年現在:

上記の内容は、10年前にまとめたテキストでした。
実は2019年現在、譜面のほとんどは、A4版で管理しています。
ほとんどがリードシートなんですけれども、手書きで書いた譜面もスキャンしてEvernoteに保存しています。
今度iPad Air 2から、iPad proに買い換えようと思っていますが、トランスクライブの譜面なども、Apple Pencilで書いたらいいんじゃないかな?と思っています。これは試してみてよければまたレポートしますね。

アレンジに関しては、iPadおよびMac版のNotionを使って管理するようになりました。サックス・トランペットの人に対して転調ができるのが大きいですね。また、アレンジものは繰り返しや転調で、書き写しなおすというのが多いので、コンピュータ化はかなり省力化できると思います。

*1:社会人になりセッションやライブに行くだけになりますと、A4のファイルを持ち歩くだけになってしまいました

音感の確認 Troubleshooting for Improvisation

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 前回 絶対音感相対音感の話を書きました。

もしアドリブができないのが悩みならば、
音感に問題がある場合は、原因を要素還元して解決できるかもしれない。

インプロヴィゼーションが演奏されるまで

我々は楽器をもって即興演奏を行う際に、脳内で以下の思考プロセスを通過しているはずです。

  1. アドリブを考えだす部分。
  2. 考えたアドリブを、うまく楽器に伝える部分。
  3. 楽器そのものを弾きこなす技量。

どの段階で躓きがあるのかわからない場合、それぞれ簡単に判定するベンチマークテストを考えてみました。

1.アドリブを思いつく

例えば、自分の好きなジャズのアルバムを聴いてみましょう。
自分の楽器と同じ人がソロをとっているのを演奏に合わせて一緒に口ずさんでみましょう。
出来ますか?何度か聴けば、できますね。
ちょっとくらい音がずれていても気にする必要はありません。
もしあなたがボーカリストではないのならば。

それでは、その人のソロが終わったあと(もしくは、ソロの半分くらいで、音楽を止めてもいい)、自分でそのソロの続きを口ずさむことができますか?
憶えているソロではなく今までソロをしていた人の気分になって。
フレーズやメロディーを口ずさめるでしょうか?
なんかソロっぽいような鼻歌が口ずさめますか?

程度の差はあれ、このステップが全くクリア出来ないのは、
アドリブできない原因は器楽的な演奏能力ではなく、あなたの頭にある。

ジャズが好きで好きで入ってきた楽器初心者は、こういうのを結構上手にこなすします。
が、逆に、ジャズはせいぜい「A列車で行こう」とか「インザムード」しか聴いたことがないブラバン出身の楽器経験者はさっぱり出来ない現象がしばしばみられる。
音源をあまり聴かない人は、まず、やろうとする音楽をよく聴いて、楽しむ必要があります。

出来ない場合、その手本の演奏者のスタイルが自分に向いていない可能性はあります。好みでないスタイルは出来ないものです。

2.アドリブを伝達する

(A)例えばテレビで流れている歌謡曲とか、そういう手近な曲を、口ずさむことは可能ですか?
もしあなたがボーカリストでないのなら、多少細かいところで音を外しても構いません。調性がわかる程度にトレース出来ればいいです。

(B)では、その曲の一節を、半音上げて、もしくは半音下げて口ずさむことは可能ですか?
(C)では、楽器で、その曲のメロディーを再現出来ますか? テレビの歌謡曲とか、そういう手近な曲のメロディーラインをすぐに楽器でトレースできますか?
(D)そして、そのメロディーを半音上げて、もしくは半音下げて楽器で演奏することができますか?

ここでは、むしろジャズの曲ではなく、童謡とか、簡単な歌謡曲とかがいいでしょう。
ビバップやモードの曲などのジャズオリジナルは一つの調性に留まらないので難しい場合もある。
少なくとも、ベンチマークテストには向いていません。

(A)-(D)まで、特に問題なく出来る人は、この段階を思い悩む必要はないといえます。
この種の人は学童期にピアノなりなんらかの音楽教育を施されている人に多いのですが、必要な素養を幼少の段階で身につけています。
逆に、彼ら彼女ら(比率でいうと、女性の方が少し多い様に思います。ピアノを習う男女比の為でしょうか)にとっては、これが出来ない他の人を不思議に思いさえするかもしれません。

ブラスバンド部では、多くを器楽演奏技術の習得にあてられ、この資質のトレーニングは必須ではない。
こうした努力は、ですから吹奏楽の活動歴と、この能力は必ずしも相関しません。

(A)(B)が出来るのに(C)が出来ない場合、頭の中で流れている音を上手く楽器にフィードバック出来ないと考えるべきです。(今ではそれほどではありませんが、僕はもともとこのタイプです)
(A)(B)(C)はできるが(D)ができない場合、移動度に関してやや不完全(相対音感に問題あり)と考えるべきでしょう。

あまりに極端に「絶対音感」の人の場合、(A)(C)は完璧に出来るのに、(B)(D)で思わぬ躓きをみせる場合があります。

3.楽器の技量

 これは、特に説明する必要はありませんね。
 楽譜に書かれた、もしくは模範演奏をトレースすればいい。

このテストのベンチマークとしては、僕はConfirmationを使うことが多い。
Boppyなフレージングが出来るかどうかはこれを吹くと大体わかります。
またこの曲ではトロンボーンでは運指は不可能に近く(特にBメロ)、ある程度ごまかす、そのごまかしっぷり(音の呑み方)でアーティキュレーションを量るにも役立ちます*1

注意しておきたいのは、読譜能力は必ずしも問題にはならないということです。ビッグバンドならともかく、アドリブをする場合、読譜能力は必要ありません。チェットベイカーは譜面が読めませんでした。

 ですから、評価に際しては読譜能力が影響しているかを注意深く観察する必要はあります。
 
多くの場合「楽器の技量」だけが問題になることはあまりありません。
初心者はそれまでの(1)(2)の段階で多くの未成熟さを抱えており、楽器の技量のみが顕在化することはないからです。
特殊な例として、ピアノや他の楽器を中程度以上習熟している人間がトロンボーンを新たに始めた場合があてはまるかもしれない。
 ただ、こういうケースはトロンボーンにおいては残念ながら(笑)あまりありません。

結論

いかがだったでしょうか?
自分がアドリブが吹けないと悩んでいる方、上の項目のどこかに当てはまったでしょうか?

今まであまり楽器の経験がない初心者の方は、どちらかというと、2. 3.に問題があるのではないでしょうか?
もしあなたが 1.-3. すべてにおいて全くよい面を示せない場合は、目標を低く設定し直した方がいいかもしれません。
少なくとも音楽をもっと好きになって下さい。
楽器の不如意を補えるのは、自分の中から溢れてきてしょうがない内なる音楽だけです。
逆に言うと、1. さえ十分にあれば、こつこつと適切な練習をすれば、きっといいアドリブが出来るようになると思います。

いろいろなスタイルを試した挙げ句、どんな人の演奏でもさっぱり出来ない場合は……
そもそもジャズ自体にあまり興味がないのかもしれないし、
アドリブという行為自体にも意義が見いだせないのかもしれません。
もしくはあなた自身に強烈なオリジナリティーがありすぎて、模倣というものを許さないのかもしれない*2

あなたが 1.2. の問題をクリアしているなら、あとは楽器の練習だけです。
最もソロイストへの道が近いと思います。物理的な条件(例えば両手がないとか!)でトロンボーンに向いてない可能性はある。

* * *

初心者と違って、吹奏楽やオーケストラの経験があり、楽器の技術をクリアーしている人の場合は、上述とはちょうど逆に当たるのではないかと思います。

2. 3. をクリアーしているが、1. が駄目な人。
まだ自分の好きな音に出会っていないのかもしれない。
自分の心の中の音楽の瓶の中にまだ水が一杯にたまっていないのかもしれない。
いずれにしろ、問題はあなたの音楽を紡ぎ出そうという頭の中にある。

解決策は、ジャズに限らず、いろいろな音楽を聴くこと。
但し自分ならどうするかという能動的な心を持って聴くことでしょうか。
メロディーに心をぴったりと沿わせること。
場合によっては一緒に口ずさんでみること。

読書も、ただ本を読むのと、自分で何か書こうと思って読むのとでは全く読み方が変わる。
音楽も多分同じだと思います。
また、CDだけを聴くのではなく、映像があったほうがいい。
出来ればライブを観に行く方がよいヒントが得られやすいかもしれませんね。

* * *
 
2. が駄目な人。
僕がそうだったので非常に親近感がわきます。
ブラバン出身者にこのタイプは結構います。
結論からいいますと、この能力に欠けている人はその能力を何とかしない限り、ソロイングにおいて常に苦杯をなめることになります。

もしそうなら、自分の能力の欠如と直面する必要があります。
残念ながら、あなたは「オールドタイプ」であるというわけ。
そこをうやむやにしてむやみに楽器の練習をしたり「譜面」で難しい曲の練習をすることは、ある種の欺瞞で、問題の解決には結びつきません。

その能力を持っている人を羨ましがっても無駄です。それは生得の才能ではなく、幼い頃あなたが他の楽しいことで費やした時間と引き換えのスキルなんです。

 重要なのは、今その能力がないことは、今後も期待できないわけではないということ。
よく「10歳までに絶対音感を身につけないとその後は音感が身に付かない」という言葉は、この種の人々を落胆させますが、実際はそうでもありません。
ただ、欠如した能力を涵養する練習は必要です。
ブラスバンドの(そしてビッグバンドの)ルーチン練習にはこの種のトレーニングはありません。
それは、あなたが独りでやらなければならない類の練習なんです。

* * *

考えを変えること。
アドリブは決して選ばれた人間の神との交歓ではありません*3
あなたがアドリブを今できないのは、小さい頃に算数をちゃんとしていなかった人間が経済学とかを勉強しているようなものなのです。
腹くくって、そういう練習をすれば、アドリブ、きっと出来るようになりますよ。

*1:個人的には自分の跳躍力を判断する時にはFreedom Jazz Danceのテーマを試したりもします。不調の時は上手く吹けません。もっとも、この曲のアドリブは、上手くひけません。どうもマイルス的気分を練り上げる際に、ベタな沈黙部分を自分で作って、その沈黙に照れてしまうんですよね

*2:ごくごくまれにこういう人はいます。ですから気を落とす必要はない

*3:尤も、僕がいっているのはBop-idiomによるVertical chord progressionだとか、限定されたフィールドにおける比較的型のはまったアドリブに関しての話です。いわゆるお稽古事レベルのね。世間を一変させるようなソロに必ず含まれている「デーモニッシュさ」はこういった練習では身に付かないような気がします

絶対音感と相対音感―Absolute pitch and Relative pitch

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問:よく「私絶対音感だから…」とか「音感がないからなあ…」という話をすることがあります。楽器を演奏する者同士、そういう話しますよね。
ところで、ジャズするには音感、やっぱり必要なんでしょうか。

絶対音感とか相対音感とか、よく言いますよね。
詳しい語義の定義は専門家に譲るとして、市井のレベルでは

絶対音感」=音を感じるときに実音(in C)での音名が同時に頭に思い浮かぶ状態。
もしくは、鳴っている音の実音を把握できる能力。

とされていると思います。

例えばチューリップの唄:「ドレミ・ドレミ・ソミレドレミレ」を半音上げたら…
レ(♭)ミ(♭)ファ・レ(♭)ミ(♭)ファ・ラ(♭)ファミ(♭)レ(♭)ミ(♭)ファミ(♭)ときこえてしまう。らしい。

「音感」は幼少期の音楽学習で作られることがほとんどで、小さい頃ピアノを習っていた人に絶対音感がある人が多い。
僕は中学からトロンボーンを始めました。
それまで音楽歴はなかったので音感はほとんどなかった。
音を聞いてもそれがどの音かというのはあんまりわからない、うろ覚えのメロディーを吹いたりするのもむずかしかった(高いか低いかはわかる)。

大学に入って軽音に入ってからも、ピアノを習っていた女の子がさっさとソロのコピーとかしているのを横目に、えっちらおっちら時間がかかるし、まぁみじめな思いもしたもんです。*1

僕は音感がないことで、それなりに苦労はしました。
だから、音感がない人はある程度の苦労をするのは間違いない、と思います。

ジャズに音感は必要か?

答え……必要。
会話をするためには耳が聞こえる事が必要なのと同じですね。
ただそれはジャズを始めるときに、それがないと始める資格もない、というものではありません。
楽経験なく、大人から始めた人はその時点では音感がにぶいかもしれません。
しかしトレーニングである程度形成されうるもの。

絶対、相対を問わないのなら「音感」は、肉体競技者の筋力の様なものと考えてよい。
あればあるほど有利だし、自分の目標レベルに到達するための必須条件でもあります。
ただ「天賦の才能」として出来ない人を振り落とすたぐいのものではない。
一から練習し、トレーニングする段階で習得しうるものだと思います。

ただ、僕はプロではないのでその域の保証はできない。
プロミュージシャン、特にスタジオミュージシャンにはつらい気がする。
それから、歌伴はかなり繊細な音感を必要とする気がしますね。

そして、いわゆる「絶対音感」はジャズに必要か?

私の答え……音楽を始めるにあたって「絶対音感」は必ずしも必要ない。
特にいいたいのは「絶対音感しかない」状態はジャズではむしろ役に立たないこと。

絶対音感」「相対音感」という言い方は実は語弊がある。
まるで相容れない二つの「音の感じ方」があるような錯覚を受けるから。
しかし「完全な音感」はそもそも絶対音感相対音感の両方の要素を持ち合わせているものです。

その観点からすると
絶対音感」というのは「相対音感がない状態」、
相対音感」というのは「絶対音感のない状態」
と言い換えることが出来るかもしれない。

身近な人で言えば、大学入学当初は絶対音感に長けていてその後相対音感を補完した人と、最初は相対音感に長けていてその後絶対音感を補完した人がいました。
前者は「俺は絶対音感だ」といい、後者は「僕は相対音感だ」といいながら、実際にはほとんど両者に差はなく実際に発揮する能力はほとんど同じでした。

幼少期からピアノなどをやって、絶対音感が身に付いた人間ではないとジャズはやれないのか?

この命題は明確に否定できます。
ジャズという音楽を始めた人達が、そもそもそうでないから。
ただし、当世のジャズミュージシャンのほとんどがきっちりした音楽教育を受けていることは勘案してもいいかもしれない。
単純に練習時間という意味でも、幼少期は時間がある。
脳もフレキシブルである。
蓄積された時間の優位性は確かにあります。
音楽を始めるスタート地点、早い方が有利なのは確かですよね。

しかし、例えばジャズ研の学生などを見ていても、入部後の「のび」は、入部の時点での音感の有無は余り相関していません。
ピアノやってて音感はあるけど、大してAd-lib上手くならなかった子というのはかなり多い。
一方、音感はないがジャズがめっぽう好きな奴は練習し、苦労はするのだろうが結構ものになる(もちろん、ドロップアウトする奴も沢山いるけど)。

もちろん幼少期から音楽に親しんだ人が、ジャズにハマった場合、とても高く跳び、すんごい領域に飛躍することはあります。
世界レベルのプレイヤーになるには(特にピアノとか)幼少期の蓄積はやはり無視できないとは思いますが、「絶対音感を身に着けているかどうか」という道程は、その後の成功を保証しているわけではないと思います。

特に絶対音感によくいがちな「転調すると気持ち悪い」人、つまり相対音感のない絶対音感者は、特にジャズでは使い物にならない。
頑張って相対音感のトレーニングをした方がいいとさえ思います。

(2006年くらい初稿、2019年改稿)

*1:音楽の初等教育はやはり機会を与えてあげるべきかなあとは思います、その意味では。

Who is the Best Jazz Trombonist ?

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さて、一応ジャズトロンボーン奏者の最高峰というと Jay Jay Johnsonと Curtis Fullerの二人ということになっている。

世間ではそうなってる。これは間違いない事実だ。

ところで、三人目の男は誰か? 
というと これが難しいよね。
 
Slide Hamptonを挙げる人もいるし、Frank Rosolinoかもしれない。
勿論ジャズ黎明期が好きならGlenn Miller,Tommy Dorseyも有り得る。
コンテンポラリーならSteve Turreだろうか、Conrad Herwigだろうか。
少々Funkよりだが、Fred Wesleyも好い。
Jack TeagardenだってUrbie Greenだって、奏者としての実力を言うのならBill WatrousやCarl Fontanaだって考えなければ。

百家争鳴するうちに、満場一致で決まった筈の御大二人に対する疑問も再燃する始末。
実際この二人をトップトロンボーン奏者とする根拠はいささか薄弱な様にも思える。

ヘビーなジャズトロンボーンリスナーの多くはトロンボーン吹きだったりもする。
批評が出来る程度にトロンボーンジャズを聴き比べた人間のほとんどはプレイヤーでもある。
そうすると、リスナー自身のプレイスタイルに評価が影響されてしまう弊がある。
プレイヤーがベストジャズトロンボーンを決めようと試みると我田引水的なバイアスが掛かってしまいがちである。

トロンボーンの両雄

残念ながらJ.J.はつい最近自殺してしまったが、Jay Jay Johnson、Curtis Fullerの二人はデビューしてから現在までおおよそ途切れることなく活動を続け、アルバムも継続して出している。とはいうものの、メジャーなジャズシーンから見れば J.J.は50年代以降はほぼ抹殺されているし、Curtis Fullerにしても60年代以降、第一線から姿を消した。

メジャーなジャズシーン、ジャズ史的な視点では二人はその後いないも同然。
口悪く言えば、結局デビュー当時が一番目立っていたわけである。
その幸福な10年間の後は「昔取った杵柄」的な扱われ方をしていると言えなくもない。

しかしこの「杵柄」が案外大事だ。
他のトロンボーン奏者達は、一瞬でさえも杵柄をとることさえできなかったのだから。

逆に言うと、純粋に作品の質を基準に評価するなら彼らよりも優れた作品を生み出しているトロンボーン奏者は何人も挙げることが出来る。

というわけで、二人が二大トロンボーンと呼ばれているのは、その演奏者としての能力によるよりも、むしろポピュラリティに負うところの方が大きい。
ビバップの時代から一人(J. J. Johnson)、ハードバップの時代から一人(Curtis Fuller)をそれぞれ選出すれば、その結果二大トロンボーンニストができあがる。
逆に言うと世間の人はこの二人以外はそもそも知らない。

確かに、ビバップ時代のJay Jay Johnsonは他の追随を許さなかった。
テクニックも完全に頭抜けていたし、一線級のBopperと共演しうるトロンボーンは彼だけで、完全に独占企業といってもよかった。
ハードバップ時代のCurtis Fullerだって同様で、あれほどアルフレッドライオンに愛されたトロンボーンもいるまい。

実際にJay Jay Johnsonも Curtis Fullerも技術的にすばらしく、完全に技術的な評定でも頂点に君臨する可能性は大きい。
しかし技術的な評価ならもう少し混戦になるはずなのである。
常に彼らが双璧と持ち上げられ、それ以外のトロンボニストが欄外に追いやられている状況はなんらかの理由があると考える。

第三の男

 では、そういう状況に至っている原因は何か、
 そして三人目の男は誰なのだろうか。

ビバップのJ.J.、ハードバップのFullerと同じく「時代と寝た」*1トロンボーン、つまり歴史的な観点で、もう一人を選出するなら、これは間違いなくGlenn Millerであると思う。
黎明期ビッグバンドの巨匠かつ、トロンボーンの長所を押し出したメロディ、タレント性、レコード売り上げ。非ジャズ愛好家の知名度でもグレンミラーは絶大だ。
なにしろ映画にもなっている。

ではなぜ三大ジャズトロンボーンとは言われないのか。

おそらく三番目がGlenn Millerだと、面白くない人がいるからである。

日本のジャズ評論およびジャズ愛好家の多くは『ハードバップ原理主義』であることが多い。『黒人ビッグバンドの上っ面をなでたような』白人ビッグバンド(ベニー・グッドマンを含め)は圧倒的に人気がなく、ジャズとしてすらも見なされていない。グレンミラーなどジャズの巨匠として認めるなど、沽券に関わるのであろう。

黒人が公民権を獲得した後の米国ジャズ評論・ジャズ研究においてもこの史観が優勢である。かつてあれほど隆盛を誇った白人ビッグバンドは、当時の絶大な人気の割には現代冷ややかな評価を受けており、その間には相当な解離がある。当時の社会的な影響力を再考すれば現在のGlenn Millerの評価は不当に低いという気がしないでもないが。

 つまるところGlenn Millerは「スウィング」ではあるが「ジャズ」ではないというところだろう。
 もう一つの理由は、Glenn Millerは器楽奏者としての押し出しが弱いことだ。勿論Glenn Millerもトロンボーンを吹くには吹くが、バンドリーダーとしての意味合いの方が強い。Ad-libなどもほとんど吹いていないし「トロンボーン奏者」という観点で評価するにはちょっと苦しい。

 二大トロンボーンというのも寂しいが、三大トロンボーンというとなるとGlenn Millerははずせない。だが、それは面白くない。サックスみたいに巨匠が10人も20人もいればいいけど、Glenn Millerを越えて取り上げるべきプレーヤーは大していない。

しょうがない。トロンボーンはこの二大トロンボーンでいいだろう。

きっとこんな経緯で永世二大トロンボーンになっているのではないかと私は想像しているのである*2*3

(2000.初稿 最初は読者に問いかけて中途半端に終わっていたのを2018.加筆)

*1:これは主に女性に使われる形容詞ではあるが

*2:あと、ではJJとカーティス・フラーとどっちが上か、みたいな問題、それから本当はもう少し重要視されていいJack Teagardenという問題も残されてはいるが……

*3:最近ではトロンボーン・ショーティーは「時代と寝た」感を醸し出しているように思える。まあショーティーはジャズという枠じゃないですけどね。

コピーが嘘くさい――呪文の詠唱

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飯田橋にて

問:ソロを吹くことになったのですが、アドリブなんて出来ません。しょうがないからCDのフレーズをコピーしたんですけれども、なんか上手く吹けないっていうか、嘘くさいんです。
どうしたらいいでしょうか。

わかる。
めっちゃわかるー。
でも、なぜでしょう?

呪文の詠唱

例えば、ファンタジーの世界で、レベルの低い魔法使いは高いレベルの魔法を唱えられません。
それは、高度な呪文を詠唱出来ないからなんです。
レベルが低いのか、マジックポイント(MP)が足りないのかわかりませんが。


ジャズのアドリブも似たところがあります。
一息で吐けるフレーズの音数は、その奏者の楽器の使いこなすレベルで決まります。
それは画然としているものです。プロミュージシャンの高度に練り上げられたアドリブフレーズは高度な呪文の詠唱と同じで低位の人間にとっては詠唱が困難であります。

 例えば、ブルースの3段目のツーファイブ。
レーシング場でいえば、最終コーナーからホームストレートにさしかかるような部分。
当然大きな見せ場です。
皆ここぞといったきらめいたフレーズを繰り出す。
8分音符を複雑に繋いだフレーズ。
場合によっては16分音符かもしれません。
ひょっとしたら32分音符かも。

高度なプレーヤーがここ一番で、自分の技量を出し切っているような場所、ソロ中の「最大瞬間風速」というべきアドリブフレーズは大変に難しい。

また、トランペット・トロンボーンなど金管では、高い音が出ない、速いフレーズが吹けないとか、そういうのも多い。
これらも物理的にどうしたって吹けない。

吹けるのは吹けるが、うまく吹けないような場合もある。

例えば、息が続かない。
フレーズはそれほど速くなく音域も問題ないのだけれど、1フレーズが長い。
どっかで息継ぎをしないとフレーズを吹ききれない。
これは割とちゃんと楽器を吹ける女の子とか(サックスとか)に多かったです。フレーズをなぞる程度には楽器が上手いんだけども気持ちを込めてダイナミクスつけるには息が足りない。物理的に足りない。

これ、フレーズの字面を真似しても、格好良くない。
元の演奏はあくまで一息で吹ききる意識で演奏してます。
そう吹かないと、どうしても、棒読みになる。
いわゆる「棒吹き」ですね。

練習して補える場合もありますが、本場の、まるで樽のような体の何食ってるかわからへんようなおっさんのソロは物理的に無理な場合もあるわけ。
ピアノの話になりますが、例えばオスカー・ピーターソンは片手で13度まで開くそうです。そんなソロ、普通の東洋人は完コピ無理やん。

逆もあります。160km/hの球を投げられるピッチャーが、120km/hの球を、全力投球のフリして投げても、リアリティがありませんね。
コピー元よりも優れた技能がある場合、それはそれで、やはり不自然なことになります。

結論

体に合っていないソロを無理に演奏しても、不自然です。

ソロは、その人の身体に根ざしたもの。
ですから、別の人間が吹いても、無理がある。
そのソロを吹くには、そのソロを吹いている人間と全く同じ器楽演奏能力をもっていないと、リアリティがでないんです。

ではどうしたら?

それをよく自覚した上でフレーズを組み替えた方がいい。

大事なのはソロの流れです。
プロミュージシャンが吹く「最大瞬間風速」のソロが吹けない場合、どうする?
死に体の譜面づらだけ合わせたフレーズを吹くくらいなら、自分なりの最大瞬間風速を出せるようなフレーズに組み替えて吹いた方が、よほど誠実です。

同じサーキットを走行するにしても、F1マシンにはF1マシンの、市販車には市販車のベストな走行ラインがあるはずじゃないですか。

また超速の曲をちょっとテンポを落として演奏する場合、フレーズの最高速が鈍る代わりに一つ一つのフレーズが長くなり、息が続かないこともある。
こういう場合も、フレーズの組み立てを変える方がいい。
テーマだったら?うーん……そこはがんばりましょう(笑)。

人前でコピーのフレーズを吹くという事自体に疑問はありますが。
少なくともコピーを吹かなければならない場合はこの辺は留意してください。

(Oct,2006初稿 Dec,2018改稿)

目次

これまでの記事のインデックスを作ってみました。
(一部重複しており、重複リンクはカッコで囲んでおきます)
一つ一つの記事がクソ重いので、タブレットかPCを推奨します。
緒言 このサイトをはじめるにあたって: - 半熟ドクターのジャズブログ(はじめに)

アドリブ演奏について(抽象的な話)

ジャズの理論とは - 半熟ドクターのジャズブログ(「理論」)
アドリブの楽しみ方 その1 - 半熟ドクターのジャズブログ(アドリブの楽しみ方について)
アドリブの楽しみ方 その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
アドリブの楽しみ方ーその3 - 半熟ドクターのジャズブログ
「即興」の意味 - 半熟ドクターのジャズブログ(即興の意味論)
アドリブをするときに気をつけなければいけないこと - 半熟ドクターのジャズブログ(アドリブの三要素)
アドリブの構成力と一発力 - 半熟ドクターのジャズブログ(構成力と一発ギャグ)
フレーズの技巧について To use too much technique for phrasing - 半熟ドクターのジャズブログ(フレーズの技巧性)
「使っていい音」について その1 - 半熟ドクターのジャズブログ(使っていい音とは)
使っていい音について その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
使っていい音について その3 - 半熟ドクターのジャズブログ
テクニックと美意識 - 半熟ドクターのジャズブログ(テクニックと美意識)
楽器の技量と音楽の技量と - 半熟ドクターのジャズブログ
デタラメやるメソッド - 半熟ドクターのジャズブログ(デタラメメソッド)
言いたいことだけ言っとくわ。アドリブの練習の要点な。 - 半熟ドクターのジャズブログ
コピー、トランスクライブのススメ。 - 半熟ドクターのジャズブログ
ソロの構成について その1 - 半熟ドクターのジャズブログ(ソロの構成)
ソロの構成について その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
ソロの構成について その3 - 半熟ドクターのジャズブログ

ジャムセッションにおいて、どう考えればいいか:

セッションのロードマップ その1(守) - 半熟ドクターのジャズブログ(セッション守)
セッションのロードマップ その2(破) - 半熟ドクターのジャズブログ(セッション破)
セッションのロードマップ その3ー演奏していない時 - 半熟ドクターのジャズブログ(演奏していない時)
セッションのロードマップーその4(離) - 半熟ドクターのジャズブログ (セッション 離)
セッションのゼロサムと非ゼロサムについて - 半熟ドクターのジャズブログ
セッションのバランシングとマネジメント: - 半熟ドクターのジャズブログ
「シットイン」と「ジャムセッション」の違いとは? - 半熟ドクターのジャズブログ(シットインとセッション)
セッションのこと - 半熟ドクターのジャズブログ (リードソロとそれ以下)
セッションするプロ、しないプロ - 半熟ドクターのジャズブログ

歌伴の時に その1: - 半熟ドクターのジャズブログ(歌伴))
ピッチの話 その3 場末での話 - 半熟ドクターのジャズブログ(ピッチその3))
セッションには行くべきなのか? その1 - 半熟ドクターのジャズブログセッションにいくべきか?)
セッションにはいくべきなのか? その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
練習におけるPDCAサイクル - 半熟ドクターのジャズブログ
縦か、横か - 半熟ドクターのジャズブログ=リズム重視の曲の話)

トロンボーンについて:

ジャズの、というよりは器楽演奏上のことを書いています。
もちろん分け難いものもある。
楽器の技量と音楽の技量と - 半熟ドクターのジャズブログ
The peculiarity of Jazz Trombone - 半熟ドクターのジャズブログ(ジャズの「吹き方」)
ジャズトロンボーンって… - 半熟ドクターのジャズブログ(『アフターダーク』)
呼吸の話 - 半熟ドクターのジャズブログ
ボーカルと私。 - 半熟ドクターのジャズブログ
音程 - 半熟ドクターのジャズブログ
ピッチの話 その1 ピッチの意味論 - 半熟ドクターのジャズブログ(ピッチ)
ピッチの話 その2―ロン・カーター。音程の多義性。 - 半熟ドクターのジャズブログ
ピッチの話 その3 場末での話 - 半熟ドクターのジャズブログ
音量の話 そして音量が関係ない、っていう話 - 半熟ドクターのジャズブログ
速いフレーズを吹くには? その1: - 半熟ドクターのジャズブログ(速いフレーズ)
速いフレーズを吹くには? その2: - 半熟ドクターのジャズブログ
速いフレーズを吹くには? その3: - 半熟ドクターのジャズブログ
速いフレーズを吹くには? その4: - 半熟ドクターのジャズブログ
バラードの難しさとポジションのはなし - 半熟ドクターのジャズブログ
Who is the Best Jazz Trombonist ? - 半熟ドクターのジャズブログ(バラードとコプラッシュ)
トロンボーンのテクニック水準: - 半熟ドクターのジャズブログトロンボーンのテクニック水準)
デタラメやるメソッド - 半熟ドクターのジャズブログデタラメメソッド)
トランスクライブのすすめ その2ートロンボーン編 - 半熟ドクターのジャズブログ
トランスクライブのすすめーその3 - 半熟ドクターのジャズブログ

ジャズと人生

自分はアマチュアなもんですから、アマチュアジャズマンとして、いろいろ思うことを書いています。
プロの人と意見が異なる部分もあろうかと思いますが、ご容赦ください。時事ネタも多少ここにあげます。
ヒゲとボインとギター - 半熟ドクターのジャズブログ(トリレンマ)
バランス感覚 - 半熟ドクターのジャズブログ (バランス)
上達の意味とは その1 - 半熟ドクターのジャズブログ(上達する意味とは)
上達する意味とは その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
練習と貯金 - 半熟ドクターのジャズブログ(練習と貯金)
練習と貯金 その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
吹奏楽の桎梏〜ブラバン出身プチ侍の行く末 その1 - 半熟ドクターのジャズブログ吹奏楽出身者がアドリブにいきにくい話)
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セッションするプロ、しないプロ - 半熟ドクターのジャズブログ
ストリーミング時代に『好き』を貫くのは難しい - 半熟ドクターのジャズブログ
Youtube時代にジャズはどう変化するか その1 - 半熟ドクターのジャズブログ
Youtube時代にジャズはどう変化するか その2ー教則動画編 - 半熟ドクターのジャズブログ

練習のやり方の話、自宅学習の話。

人間のやることは大体同じだと思っているので、世の中のビジネス書とか
自己啓発本の要素も、音楽道に活かせると思っています。
セッションには行くべきなのか? その1 - 半熟ドクターのジャズブログ(セッションにいくべきか?)
セッションにはいくべきなのか? その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
練習におけるPDCAサイクル - 半熟ドクターのジャズブログ
インプットとアウトプット - 半熟ドクターのジャズブログ
どの曲から始める? その1 初学者の場合 - 半熟ドクターのジャズブログ(どの曲から始める?)
どの曲を始めるべきか? その2 レパートリーを増やす - 半熟ドクターのジャズブログ
どの曲からはじめる? その3:調性 - 半熟ドクターのジャズブログ
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コピーが嘘くさい――呪文の詠唱 - 半熟ドクターのジャズブログ(コピー譜の練習法)
コピーの功罪 - 半熟ドクターのジャズブログ(コピーの功罪について)
曲をこなせるようになる、というのはどういうことか考えてみた。 - 半熟ドクターのジャズブログ
レッスン、そしてセッション。 - 半熟ドクターのジャズブログ(感想と備忘録)
コピー、トランスクライブのススメ。 - 半熟ドクターのジャズブログ(トランスクライブ)
トランスクライブのすすめ その2ートロンボーン編 - 半熟ドクターのジャズブログ
トランスクライブのすすめーその3 - 半熟ドクターのジャズブログ

記譜について: - 半熟ドクターのジャズブログ(記譜:リードシート)
記譜について その2 - 半熟ドクターのジャズブログ(記譜:変則した小節の場合)
記譜について その3 - 半熟ドクターのジャズブログ(記譜:トランスクライブの場合)
絶対音感と相対音感―Absolute pitch and Relative pitch - 半熟ドクターのジャズブログ絶対音感相対音感
音感の確認 Troubleshooting for Improvisation - 半熟ドクターのジャズブログ(音感のトラブルシューティング
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練習と貯金 その2 - 半熟ドクターのジャズブログ
コピー、トランスクライブのススメ。 - 半熟ドクターのジャズブログ コピー・トランスクライブのススメ)

フロントが複数いる時のオブリガードは? (歌伴の時に 番外編)

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前回、歌伴の話
https://jazz-zammai.hatenablog.jp/archive/2018/11/15
を書いたわけです。
これはこれで、もう少し具体例を提示しようと思っていたんですが、一回お休み。
フロントが二、三人いる時に、どう演奏すべきか、書いてみます。
前回の歌伴の時の考えの延長なものですから。

(以前にセッションのことというのも書きました。)

フロントとは

フロント、というとわかりにくいんですが、リズムセクションではない、ソリスト楽器、ということになりましょうか。

いわゆる「管楽器」はフロント楽器と言っていいでしょう。

むずかしいのがギター。
ギターは、ピアノレスではコード楽器として振る舞うし、ピアノがバッキングで、純粋にフロント楽器のように振る舞うこともある。
もちろん、ピアノとギターでコード楽器として伴奏を分担することもあります。
このあたりの機微は非常に難しい。
ジャムセッションなど初対面でピアノとギターの役割分担がうまくでき、なおかつ、ギターもピアノもお互いにスペースを譲り合って紳士的にサウンドを形成できる人は、相当な上級者といってもいいと思うくらいです。

ギターは多様なスタイルを取りうる自由度の高い楽器だといえますが、その分、自分のスタイル、立ち位置、見識が問われる。
自分の出す音、だけではなく全体のサウンドをきちんと捉えた上で、自分のサウンドを形作れる演奏が、個人的には好みです。
*1

* * *

話がそれました。
フロントが複数いる場合、ジャムセッションなどで事前に綿密な取り決めをしない場合*2、基本的にはテーマのメロディーを吹く人が、明示しないまでも「リーダー」的な役割をになうことになり、全体の流れを指示します。
*3

この時にそれ以外のフロント楽器奏者はどうするべきか。
よくあるのが、テーマを前半・後半半分に割ってテーマを吹く人を分けるパターン。
それ以外の場合はなんとなくオブリガードを二番手の人が吹く、というやつですね。
このときですが、オブリガードを誰かが吹くと、「あ、ここは吹いていいんだ」みたいに、また別の人もオブリガードに参加する、
みたいなことがセッションではしばしばあります。*4
吹くべき、吹かないべき、ということを、他人の様子をみて日和見的に決めている人は、よくこういうことをする。

我々には「群れとして行動する」習性があります。
たとえば、信号待ちをしている時に、誰かが渡り始めたらぼんやりとみんな追随しちゃう、みたいなことが起こる。
そういう習性として、この行動には理解ができます。
ただしサウンドとしては容認できないことが多い。
オブリガードが二重になると、それぞれのフレージングが干渉して邪魔をします。
結果吹かないほうがましになります。

さらにいうと、ピアノやギターのリズムセクションがオブリガードをとることもある。
フロント楽器とピアノOrギターがオブリガードで干渉するのも、美しくない光景です。

こういうときに、サウンドを濁るのを嫌う人は吹くのをやめるわけで、結果として「悪貨は良貨を駆逐する」もしくは「言うたもん勝ち」方式で、美しくないサウンドになってしまうことが多い。
セッションという形式どうしても好きになれない人は、ここが容認できないっていう意見、根強くあります。

もちろん、すべての曲で、整合性や美しさを追求しなくてもいいんじゃないか楽しくやろうや、という考えもあります。
ジャムセッションは偶然性の音楽なので、時にはカオスがあったり、カオス、喧騒の中にある美もあるでしょう。
盛り上がる部分では、ある程度容認されると思いますし。デキシーランドの現代的な再構築、みたいな複数のオブリガードラインの錯綜を楽しむようなものもあると思います。

ただ、サウンドを美しく保つための共通認識は知っておいたほうがいいと思います。*5*6

* * *

あくまで、本日の内容は、一つの「形式」にすぎません。
こういう予定調和を、わざと無視するというのも、一つのスタイルだと思います。
確信犯でやっているのは、ありだと思う。
でも「僕マナー守ってるもんねー」と思ってマナー守れていないのは、端的にいうとダセえ。
アウトフレーズを吹くのはOKでも、音外してるのはかっこわるいじゃないですか。
それに、これはマナーという礼儀作法だけでなく、美意識という普遍的な問題でもあります。

まとめ:

  • オブリガードを吹く人は原則として一人。
  • テーマにオブリガードが入ったからといって、別のもうひとりがさらに別のオブリガードに加わるのは禁忌行為。
  • オブリガードを吹くときには、全体のサウンドをよく注意する。

ま、セッションって、基本、吹きすぎ、弾きすぎが多いよね。
自戒をこめて。

*1:ギターとピアノの関係性はまたこんど。

*2:バンドの場合は、事前にトリッキーな展開を決めておくことは十分可能で、それこそがバンドの醍醐味だとは思います

*3:歌もののようなテーマフェイクがある程度入るような場合は、この図式が成り立ちますが、問題はConfrimationとかビバップの曲。全員がテーマユニゾンするような状態は、また難しいですね。これもまた別稿で。

*4:これほんと多いんですよ!

*5:この種の衝突を避けるために、セッションホストが登壇する人数をコントロールして、そもそもフロント奏者を一曲辺り二人くらいまでしかあげないところもあります。まあ、妥当な戦略です。

*6:あとはボーカル歌伴と同様、白玉=吹き伸ばしでたとえば八段の歌ものであれば34段、78段目にちょこっと参加するとかの「オブリガード2」とでもいうべき立ち位置。これはオブリガードもメロディーも邪魔しません。トロンボーンの場合はそういうサウンドへの参加もありえると思います。