半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

菊地成孔『憂鬱と官能を教えた学校』

 後輩の結婚式がありまして、のこのこと大阪に出てきて、街を見物していましたら、ええと、そごうとかありますよね。心斎橋の、その上の方、最上階の飯屋の一つ下のあたりまでよちよち登ってみますれば、大のオトナが童心に返りなはれ的、もうすこしわかりやすくいうとAlways3丁目の夕日のような、昭和懐古的デザインで統一された一角があった。ラーメン博物館のようなテーマパーク状態で、新しい店先なのにどことなくおばあちゃんの服の様な匂いがするそこは、和紙だとか、着物の人がもつハンドバックだとか、絣の着物だとか、そういう昔的なアイテムを売る店の並ぶ横町。雰囲気を出すためか、「赤玉ポートワイン」のポスターとか貼ってあったりするわけね。まあ雑誌のサライとかラピタを具現化したようなものだと思いねえ。で丸善も調子に乗ってそういう一角に本屋、文具屋などを構えていた。蒔絵万年筆20万円也などに気を惹かれつつ、そこの本屋で前から欲しかったこれを購入。結婚式に行く前に荷物増やしてどうすんだ俺(声はオダギリジョーで)的な感じ。

憂鬱と官能を教えた学校

憂鬱と官能を教えた学校

 ひと言でまとめますと、音楽に関する『文学部唯野教授』のような本。

 あれは筒井の創作だが、これは現実。しかし、本当に唯野教授が講義をしているような感じ。

 全編話し言葉で通されてるのは予想外だった。

 僕はジャズ畑から音楽をのぞいていますが、今や田舎のジャズ愛好家程度からうかがえる視野にとっては、バークリー・メソッドはいわば"セントラル・ドグマ"そのものなんですよね。もう、絶対視。

 しかし、菊地はバークリー・メソッドを相対化する視座を持っていて、バークリー・メソッドの思想的背景とか、歴史的な展開を解説してくれるので、今までもやもやしていた部分が解決し非常に得心しました。ジャズの中でバークリー原理主義者と触れ合っている中では得られない知的興奮がある。

 バークリー・メソッドの紹介としても非常にわかりやすい。メソッドそのものは理論書を読まないといけないけれど、例えばジャズ研の学生など、一度はこのバークリーメソッドを囓ったことがあると思いますが、そのめんどくささに放り出してしまった人間にとっては理解のガイドになるような気がします。

 それから、リズムに関する概説。自分は医家としてリズムやグルーブについて一考したことがあり、一部本サイトにも書いたこともある(http://www.geocities.jp/halfboileddoc/jazz/06-01groove.html)が、文化人類学的なアプローチであり、これは菊地がずっと試行錯誤している成果なんでしょうけど、非常に面白かった。

 ¥3500もする本で、完全に溢れた本棚のなか、どこに置こうか置き場所にも難渋していますが、これは確かに良書だ。我が買書人生に、一片の悔い無し!