半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

アドリブの構成力と一発力

f:id:hanjukudoctor:20170528084942j:image:right

アドリブってどうやるの?という後輩からの問いに対して、今まで自分なりに自分の方法論を伝えたりした時期もありましたが、ここにきて、大きな要素を見落としていたことに気が付いた。

 自分は昔コード感を出したメロディメイクがきわめて苦手だった。音感のない、センスのない野郎だったのだ。地道な練習でなんとかそれを克服し、獲得したスキルであるがゆえに、私はコード感をつけるということを逆に偏重していたような気がする。

 でも、コード感だけで「そこにはまった音」を置いていくだけでは、魅力に欠けたり、地味だったりする。ある程度コード感関係なしに放たれる「強度を持ったフレーズ」も重要な要素ではないか。ハイノートしかり、定番ベタネタファンキーフレーズしかり。

 たとえば、お笑いでいうと、「漫談における話の構成力」と「一発ギャグ」とは全く相反する要素である。

構成力の観点からは一発ギャグというものは異質で理解不能な要素であり、一発ギャグの観点からは構成力というのは笑いに直結しがたい理解しにくい部分であろうと思われる。要するにこの二つの要素はx軸とy軸のように独立した次元のものなのだ。

すぐれたお笑いはその両者の要素がバランスよくブレンドされている。しかし各人によってその両者の要素のバランスは異なる。

 おそらくジャズのアドリブも然り。

 * * *

理解しやすくするために、ラーメンズのお二人を例示してみよう。

小林賢太郎片桐仁

コンビで対照的な立ち位置を形成し、成功している二人だ。

まず小林賢太郎だが、ラーメンズの緻密コントは彼の筆によるわけで、かれはいうまでもなく「構成力」に強いタイプといえる。参考までに ラーメンズ「レストランそれぞれ」のコントをあげておこう。緻密な文脈形成能力がうかがえる。


ラーメンズ『CHERRY BLOSSOM FRONT 345』より「レストランそれぞれ」

一方、片桐仁だ。構成力に関してはあまり強いとは言えないものの、フィジカルに強く、動物的勘にすぐれた「一発ギャグ」の破壊力は他にはない魅力がある。彼をフィーチャリングしたコント「タカシととうさん」をあげておこう。緻密な構成はそこにはなく、一発フレージングの強度に依存したコントであるが、これはこれでものすごく面白い。


ラーメンズ たかしと父さん 1/2


ラーメンズ たかしと父さん 2/2 

 

志村けんのギャグも「外人や子供にもわかるギャグ」と言われるけれども、おそらく彼も「一発ギャグ力」に強い系譜で、これも強度が強いフレージングゆえの吸引力だろうと思われる。

 * * *

 私は長らく小林賢太郎的な要素が好きで、アドリブフレージングの方法論かくあるべしと思っていた。しかし自分のアドリブの「ひきの弱さ」みたいなものも昔から痛感していた。それは単に自分の力不足と考えてたわけだけれども、要するに、真髄の片側しかみていなかったからかもしれない。

 私の好きなミュージシャンは、例えばアートファーマーだ。ああいうそろりと語り、歌うソロが目標なのだ。そういう自分からすると、メッセンジャーズのリーモーガンのフレーズとかは「かっこいいんだけど…あれはね…」みたいな態度をとらざるをえず、今一つ咀嚼できていなかった。

 アートファーマーの構成力は好きだったけど、リーモーガンのフレージングは一発ギャグ的で、それゆえに咀嚼しきれなかったんだと思う。*1

 大学の軽音時代に、片桐仁的な一発ギャグ的な要素を重視したフレージングにたいして、私はあまり理解を示さなかったことを後悔している。今思えばそれも大事なことだし、そっちからアドリブの世界に入っていくのも、ありだよなあと最近は思う。後輩達に対して、ネガティブな影響をおよぼしたのではないかと、今冷や汗を垂らしているところなのである。

(この話は2014くらいにSNSに書いたものを再掲)

*1:もっとも、コピーはそれなりにはした。多分暗黙知で必要性を感じていたんだろうね