半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

練習と貯金

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(この原稿も2006年初稿を書き直したものです)

 大学生の時、いわゆるジャズ研*1に所属していた。結果的に7年も在籍したせいで後輩や先輩の成長、失敗、ドロップアウトなど多数見たが、人の行く末など大体決まったパターンに集約される。ちょうど我々の人生のバリエーションがそれほど多くない一定のパターンに収斂されるのと同じように。

 うまくなる人、うまくならない人。うまくなっても今ひとつ満足度が得られない人、ある程度充実した学生生活を確信して去って行く人、突き抜けてプロ活動を行う人、様々な人がいた。ところで、こうした数多ある経過の中で、どういった状態が「正解」なんだろうか?*2

経験者と初心者

 管楽器については吹奏楽部の「経験者」が往々にして伸び悩むのが一定数いる。では経験者がだめで初心者が幸せかというと、そうでもない。

 トロンボーンはどちらかというと敷居が高い。音を出すだけでも腹立つほど時間がかかる。ジャズでは他の楽器より不利な点もある。他の楽器のフレーズをトロンボーンに引き写す(transcribabilityとでもいいましょうか…)面では、不利で、上手な楽器演奏者にとっても簡単なことではない。

 やりたい事を実現するのには楽器の演奏能力は高いにこしたことはない。高い楽器の演奏能力は選択肢に幅があることを意味する。でも楽器の演奏能力さえ高ければ、即幸福につながるわけでもないのだ。

楽器演奏のマネープラン

楽器の演奏能力を、金額みたいなものと考える。

  • 楽器がうまい人は、沢山お金を持っている状態、楽器が下手な人はお金がない状態です。
  • お金が沢山あると色んなものが買える。
  • お金を増やすためには、練習をして、楽器がうまくなる必要がある。

 楽器経験者は、入学当初からある程度の所持金を持っている状態、初心者は所持金がない状態。

 所持金がないとお金は使えない。ほしいものがあればアルバイトしてお金を貯めるように、やりたいサウンドがあれば練習で自分の「所持金」を増やす必要がある。カーティス・フラーのファイブ・スポット・アフター・ダークやりたいなと思っても、最初はそんなの吹けません。まず初心者は基礎練習をして楽器能力を高める、つまりお金を貯めるところから始めなければなりません。

 但し、お金を貯める作業=練習は必ずしも楽しいものではない。少なくとも消費の快楽を知らないでお金を貯める作業は、そうそう長い間耐えうるものではありません。

 練習を継続することに慣れない初心者は、この段階でまず脱落することがある。お金を貯めて、使って、というサイクルは「苦→楽」という順番だが、最初の「楽」を迎える前にモチベーションを失って失速してしまうことはよくあるから。

 こうした事態には二つの理由があって、一つは、努力の割にはお金が貯まらない場合。これは本人の問題。もう一つは適切な「消費」の場がない場合。これは場、つまりジャズ研とか先輩とか、ライブとかコンサートとか。ある種環境の問題かもしれない。

 いずれにしろ、レベルの大小を問わず消費(あくまでも、音楽的な消費、という意味です)の快楽を早期に経験することは重要だろう。発表会とか、いわゆるD軍とか。練習→発表のサイクルはこまめに回した方がいい。

 で、こういうサイクルに乗れない新人はどうすべきか?この場合は早めに手を引く方が正解。こういう新入生を無理に引き留めると、本人のためにもよくない。本人の粘り強さにもよりますけれども、そもそもジャズ研だけが人生ではない。冷静に考えると、世の中楽しいこと有意義なことは他に沢山あるから。

 もちろん楽器経験者だって、入部当初から何でも買えるほどお金を持ってる人は少ない*3。今の所持金では買えないものを買うために、練習で所持金を増やすことは必要だ。但し経験者は練習→成果を発表するというサイクルに慣れている。だからお金を増やすことは本人の自主性に任せていいと思う。

 むしろ彼らに問題になってくるのは「お金の使い方」です。この世界では、お金を稼ぐのと同様お金を使うのにもコツが必要ですから。

 ところで、「不幸」とはなんでしょうか?

*1:正確には軽音楽部ジャズ。医学部のクラブではなく全学部の部活であったため、各学年20-40人くらいいて、部員総数は100人を超えるような団体だった。

*2:大学のジャズ研は、音大ではないので、職業音楽家を多数輩出することだけが求められるアウトカムではない。今社会人になって思うのは、大学の部活はある種の教養=趣味の生涯学習のきっかけを提供するのが真の目的ではないかと思う。

*3:ごくまれにいる