歌伴の時に その1:
問:
フロント楽器で歌の伴奏をする時の、コツや注意点はありますか?
私は、歌の伴奏をするのが大好きなんですが、歌伴には歌伴独特の美学があると思っています。
かなり優れたソリストなのに、歌伴では利己的な演奏で、歌の良さを殺してしまうような演奏を目にすると、悲しくなってしまいます。
個人的な好みではありますが、
私が気をつけていることを列挙してみます。
一番大事なこと:
もっとも大事なこと。
歌の伴奏は「歌を引き立てる」ためにあるのであり、自分が目立つためではない……
と、いうこと。
もちろん、自分のスペースでは、目立っていいとは思います。
ですが、あくまでボーカルが主であります。
特にボーカルが歌っている時は、ボーカルがよりよく聴こえるように振る舞うことが望ましい。
トロンボーンという楽器はワンホーンで演奏するよりは、二管、三管で演奏し、二番手以降の立ち位置が多い。
ですからボーカルの伴奏で、一歩下がって演奏することに関しては、割と体得しやすいんじゃないかと思います。
「はべり(侍り)」慣れしてる、といいますかね。
逆に、空気でも吸うかのように自分が演奏の中心であるかのように振る舞う人は、サックス、ラッパの人に一定数います*1。ある種のジャイアニストね。
僕らからしたら、
「そのメンタルすげーなー」
「末っ子か!」
「独りっ子か!」
とか思っちゃいますけど。
そういう人って、ムッとするくらいあからさまに指摘しないと自分がそういう振る舞いしていることに気づいていないんですよね。
* * *
ボーカルを遮ったり、掛けた梯子を外したりして、ボーカルを「つぶす」ような演奏は、簡単にできてしまいます。
そういう「いけない行動」をしないようにするだけで、歌伴については上手になるんじゃないか、と思います。
歌と掛け合いをすること
歌のオブリガードをする時に、本当にただ、自分のオープンなアドリブと同じように、歌と関係なしに音をだしている人がいます。
これは、「ボーカルつぶし」の典型です。
メロディーに近いところでフロント楽器に音をだされると、ボーカルは歌えません。
あまつさえ、メロディーの音とかぶってしまったら……
端的にいって、死刑です。
ではどうするか。
ボーカルを聴けばいいんです。
そもそもボーカルは、譜面の半分くらいしか歌っていません。
ですからデッドポイントともいうべき、ボーカルが歌っていない部分が必ずあります。
それが、歌伴が力を発揮するスペースです。
まず第一歩は、このスペースで、フレーズを吹くことを心がけてください。
そうするだけでボーカルに対して、掛け合いのようになります。
これが、歌伴にとって、まず必要なスキルです。
歌伴に限らず、セッションで2管以上いる場合に、オブリガードを吹く時にも当然必要なスキルです。
これが出来るためには、任意のスペースに対して収まりのいいフレーズを入れるスキルが必要です。
ツーファイブのフレーズブックなどからアドリブを習得した方の中には、大きなツーファイブワンの部分しかフレーズを作れない人がしばしばいます。そういう人は、アドリブソロでフレーズの吹き始めと吹き終わりの位置が何コーラスしても変わりません。
そういうソロは一見複雑なフレーズを繰り出しているようにみえても、単調な、退屈なソロになります。
「なんかあの人難しそうなこと喋ってはるわ…」
だけど、実は話してる内容は本とかの受け売りで、中身はスカスカ、みたいなもんですね。
歌に沿わせる
ただし、歌伴で、常にボーカルのデッドの部分にだけフレーズをはめるのも、やはり単調なものです。
時には、ボーカルが歌っている部分に、音を重ねる、など変化をつけてみることも大事です。
この場合、ボーカルを邪魔しないように、ロングトーンみたいな(白玉)音を伸ばしたフレーズにするか、
ボーカルの歌い方をよくよく聴いていて、ボーカルと同じリズムで、3度もしくは10度でハモるとか、そういうことをしてもいいでしょう。
それから、吹かない、という選択肢もすごく大事です。「休符」も選択肢の一つのカードとして使ってみましょう。
上記を組み合わせる。たとえばAメロでは ボーカルと掛け合いを行い、Bメロでは、ボーカルの背後で白玉を鳴らす、もしくはボーカルのフレーズにハモる、など、サウンドに変化を付けましょう。
ボーカルの歌伴は、全体をアレンジして、盛り上げるところを盛り上げ、落とすところを落とし、起承転結を作るイメージが大切です。
こういうのを習得するためにはジャズだけじゃなくてポップスの歌モノとかもすごく勉強になります。
歌謡曲だっていいんです。
ボーカルのメロディーに対してどのようなバッキングがなされているか。
いい曲、いいアレンジでは、Aメロ B メロ、サビ、セクションによって、カラフルにサウンドが変わります。
それはジャズでも同じです。ジャズのピアノトリオをバックにボーカルというシンプルな編成でも、
優れた伴奏はやはりボーカルに対しカラフルなサウンドの選択肢を駆使して起承転結をつけます。
そういうのは、そういう意図を持って聴かないと身につきません。
*1:上手い下手は関係なく、います。