半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

コピーが嘘くさい――呪文の詠唱

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飯田橋にて

問:ソロを吹くことになったのですが、アドリブなんて出来ません。しょうがないからCDのフレーズをコピーしたんですけれども、なんか上手く吹けないっていうか、嘘くさいんです。
どうしたらいいでしょうか。

わかる。
めっちゃわかるー。
でも、なぜでしょう?

呪文の詠唱

例えば、ファンタジーの世界で、レベルの低い魔法使いは高いレベルの魔法を唱えられません。
それは、高度な呪文を詠唱出来ないからなんです。
レベルが低いのか、マジックポイント(MP)が足りないのかわかりませんが。


ジャズのアドリブも似たところがあります。
一息で吐けるフレーズの音数は、その奏者の楽器の使いこなすレベルで決まります。
それは画然としているものです。プロミュージシャンの高度に練り上げられたアドリブフレーズは高度な呪文の詠唱と同じで低位の人間にとっては詠唱が困難であります。

 例えば、ブルースの3段目のツーファイブ。
レーシング場でいえば、最終コーナーからホームストレートにさしかかるような部分。
当然大きな見せ場です。
皆ここぞといったきらめいたフレーズを繰り出す。
8分音符を複雑に繋いだフレーズ。
場合によっては16分音符かもしれません。
ひょっとしたら32分音符かも。

高度なプレーヤーがここ一番で、自分の技量を出し切っているような場所、ソロ中の「最大瞬間風速」というべきアドリブフレーズは大変に難しい。

また、トランペット・トロンボーンなど金管では、高い音が出ない、速いフレーズが吹けないとか、そういうのも多い。
これらも物理的にどうしたって吹けない。

吹けるのは吹けるが、うまく吹けないような場合もある。

例えば、息が続かない。
フレーズはそれほど速くなく音域も問題ないのだけれど、1フレーズが長い。
どっかで息継ぎをしないとフレーズを吹ききれない。
これは割とちゃんと楽器を吹ける女の子とか(サックスとか)に多かったです。フレーズをなぞる程度には楽器が上手いんだけども気持ちを込めてダイナミクスつけるには息が足りない。物理的に足りない。

これ、フレーズの字面を真似しても、格好良くない。
元の演奏はあくまで一息で吹ききる意識で演奏してます。
そう吹かないと、どうしても、棒読みになる。
いわゆる「棒吹き」ですね。

練習して補える場合もありますが、本場の、まるで樽のような体の何食ってるかわからへんようなおっさんのソロは物理的に無理な場合もあるわけ。
ピアノの話になりますが、例えばオスカー・ピーターソンは片手で13度まで開くそうです。そんなソロ、普通の東洋人は完コピ無理やん。

逆もあります。160km/hの球を投げられるピッチャーが、120km/hの球を、全力投球のフリして投げても、リアリティがありませんね。
コピー元よりも優れた技能がある場合、それはそれで、やはり不自然なことになります。

結論

体に合っていないソロを無理に演奏しても、不自然です。

ソロは、その人の身体に根ざしたもの。
ですから、別の人間が吹いても、無理がある。
そのソロを吹くには、そのソロを吹いている人間と全く同じ器楽演奏能力をもっていないと、リアリティがでないんです。

ではどうしたら?

それをよく自覚した上でフレーズを組み替えた方がいい。

大事なのはソロの流れです。
プロミュージシャンが吹く「最大瞬間風速」のソロが吹けない場合、どうする?
死に体の譜面づらだけ合わせたフレーズを吹くくらいなら、自分なりの最大瞬間風速を出せるようなフレーズに組み替えて吹いた方が、よほど誠実です。

同じサーキットを走行するにしても、F1マシンにはF1マシンの、市販車には市販車のベストな走行ラインがあるはずじゃないですか。

また超速の曲をちょっとテンポを落として演奏する場合、フレーズの最高速が鈍る代わりに一つ一つのフレーズが長くなり、息が続かないこともある。
こういう場合も、フレーズの組み立てを変える方がいい。
テーマだったら?うーん……そこはがんばりましょう(笑)。

人前でコピーのフレーズを吹くという事自体に疑問はありますが。
少なくともコピーを吹かなければならない場合はこの辺は留意してください。

(Oct,2006初稿 Dec,2018改稿)