半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

絶対音感と相対音感―Absolute pitch and Relative pitch

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問:よく「私絶対音感だから…」とか「音感がないからなあ…」という話をすることがあります。楽器を演奏する者同士、そういう話しますよね。
ところで、ジャズするには音感、やっぱり必要なんでしょうか。

絶対音感とか相対音感とか、よく言いますよね。
詳しい語義の定義は専門家に譲るとして、市井のレベルでは

絶対音感」=音を感じるときに実音(in C)での音名が同時に頭に思い浮かぶ状態。
もしくは、鳴っている音の実音を把握できる能力。

とされていると思います。

例えばチューリップの唄:「ドレミ・ドレミ・ソミレドレミレ」を半音上げたら…
レ(♭)ミ(♭)ファ・レ(♭)ミ(♭)ファ・ラ(♭)ファミ(♭)レ(♭)ミ(♭)ファミ(♭)ときこえてしまう。らしい。

「音感」は幼少期の音楽学習で作られることがほとんどで、小さい頃ピアノを習っていた人に絶対音感がある人が多い。
僕は中学からトロンボーンを始めました。
それまで音楽歴はなかったので音感はほとんどなかった。
音を聞いてもそれがどの音かというのはあんまりわからない、うろ覚えのメロディーを吹いたりするのもむずかしかった(高いか低いかはわかる)。

大学に入って軽音に入ってからも、ピアノを習っていた女の子がさっさとソロのコピーとかしているのを横目に、えっちらおっちら時間がかかるし、まぁみじめな思いもしたもんです。*1

僕は音感がないことで、それなりに苦労はしました。
だから、音感がない人はある程度の苦労をするのは間違いない、と思います。

ジャズに音感は必要か?

答え……必要。
会話をするためには耳が聞こえる事が必要なのと同じですね。
ただそれはジャズを始めるときに、それがないと始める資格もない、というものではありません。
楽経験なく、大人から始めた人はその時点では音感がにぶいかもしれません。
しかしトレーニングである程度形成されうるもの。

絶対、相対を問わないのなら「音感」は、肉体競技者の筋力の様なものと考えてよい。
あればあるほど有利だし、自分の目標レベルに到達するための必須条件でもあります。
ただ「天賦の才能」として出来ない人を振り落とすたぐいのものではない。
一から練習し、トレーニングする段階で習得しうるものだと思います。

ただ、僕はプロではないのでその域の保証はできない。
プロミュージシャン、特にスタジオミュージシャンにはつらい気がする。
それから、歌伴はかなり繊細な音感を必要とする気がしますね。

そして、いわゆる「絶対音感」はジャズに必要か?

私の答え……音楽を始めるにあたって「絶対音感」は必ずしも必要ない。
特にいいたいのは「絶対音感しかない」状態はジャズではむしろ役に立たないこと。

絶対音感」「相対音感」という言い方は実は語弊がある。
まるで相容れない二つの「音の感じ方」があるような錯覚を受けるから。
しかし「完全な音感」はそもそも絶対音感相対音感の両方の要素を持ち合わせているものです。

その観点からすると
絶対音感」というのは「相対音感がない状態」、
相対音感」というのは「絶対音感のない状態」
と言い換えることが出来るかもしれない。

身近な人で言えば、大学入学当初は絶対音感に長けていてその後相対音感を補完した人と、最初は相対音感に長けていてその後絶対音感を補完した人がいました。
前者は「俺は絶対音感だ」といい、後者は「僕は相対音感だ」といいながら、実際にはほとんど両者に差はなく実際に発揮する能力はほとんど同じでした。

幼少期からピアノなどをやって、絶対音感が身に付いた人間ではないとジャズはやれないのか?

この命題は明確に否定できます。
ジャズという音楽を始めた人達が、そもそもそうでないから。
ただし、当世のジャズミュージシャンのほとんどがきっちりした音楽教育を受けていることは勘案してもいいかもしれない。
単純に練習時間という意味でも、幼少期は時間がある。
脳もフレキシブルである。
蓄積された時間の優位性は確かにあります。
音楽を始めるスタート地点、早い方が有利なのは確かですよね。

しかし、例えばジャズ研の学生などを見ていても、入部後の「のび」は、入部の時点での音感の有無は余り相関していません。
ピアノやってて音感はあるけど、大してAd-lib上手くならなかった子というのはかなり多い。
一方、音感はないがジャズがめっぽう好きな奴は練習し、苦労はするのだろうが結構ものになる(もちろん、ドロップアウトする奴も沢山いるけど)。

もちろん幼少期から音楽に親しんだ人が、ジャズにハマった場合、とても高く跳び、すんごい領域に飛躍することはあります。
世界レベルのプレイヤーになるには(特にピアノとか)幼少期の蓄積はやはり無視できないとは思いますが、「絶対音感を身に着けているかどうか」という道程は、その後の成功を保証しているわけではないと思います。

特に絶対音感によくいがちな「転調すると気持ち悪い」人、つまり相対音感のない絶対音感者は、特にジャズでは使い物にならない。
頑張って相対音感のトレーニングをした方がいいとさえ思います。

(2006年くらい初稿、2019年改稿)

*1:音楽の初等教育はやはり機会を与えてあげるべきかなあとは思います、その意味では。