テクニックと美意識
「早いフレーズの吹き方」という項では、早いフレーズの吹き方のコツなどを書きました。
jazz-zammai.hatenablog.jp
速いフレーズを吹くには? その2: - 半熟ドクターのジャズブログ
速いフレーズを吹くには? その3: - 半熟ドクターのジャズブログ
速いフレーズを吹くには? その4: - 半熟ドクターのジャズブログ
ここではトロンボーンのテクニック水準の向上ということを書いてきたわけですけれども、
その一方、テクニックだけつけてスラスラ吹くことが、いい演奏に直結するわけじゃない。
いやむしろそうすることがよくない結果をうむ場合だってあるわけです。
バリバリと吹いて、速いフレーズ、高い音を見せつけるような演奏は、自己を顕示する意味では非常に有効なわけでありますが*1、
しっとりとした部分で、音数を選んだ「清楚」でクールなフレージングを施した演奏も、やはり心地よいものです。
お金の話だと、よくわかりますね。
成金の派手な格好よりも、TPOに合っている清楚でシックな着こなしが心に迫ることもある。
清貧の思想。金閣寺よりも銀閣寺なわけですよ。
フレージングについても、同様のことは言えます。
もちろんTPOはあると思いますけど。
* * *
ライブでよくあるのは、例えば、自分の前のソリストがむちゃくちゃ盛り上げたソロをとった場合。
それを引き継いでソロをとるとき。
これは、自分のソロも、多少熱を入れて「Hotな」ソロをやった方がいいでしょうね。
「イェーイ!!」って盛り上がっている人に対しては、自分の気持ちがそこまでもりあがっていなくても、ある程度「イェーイ!」と返した方がいい。ま、これはある種、宴会のお作法のようなものです。聴衆もそれを求めている。
もちろん、あえて対比をつけて、めちゃクールで緊張感のあるソロ、そう、マイルスのように演奏する手もあります。
が、それは結構難しいです。
受け取られ方としても、技術的にも。
その場合は、リズムセクションのうちのいくつかを止めて、例えばフロントとベースのみとか、フロントとピアノのみ、とか、そこまで風景を変えるならいいかも。
また、例えばバラードなどで、自分をフィーチャリングしたような局面。ゆったりとソロのスペースが与えられている場合などは、基調は音数をしぼった「Coolな」ソロがむしろカッコいいかなと思ったりします。
足し算より引き算
ソロをとるときに、盛り上がりに応じて足し算をしていくのは、それほど難しいことではありません。
自分のテクニックの限界まで、音量も、フレーズの細かさも、上げていけばいい。*2
だが、テクニックを最大限発揮することとは別に、音数を絞りこんできちんとメロディーメイキングを行うことも大事です。
この過程には美意識が問われるやつです。
フレーズ作りにおいて、どちらかといえば、テクニックは足し算、対して、美意識は引き算とも言えます。
* * *
足し算と引き算のバランスは、なかなか難しいものです。
そういえば、バークリーの講師であるHal Crookの” How to Improvise”の第1章は、「休符の使い方」でした。
HAL CROOK ハウ・トゥ・インプロヴァイズ インプロヴィゼイションへのアプローチ
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トロンボーンは楽器的に手数を多く出すことは難しい。
それだけに、手数に引っ張られることもよくあると思うんですよね。
貧しい人に限って、お金にふりまわされる、みたいな感じでしょうか。
その手数・テクニックへの憧憬・囚われから脱却して、次の段階にいけるかどうか。*3
無理に埋めない
一つのヒントとして、これは友人からのアドバイスなのですが、
「アイデアがなかったら吹くのをやめる」という提案があります。
吹けるから吹くというのが一番いけない。
アイデアが湧いていなくてもコードや場に合ったフレーズで埋めることが出来てしまう段階。
もちろん、初学者の方はまずはそこに至るまで弾き込まなければいけません。
しかしその段階に至ったら、そうやって、美意識を涵養する練習をとりいれる必要がありそうです。
ソロの構成を想定した練習
また、一つのヒントとして、これはサックスの浜崎航さんから教えていただいたんですが、
ソロの構成を想定して練習するというやり方もあります。
例えば、3コーラスやるとしたら、 ソロの盛り上がりを10段階で表すと、3→5→10といくのが、一般的な形かなあと思います。
しかし、例えばライブで、すべての曲ですべてのソロをこのような構成でやると、金太郎飴みたいに一本調子で、ださい。
なので、いろいろな盛り上がり・盛り下がりのパターンを前もって練習にとりいれてみる。
あえて、 5→10→7とか、最後にピークアウトするパターンとか、やや非定型ですが、10→7→5とか、徐々に盛り下がるパターンとか、そういうのも一度練習してみると、構成力を考える修練になると思います。
要は、その場の感情の発露だけに任せ、虫瞰的にソロをとらえるのではなく、一歩引いて、ソロ全体を俯瞰し、練習でもそれを想定し、構成をコントロールすること。想定して練習すればある程度できるようになります。
もちろん、本番では、他者の演奏の盛り上がりや演奏者同士の相互作用、もしくは聴衆からのフィードバックなど、数々の不確定要素があります。ですから、すべての本番が、事前に決めていた構成通りにいくとは限らないし、またそうあるべきでもないとは思います。
その場で修正する余地は必ず残しておく。
でも、構成を意識して練習した場合と、していない場合では、やはり視点の持ち方は、変わってくるとは思います。