「シットイン」と「ジャムセッション」の違いとは?
語義の定義:
ライブにおいて、本来の予定にない演奏者が参加したり、本来予定しなかった曲を演奏したりということは、しばしばあります。*1
ジャズではこういうことがとても多いのですが、それは
- 即興性を重んじる音楽であるため*2
- ミュージシャンと聴衆との距離感が近い
- もともと酒場のBGM演奏としての出自のため、演奏の(というか、セットリストの)価値が相対的に低い
ためかと思います。
あらかじめ決められていない、この偶然性に富んだ演奏形態を「ジャムセッション」「セッション」と称します。
「ジャムセッション」の歴史は、ジャズの歴史と同じくらい古いものです。
20世紀前半、ジャズは「クラブミュージック」としていわゆるBGM演奏の役を担っていました。
そういう店では、プロのミュージシャンが聴衆に向けて演奏する通常のステージが終わった後、ミュージシャンが集まって仲間うちで、ソロの腕を披露しあっていました。
時には深夜から明け方までそういったジャムセッションが行われていたそうで、そうしたなかからBe-Bopなどの新しい音楽が生み出されてきた歴史があります。*3
* * *
その場でメンバーと曲を決めて演奏すれば、それはジャムセッションとなります。
だから「ジャムセッション」という言葉には、多種多様な演奏やライブの形態が含まれると思ってください。
ライブの形態としての「ジャムセッション」
ジャムセッションを主体とした参加型ライブ。
このライブそのものも「ジャムセッション」と呼称されることが多いですね。
多くの場合、ホストミュージシャンが前もって用意されています。*4
参加者は、演奏者であったり観客であったりします。演奏を希望するものはホストミュージシャンと相談し、編成を決め、曲を決めて、その場で演奏を行います。それの繰り返しでライブは進行します。
参加者がほとんど演奏者を兼ねている場合もありますし*5、演奏で参加される人は一握りで、聴衆としてくる人も一定数いるようなセッションもあります*6。
参加者がほぼプロレベルのようなセッションもあるし、初心者や中級者が中心のセッションもあります。混在したセッションもあります。*7
また、がっちりと司会が曲ごとに参加者を決めて進行する(参加者同士で相談して曲を決める)形もありますし*8、先に曲を決めて、そこに参加したい人がわらわらと参加するようなタイプもあります。*9
もう少し細かいことをいうと、演奏に参加する人は料金が高いようなセッションもあるし、聴き手・演奏者の料金がかわらないセッションもあります。
また、ジャムセッションの最初と(時には最後も)ホストミュージシャンだけで演奏する、というのも結構あります。*10
「シットイン」とは
このように、そもそもジャムセッションに参加して楽しむ前提のライブは「ジャムセッション」という呼称で宣伝されます。
ただ、ジャムセッションの成立する過程として「シットイン」という形態もあることは知っておいてください。
これは「飛び入り演奏」とでもいうべきものです。
通常行われるライブに、出演者の友人のミュージシャンが観に来ていたりして、ついでに参加して数曲共演したりするような場合です。シットインは、ミュージシャンの友情によって許可される形態であって、オープンな参加というのはあまりありません。
だから、一般的にライブフライヤーに「シットイン」という言葉が表示され、宣伝されることは(少なくとも2019年の時点では)ありません。
そういう経緯ですから、ミュージシャンの参加も一人か二人に止まることが多いですね。
シットインは、あくまでホストから「招かれて」参加するものです。
また、訪れるミュージシャンの特性や、セットリストの相性が悪い場合、もしくはホストミュージシャンのメンタルや体調もろもろの関係で、来られたミュージシャンにあえて声かけをしない、という場合もありうる、ということです。
あくまでホストにイニシアチブがある。
* * *
「シットイン」をもう少しオープンにしたようなものもあります。
基本は「シットイン」に近い参加なのだけれども、もう少し積極的にプレイヤーの参加(そして集客)をうながしたい時もあります。
「※セッションあり」
みたいに書いてあるライブがそうです。
ジャムセッションとシットインの折衷案のような形態になっているものがあります。
1部はバンドで演奏、2部はセッションとか、そこまで明確にわかれていなくても
後半30%くらいはジャムセッションの形になることが多い。
フライヤーやライブスケジュールに「※セッション」あり、と書かれている場合は、原則来店する演奏希望のプレイヤーに全く参加してもらわない、というわけにはいきますまい。
ただ、この形態の場合は、参加の権利だけは認められますが、選曲や形態などの裁量権のかなりの部分はホストにイニシアチブがあると思います。
それに多くの曲に参加することは期待してはいけません。
あくまで「ライブ」の演奏が主体で、セッションはおまけです。*11
「ジャムセッション」「シットイン」違い:
「ジャムセッション」と「シットイン」二つの違いがわかったでしょうか?
ジャムセッションを行う、という意味では共通な部分も多いのは事実です。
違いは、
- ホストバンドの形態を、どこまで崩していくか、という点では、シットインの方が元のホストバンドから大きく崩れない。
- シットインでは、すべての曲で飛び入りのミュージシャンが弾くことは少ない(ないこともないのですが…)
- シットインの方が、参加のハードルが高い。
などです。理由はすでに述べました。
ただ、最大の違いがあります。
それは、サウンドそのものが、聴衆に向けられているか、プレイヤー同士に向けられているか、
というところではないかと思います。
ジャムセッションの歴史を振り返ると、聴衆への演奏が終わった後のミュージシャン同士の切磋琢磨がルーツです。
したがって、聴きやすさとか、素人に対してのわかりやすさ、という部分はそれほど要求されません。
もちろん、すぐれたセッションは、楽曲の起承転結もしっかりできていたり、ソロの盛り上がりなども含め、聴衆をうならせるに足るものです。
プロはどんな場で演奏するにも、聴衆に向けて演奏をするものですから。
ただ、両立できない状況においては、ジャムセッションではリスナーよりはプレイヤーの都合が優先されがちです。
ジャムセッションとはそういうものです。チャレンジも歓迎されるし、演奏の最終責任が希薄になりがちです。
反対にシットインは、あくまでライブの延長線上にあります。
演奏者が、聴き手に対して演奏責任ることを第一義とした演奏の延長線上です。
したがって、あくまで聴き手が最優先される。演奏の最終責任は明確に演奏者、ひいてはホストにある。
破綻や混沌は好まれません。
要するに、ホストミュージシャンの美意識から外れ、聴衆を不快にさせかねないような演奏をするプレイヤーを、壇上にあげる義理はない、ということです。もちろん、寛容なリスナーはそういう意表を突いたケミストリーとか、ある種のハプニングも包容してくれる人もいます(ジャムセッションが好きなリスナーは、そういう人種でしょう)。ただ、それに常に許される前提で演奏はしてはいけない、ということです。
「シットイン」は基本的には一般に膾炙していない用語です。
ただ、地方のローカルジャズスポットなどでは、裏メニューとしてこの「シットイン」を良しとする文化があります。
筆者の地元で言えば、広島県福山のDuoや、愛媛県松山のグレッチなど、また、地方都市の、ピアノとベースとかでBGM演奏をしているようなユニットはシットインに対してウェルカムなところが多いですね。
- 地元で、固定したメンバーで繰り返されているライブ、お店のホストミュージシャン、みたいな人がやっているライブ
- ライブのセットリストも、全曲オリジナル、とかではなくてスタンダード中心
- ホストが、それなりにキャリアがある、交友関係も広いしライブの出演頻度が高く、レパートリーの豊富なミュージシャン
であれば、シットインが許容されやすいライブであるといえます。
*1:スタンダード中心のBGM演奏であれば、始まる前にセットリストさえないような場合さえある
*2:もちろん、他のジャンルでもまれにお目にかかることはありますから、ジャズの専売特許ではありません
*3:つまりはね、このジャムセッションってやつは、結構尊いんだよ?ということがいいたいわけ。
*4:全くホストミュージシャンが用意されていないものは「オープンマイク」という名前になることが多いようです。この場合、ジャズコンボでよくあるようなカルテット・クインテット編成になることもありますが、ギター弾き語りとかピアノ弾き語りとか、少人数編成が多いと思う。
*5:スタジオセッションなんかはそうですね
*6:最近の高田馬場Introのセッションなどは外国人に認知されていて、リスナーもかなり多いですよね。Introは僕は楽器を出すスペースもないので行きませんが
*7:大都市では店ごとにレベルの棲み分けもありますが、地方ではそんな多様性は望むべくもないのでごちゃまぜです
*8:例えば錦糸町J-Flowとかそうですよね。東京のセッションはこのパターンが多いです
*9:池袋のSomethin Elseなどもどちらかといえば曲先行パターンですね
*10:やりたい盛りのセッション参加者にとってはこの最初の演奏は「加われない演奏」ととらえがちですが、最初ホストの演奏をじっくりきけるのはありがたいことです。ホストのタイム感・リズム感、音楽的なバックグラウンドを知ることは、演奏に馴染むためには必須であると言えます
*11:実際、この手の後半セッションのやつは、ライブをやって暖まったホストミュージシャンに後半から対峙するわけで、スロースターターの人は楽しめないことが多いです。いきなりギアをあげる能力も含めて、中級者以上の遊びと思った方がいいです。