半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

アレンジ、というほどでもない初歩のアレンジ法

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ジャズ研の二年生です。サックスをやっています。
入部して一年間は、セッションで演奏したり、お手本になるような歴史的名盤の演奏をそのまま演奏してみたりしています。
しかし、それって、極めてジャズ的ではないですよね。
自分なりにやってみたい。だからアレンジに興味があります。
どうしたらいいでしょうか?

はい、質問を仮想してみました。

最初は、精一杯ですよね。
とりあえずジャズの世界に入り、破綻なく演奏することが目標になる。
ですが、それができるようになると、やがて、自分なりのサウンドを考えてみたくなる。
これは正常な進化です。

守破離でいえば、「守」の段階を超えて、次にいくということでしょうか。

アレンジ:

ある曲の属性として(メロディーを除けば)

  • テンポ・拍子
  • 調(メジャーか、マイナーか)
  • リズムのスタイル(4 beatか、ボサノバか、スウィングか、ラテンか)
  • 編成
  • コード進行
  • サウンドフィギュア(コードに対するパターン)
  • サイズ

があります*1

結論からいいます。
アレンジとは、上述したサウンドの属性を、別のものに変えることです。
アレンジの中には、編成がオリジナルと違うので、仕方なく編成を変える、みたいな消極的なものもありますが、
曲の雰囲気を大胆に変えて、演奏そのものにオリジナリティを持たせる積極的なものもあります。

いくつかの要素をいじれば演奏は大きくかわります。

フロント楽器は、原則としてテーマのメロディーとアドリブの部分しか担当しません。
それ以外のサウンドの要素については、所与のものの上に乗っかって吹くわけです。*2
バンドを組んだりすると「どんなサウンドにする?」という相談を受けて、そういえばそういうこと全く考えたことなかったな、と思い当たる。これはフロント楽器あるあるなんですよ。

もちろん、セッションでもそれ以外のサウンドに注意を払うことは大切です。
その辺は初心者から中級者への第一歩だと思いますね。

テンポ・拍子を変える:

劇速な曲、もしくはスローな曲を、その逆にしてみましょう。

「この曲はこの速さ」という固定概念を、一旦とりさってみる。
ありとあらゆるパターンを検討してみてください。

もちろん、実際それで満足のいく結果になるわけではありません。
オリジナルよりいいテンポ、というのは滅多にないですが、中には意外なおもしろさが産まれることもあります。

* * *

拍子を変えることも、それなりに有効です。
4拍子を3拍子、もしくは 6/8に変える、もしくは3拍子を4拍子に変える。
さらに変拍子、5拍子とか 7拍子に変えるというのは、プロの作品でもしばしばみられる手法です。
誰もがワルツでやると思っているような曲を、別の拍子に変えたり、ベタな4Beatの曲も、変拍子にもっていくと、途端にスリリングになります。
この辺りの変化は、ジャムセッションでも、やろうと思えばできるものです。

調を変える

長調短調の調性そのものを変えてしまうと、別の曲になってしまいます。
したがって大事な曲の属性ではありますが、アレンジという範疇からはみだしてしまいかねません。
コード進行のリハモの一環として、トニックの Imaj 7をVImに変える、くらいはポップスでもしばしばみられます。
あと、トーナリティーが変わらない部分については、そのまま長短を変化させることも不可能ではありません。
自分のバンドで、Charlie Parkerの”My Little Suede Shoes”のAメロの部分のベースリフを"A Night in Tunisia" にして演奏したことがあります。
Cm Db7 Cm Db7 みたいなやつですね。全然雰囲気もかわりますよ。

ズムスタイルの変更

これも、アレンジの王道ですね。Bossa Nova、ラテン、スウィングなどの基本的なバリエーションを全く別のものにする。
それだけで新鮮に聞こえたりします。
新しい曲を古いスタイルで、古い曲を新しいスタイルにしたりすると、新鮮ですよ。
メロディーの歌い方が、少し変わることは注意してください。しっくりこない場合、調整する必要があります。
例えば、裏拍のシンコペーションを多用するボサノバでは、メロディーも少しそういう雰囲気に合わせた方がいいこともあります。
ラテンに関しては、2-3か3-2かを想定して、アクセントの位置を付け直す必要があったりします。

編成の変更:

主旋律をを変えるだけでも結構かわります。
私はトロンボーンですから、市販の音源にトロンボーンがメロをとっているものは少ないですから、トロンボーンでテーマをとるだけで、何らかのアレンジ然としてくるのは面白いです。
こういうのは名盤・名テイクなど、固定概念がある曲は、そのイメージを壊していく風に持っていく。
サックスの人の演奏であれば、テーマをピアノ・ベースとかにしてみるとか。
アノトリオの演奏で知られているようなものであれば、三管編成でぶ厚く攻めてみるとか。

これも大きいものを小さく、小さいものを大きく、と考えると変化をつけやすいです。

リズムセクションを変えるのももちろんいいと思います。
ドラムレス、ベースレスにするとか、ピアノのバッキングをギターにするとか。

コード進行を変える

いわゆるリハモ、リハーモナイゼーション(Reharmonization)ですね。
僕はこれかなり好きだし、アレンジの王道だとは思いますが、これはまた別に言及しましょう。

サウンドフィギュアを変える

基本的にフロント楽器の立場では、ジャズのサウンドフィギュアって重視しませんね。
バッキングはコード楽器に「お任せ」になってしまうことが多い。
自分のソロの間も、他人のソロの間も突っ立っているだけだし。

ただ、現代多様な音楽があります。
主旋律以外の人が何をしているか、バンド演奏において、ギターが、キーボードが何をしているか。
他のジャンルであれば、そこが、サウンドの「色」を決める大きな要素になってくる。

もちろん一般的なコンボジャズで、そこまで凝るのも少ないかもしれませんが、

  • フロント楽器が複数いるような場合、白玉系のバッキングにときに参加する
  • カウンターメロディーを、ソロでも必ず決まった場所に入れる
  • バッキングのパターンをいくつか決めておき、場所によって使い分けをする

などは、検討してもいいかもしれません。
例えば、ギターとピアノが両方いるような場合、サウンドの選択肢はかなりたくさんある*3

サイズを変える

たとえばテーマコーラスとソロの合間に Vampと呼ばれる間奏を入れ込むパターンなどはよくありますよね。
あとはセカンドリフ。
ビッグバンドでいうようなTuttiのようなやつ。
 こういったものを少し入れると、「アレンジしてます」感はでますね。

まとめ

ジャズは基本的には自由でオリジナリティを尊重する音楽です。
「この演奏がこの曲では絶対的にかっこいいんだ。だから、それをマネする」
 というような、名演の固定概念に囚われた演奏を目指すべきじゃない。

自分たちで曲のパラメーターを決めていいんです。
ま、いわゆるStandardと言われている曲の演奏は、もともとそうですしね。

上述した「テンポ」「拍子」「リズムスタイル」「編成」の変更などはジャムセッションなどでも試すことはできます。
もちろん、プレイヤーの実力も推し量りながら、妥当な変更である必要はあります。
速いテンポ、変拍子などは、できないのに無理にやると崩壊しますし。
そして、フロント楽器は上に乗っかるだけなので、フロント楽器が難しいアレンジをゴリ押しした結果崩壊すると、
リズムセクションの人たちは腹が立ちます。
汗をかかない人が無理難題をいうことはフェアではありません。
気をつけましょう。

僕、よくやるのは、

  • "Four"をスローなボサノバで演奏する
  • 「酒バラ」を6/8で演奏する

とかです。これくらいだったらセッションでもできます。

バラードの曲を、イマドキのポップスっぽいレゲエかAOR風のサウンド、というのもまあベタな手です。

アレンジしようという気の持ちよう

いざ、自分でサウンドを作ろうとしても、最初はうまくいきません。
特にフロント楽器であれば、はじめは自分のやっている領域の部分にしか注意は向けられていないものですしね。
アレンジをしよう、という意識をもって、初めて、全体のサウンドに意識をむけることができます。

そういう意識を持てば、音楽の聴き方もかわります。
「この曲はどうなっているんだろう」「自分だったらどうするだろう」という問題意識をもって曲を聴けば、
なんとなく聴いていた曲の細部にまで意識を向けることができるかもしれない。

そうすると、今まで聴いてきたすべての楽曲は、新鮮な存在に一変します。
聴きなれたJ-Popだって……いやポップスこそ、そういう創意工夫と時代性に満ち溢れているんです。
ポップスは、アレンジの玉手箱です。

* * *

私は昔から結構な本読みでしたが、文章を書いてWebに載せるようになったのは、2000年からです。
自分で文章を書くようになって、書き手の立ち位置としての視点を持つようになると、
書き手ならではの視点で、テキストの意味が一変しました。
今まで読んでいた本をもう一度読み返してみても、新たな気づきが得られ、世界が塗り変わった様な感さえありました。

アレンジをしよう、という意識を持つと、聴き方もかわります。
そういう聴き方をできれば、
フロント楽器でソロをとるだけのときでさえ、サウンドへの加わり方は変わってくると思います。

最後に、

  • 極端にいじるパラメーターは一つか二つまで(沢山の要素を極端に動かすと、コンセプトだおれになりやすい)
  • 曲と曲の順番(セットリスト)にも気をつけて(同じ様な要素のものが続くと、飽きやすい)

といっておきます。

*1:ほんとはもう少し気を使うところはありますが、まあこのへんで。

*2:リズム楽器はもう少し全体のサウンドに意識をむける必要が初期段階からありますから、そういう感覚が培われやすい

*3:逆にギターとピアノが両方いて、考えなしに演奏していると、ぶつかってしょうがない