半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

デタラメやるメソッド

デタラメなんだワン!
アドリブの裏技的なもの。
例えばFのブルースで、デタラメ…というか、Non-Diatonicの音をたくさんだして切り抜ける、という方法がある。
この手のパターンは一定の割合でみる。

よくあるのは、

  • Tonalityを無視して、クロマチックな音列を並べる
  • Tonalityを無視して、例えばTonalityから比較的離れたキーのペンタトニックフレーズ(例えばFブルースでGbとかBとかDbとか)

みたいなやつ。

過去30年くらいアマチュア・ミュージシャン界隈をみているが、このスタイル数パーセントの確率で出現する。
どの楽器もいるが、他の楽器に比べトロンボーンの頻度はやや高い。

このメソッドの人は、

  • トロンボーンの楽器の演奏能力が高い。
  • 速いフレーズも高い音も得意。音量も大きい。
  • 譜面は相当吹ける
  • 音感は優れていなくて、コードは苦手

こういう特徴があります。
つまり、コード感やスケールにそった演奏は苦手。
 それゆえにこのスタイルを選択してしまうわけです。

力技だし強引ではあります。
実際に、普通のアドリブのプレイヤーからは「何やってんの?無茶やなあ…」という感じ。

* * *

この手のタイプは、大学の部活やビッグバンドのコミュニティにしばしば出現します。

聴き手のアドリブの咀嚼力が高くない場合は、アウトフレーズを正しく評価できない。
このスタイルの提供者は、そうした場でなんとなく受けいられた結果、このスタイルの方向性を強化する傾向にあります。
率直に言えば、がっつり確信犯で「デタラメ」を吹く、わけです。


クローズド・マインドでソロを評価すると「それあかんで」となる。
けれども、オープンマインドで「いい所を拾っていこう」という的な観点では
  「なんかかっこいいことやっているかもしれん」となる。
ま、言ってしまえばこれは「裸の王様」的なやりくちなわけです。

口さがなく言えば、この手のソロを許すコミュニティに一定の特徴があります。

  • コミュニティのアドリブソロの平均のクオリティが低い。
  • アドリブソロの評価も批評をきちんとできる人がいない。
  • コミュニティが開放的でなく、他との交流が少ない。
  • プロのライブを見にいく人が少ない。プロと交流しない。

アドリブのレベルの高いコミュニティでは、こうしたソロのスタイルは淘汰されるか、見直しを迫られることが多いんです。

デタラメメソッドの長所

ただし「デタラメメソッド」は欠点ばかりではありません。

デタラメメソッドは、フレージングはデタラメかもしれませんが、
アドリブの盛り上がりとか、アドリブ演奏の興奮(エキサイト)という意味では、ある種正しい。

高速のスピードでNon-Diatonicのフレーズを繰り出す。それはソロの盛り上がりのピークの演奏を再現できているわけです。
特にこういうソロの起承転結感とか盛り上がり感は、ビッグバンドのソロ(コンボの、少しづつ積み上げていってピークに持っていく演奏とは違って、いきなりトップギアに入れるような演奏が求められます)では、はまりやすい。

実際、ビッグバンドのトロンボーンソロって、モノホンも「ようわからんソロ」いっぱいあるんですよね。
また、コンボでも、他の楽器のソロも、最も盛り上がっているところでは「ブギョー!」だったり「ピロピロピロピロ…」だったり、要するにバーサークしているような「一見でたらめにしか聞こえない」部分が結構あるもんです。
あれを丁寧にコピーしていると、そういう感じにもなる。

対照的に、コードにそって、丁寧にフレーズを並べても、ソロが盛り上がれないという問題もあります。
楽器のうまさを見せつけるより訥々とコードに沿ってフレージングを積み上げるタイプのソロ。
アートファーマーとか、ケニードーハムとか、そういう感じのソロです。*1

こういうソロでは盛り上がり感が出しにくくてビッグバンドでは、むしろ「デタラメメソッド」の方が映えることもよくあります。

デタラメメソッドの弱点

「デタラメメソッド」には一定の強みがあり、また、ビッグバンドでのトロンボーンソロは、オリジナルもそういう要素がある。
どうしてもデタラメメソッドのスタイルのトロンボニストが一定数出現するんだと思います。
トロンボニストにとっては、デタラメメソッド、ある程度しょうがない。
ごく一部の人間を除けば、トロンボーンでアドリブソロをとる際、最初からできている人はかなり少ないし、僕もこういうスタイルで誤魔化した経験はあります。

ただデタラメメソッドの弱点は、

  • ソロの盛り上げしかできない。盛り上がっている曲にしかはまらない。
  • 一発ものは得意だがコード進行の複雑な曲はうまくいかない。

という、致命的な弱点があります。
「デタラメメソッド」は勢いに任せた奏法。
勢いを削いだ状態では途端に魅力を失ってしまいます。

ちなみに、デタラメメソッド奏法のプレイヤーの勢いを削ぐ方法。

  • バラード。
  • スロウな曲をさせる。
  • バラードのテーマとソロの部分をさせる。
  • 歌ものとかのオブリガードをさせる(フロント楽器にとってはもっともわかりやすいコード感が必要とされるたぐいのタスクです)

逆に、Giant StepsとかCherokeeとか、そういう曲だと、めっちゃかっこいい演奏に化けることもあります。(もちろん一発ものじゃないので、空振り三振になるかもしれません)
コードを無視できる、というのも、時と場合によって強力な武器になることもある。

* * *

デタラメメソッドを脱却するためにはどうしたらいいか?
まあ、このBlogは半分以上そのために書かれたようなもんですが、

  • きっちりAny Keyの練習をする
  • Tonalityを身に着ける練習をする

ことが必要でしょうかね。

*1:こういうソロイングはソロの出だしとかではとても有効なんですが、しかし盛り上がれず終わってしまう部分もあります