半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

セッションのロードマップ その2(破)

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象って体が痒そうに見える。

その2:「破」

セッションのロードマップ その1(守) - 半熟ドクターのジャズブログ
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セッションのロードマップ その3ー演奏していない時 - 半熟ドクターのジャズブログ
セッションのロードマップーその4(離) - 半熟ドクターのジャズブログ

前回の続きです。
jazz-zammai.hatenablog.jp

初学の段階では、ジャムセッションの演奏を壊さないように、うまくバンドの一員として参加することが求められました。
まずは参加し、自分の「仕事」をきっちりこなすこと。

セッションに慣れてくると、その段階を超えてバンドにコミットすることが求められます。
一曲一曲をなんとかこなす段階からレパートリーも増えて、演奏できる曲が30-40曲くらいに増えてきたら、次の段階です。
(どの曲を手がけるべきか、については下記を参考にしてください)
jazz-zammai.hatenablog.jp

「塾生筆頭」をめざす

まずは演奏者の中で「わかっている方」になることを目指しましょう。
バンド全体を見渡すことができること。
曲の起承転結をコントロールできること。
要するに、少し広い視点をもって演奏する技術ですね。
結果的にはホストにとって、安心感・安定感を期待できるプレイヤー、と言えるでしょうか。

セッションホストが塾頭だとすれば、塾生筆頭を目指してください。
魁!男塾における、ホスト=江田島平八に対して、剣桃太郎を目指すわけですね。
例えば適塾においては、緒方洪庵に対する福沢諭吉の立場を目指すわけです。

セッションホストにしてみれば、こういう人がいると、ジャムセッションのメンバーを組みやすい。
ホストにとって都合のいい人、になることを目指しましょう。
与えられた状況の中でいい演奏をしたり、他のプレイヤーを支援するような行動ができれば、セッションが非常に円滑に、楽しく回ります。

人の出してきた曲に乗っかる

初心者の場合「僕Autumn Leavesしかできません」てな感じで自分のできる曲を指定して演奏に参加していました。
できる曲が増え、ジャムセッションの参加者の中で「最も未熟な人」から脱すると、他の人が指定した曲の二番手、三番手として参加することが増えると思います。
誰かが曲をコールして、それに乗っかる、というパターンですね。
「後の先」という感じでしょうか。
初心者では、これはなかなか難しいですから、他の人がもってきた曲に無理なく参加できるようになってくると、中級者の一つの証であるといえます。

この段階を無理なくこなすためには

  • レパートリーを増やす
  • レパートリーにない曲もその場でリードシートをみてざっと概要を掴むことができる

能力が必要になります。

インストに関しては、よほどジャズオリジナルの難解な曲でなければ、Standard Bilbleの1&2をすべてさらってしまえば、大方の曲には対応できるかな、と思います。
え?途方もない?
途方もない作業に思えるかもしれませんが、家でピアノを触ったりしながら、曲の大まかを掴むという感じだったら、結構できますよね。*1ま、すべて暗記は現実的ではありませんが、一度くらい総なめにしてもいいと思う。

ところが、歌伴は、それをしていても対応が難しいことがあります。
歌伴は、キーも違っていたり、進行も違うこともよくあるから。*2
やはり全く手探りの状況で即時対応することが求められる。
その辺が歌伴の妙味だとは思いますね。*3

* * *

フロント楽器を想定しています。インストの話に戻しましょうか。
「人に乗っかる」パターンであれば、主役のリーディングソロのあとに、二番手・三番手のソロを引き継ぐ役です。
全体の進行を考えた上で、ソロをとりましょう。
サイズや展開に少し注意を払ってみてください。
たとえコンパクトなサイズであったとしても、起承転結を盛り込みまとまったソロを取ることは可能です。
そういうのを目指しましょう。

ソロの完成度で、リーディングソロを上回る感じで吹ければ、テニスで言えば、相手がサーブ権をもっているゲームで勝ったような気分になります(サービスブレイク)。
もちろん、ある曲では、John Coltraneのようにどっかり腰を据えて重厚なソロを展開するのもありだと思います。ただ、それをケースバイケースで判断してください。リードソロの人の構想を大きく裏切らないように。*4
jazz-zammai.hatenablog.jp

リズム楽器については、よほどのレベル差がない限り、フロントがコールした曲を演奏することが求められることが多い。
なので、リズム楽器は、フロント楽器よりも早い段階でこうした「なんでも弾けないと」という状況に直面しますね。
そういう意味で、リズム楽器の方が、早く中級者に至ることが多いと思います。

バンドサウンドを円滑に導き、盛り上げる部分を演出し、破綻を未然に防ぐ。

初心者のフロント奏者の場合、テーマの部分と自分のソロに興味は限定されていることが多い。
リズムセクションにしても、初学の段階では自分のソロとバッキングに興味は限定されるものです。

しかし、ジャズも他の音楽と同じで、全体での調和が大事なわけです。
すこし慣れてくると、楽曲全体のサウンド、バランスなどを視界に入れることを心がけましょう。

  • ある瞬間における、バンドサウンド全体のバランス。
  • 曲の最初から最後までの起承転結・構成。

の二つを意識しておきましょう。
プレーヤー間のバランス、曲の始まりから終わりまでのバランスの二つです。

これがわかっていたら、空いたスペースや、自分が頑張るべき部分と、あえて頑張らない部分とが見分けられるかもしれません。

リズムセクションが初心者だけだと、サウンド全体を見渡せていない演奏になることがあります。
そういう演奏では、不確定要素に対応できないし、お互いがお互いの音を聴いていません。ソリストの音も聴いていないので、盛り上がりに追随するできません。
でも、こういう状態に上級者もしくは中級者が一人混ざるだけで、サウンドの堅牢性がかなり高まります。

全員がお互いをきちんとみれているリズムセクションでは、様々なアイデア創発される、非常に心地よいサウンドを期待できます。
こういう人たちが参加していると、もしフロントプレイヤーが迷っていたら、わかりやすいきっかけを出したり、迷わないようなサウンドにできます。わかりやすくするも、わかりにくくするも、自由自在です。

残念ながらフロントプレイヤーは、演奏に参加する時間が限られているので、サウンドが迷走した時に整えられるチャンスは少ない。
しかし、例えばリズムセクションの拍子が裏返ったりしている場合には、ハンドサインを出したり、例えば白玉のわかりやすいオブリガードを出すなどによって、正しい道を示すこともできます。

次のレベルに行くために:

中級者になったばかりで、大抵の曲ができるようになった人たちは、言ってみれば「やりたい盛り」です。
初心者の時は、この曲はできる、だから参加。
この曲はできないから参加しない。こんな感じです。

しかし、実力がつけば、できる曲が増える。
「できる曲に参加する」という考えだと、すべての曲に参加するようになってしまう。
この辺のことを、セッションのバランシング、に書きました。
jazz-zammai.hatenablog.jp

つまり、自信をもって、「この曲はやらない」という引き算を取れるのが、中級者としての完成、と言えそうです。
実際、この中級〜上級レベルでは、フレージングでも、押せ押せ一辺倒ではなく、うまく引き算をして、余白を活かしたフレージングが求められます。

複数のスタイルを身につけ、ソロによってスタイリングを選べる。
複数の道を選べるためには、色々なスタイルであったり、いろいろなパターンを知悉していく必要がある。
何通りのカラーを出せるか、そして、それを自分のソロの進行に展開できるか。

これは初心者に限らずなんですが、自分一人でサウンドやソロのフレージングを考える。
そのことは全然いいし、そういうインサイドワークをしないとよきソリストにはなれません。
しかし、セッションのような複数のプレイヤーの思惑が錯綜するような場では、かならずサウンドは自分の思っている方向には行きません。
時には、強引に自分のエゴを通すこともあるかもしれない。
しかし、時には他の人のエゴをいなしたり、時にはお互いに歩み寄って、ちょうどいい落とし所を設定するような行動ができれば、そういう選択肢を常にちらつかせながら、カードを切っていくことができれば、セッションの予測不能性をよい演奏の材料にすることができる資質を身につけられるのだと思います。

*1:個人的には 2はまあまあ難解な曲を含んでいるので1だけでいいかな、とは思う。

*2:verseの部分はリズム楽器とのルバートだったりするので、フロントはあまり関係ないのが救いですが…

*3:テイクゼロで演奏をこなせる勘の良さが、すぐれた歌伴奏者の資質です。もっともこの能力はミュージシャンの能力の一つにすぎません。→曲をこなせるようになる、というのはどういうことか考えてみた。 - 半熟ドクターのジャズブログ

*4:あえて裏切るのもまた一つの選択肢ですけどね。