感染の流行期におけるライブハウスにいく方法

コロナウイルス(COVID-19)によるイベント自粛が続いている。
学校は休校となり、ライブハウスやスポーツジムなどを介したクラスター感染が報告され、
ライブハウスは感染のリスクが高い危険な場所であるとアナウンスされ一般的に受け取られている。
ところが、ジャズのライブハウスの多くは、どちらかというと、ライブハウスというよりはバー営業に近い。
ロックは500人の観客の前で3つのコードを演奏するが、
ジャズは3人の観客の前で500のコードを演奏する
というジョークがあるけれども、そんな感じだ。
もちろん日によってライブハウスの混雑状況も違うので、いちがいには言えないのである。
ライブハウスに行っても、感染リスクを最小限に抑える方法はないものか、を考えてみた。
ちなみに、この考え方は冬季の風邪の流行期、インフルエンザやノロウイルスの流行期にも同様な、普遍的なものではある。
1.行かない
身も蓋もないが、リスクをできるだけゼロにするならば、最良の方法は、やはり行かないことだ。
うまい話というものは、ない。
どんなに注意していたって、例えば道でコロナウイルス感染患者とすれ違いざまにくしゃみの飛沫を浴びたりすれば、感染はしてしまう。家に居たって、家族が持ち込むリスクもある。
そういう意味では、ポツンと一軒家とか昭和基地とかの特殊な状況をのぞいて、都市生活者はウイルス感染のリスクを完全に防ぐことはできないのである。
しかしライブハウスに行かなければ「ライブハウスに行くという能動的な行為の結果、感染してしまう」という不見識に対して非難されることは避けられるだろう。
2020年の3月現在、医療従事者でもある僕は、活況なライブハウスに足を踏み入れることは、なかなかできないのが実情だ。コロナウイルスにかかった場合のデメリットが大きすぎる。
少なくとも現状の社会のコンテクストでは、ライブハウスに頻繁に出入りするという行動は推奨されないだろう。
hanjukudoctor.hatenablog.com
* * *
ただ、この状況はずっと続かない、というか続けられない。
ジャズ系のライブハウスの経営は脆弱であるし二週間ならともかく数ヶ月に渡る休業に対応はできないだろう。
どこかで「ゼロリスク」を脱するフェイズに移行する。せざるを得ないのである。
経済は止まると死ぬのだから。
なのでこのフェイズではリスクを相応に認識しつつライブハウスに行くことになる。
誰かが「もう大丈夫、解禁ですよ」とアナウンスしてくれる可能性は、低い。
ライブハウスに行く・行かないという二分法ではなく、行くならできるだけリスクを減らす努力がその過程でば必要になる。
ライブハウスには行く。次善の策で感染リスクはできるだけ下げる工夫を考えてみよう。
* * *
話はかわるが「オギノ式避妊法」はご存知だろうか。
排卵日前後の性交は妊娠の確率が高いというやつだ。
これは、しかし本来は避妊のための方法論ではなく妊娠の方法なのである*1
避妊の方法としては
「排卵日の前後にはゴムをつけて、そうでない日(安全日)にはゴムをつけずに性交する」ではなく、
「安全日にはゴムをつけて性交をし、排卵日の前後には性交しない」。避妊するならこれくらい慎重である必要がある。
感染リスクの話もこれと同じ。
絶対にライブハウスでコロナウイルスに感染したくなければ、ライブハウスに行かないという策以上のものはない。
しかしいくなら最上の努力はしよう。
2.感染リスクの低いハコの条件
まずは物理的な条件である。
- 手指衛生消毒が入り口付近に設置されている
- 感冒症状のある人をお断りするようにしてある(健康チェックをしてあればなおよいが、これはそうもいかないだろう)。
その意味で、感染をおしてさえも参加したくなるようなプレミアムチケットは、リスクが多少あがるかもしれない。いいミュージシャンのライブは、ややリスクが高い。参加者のモラル障壁がさがるから。
- 店内禁煙である
空調管理の問題であったり、喫煙による副流煙はコロナウイルス以前に健康を害する。喫煙OKは店側の健康意識の低さを反映している可能性もある。*2
- 店の床面積がそれなりに広い(人口密度が低いと、飛沫感染のリスクは低くなる)
- 外気の取り込みが容易で、休憩時間ごとに換気をしている
エアロゾル感染を防ぐためには、こうした工夫が必要だ。防音の関係上都市部のライブハウスは気密性が高い。これがエアロゾル感染の温床になる。
一セットごとに換気すればエアロゾル感染のリスクは減少する。ただし、テーブルや椅子、服に付着したウイルスは換気では除去できない。
人口密度が上がるようなライブ=つまり集客が見込めるような有名なアーティストによるライブは、残念ながらリスクが高くなる。また、そういうライブは、遠距離から多様な観客が集まり、地域の人口流動も招くため、量だけでなく質的にもリスクを押し上げるだろう
以上のことは観客に感染者が混じっている場合の対策と言える。環境のリスク。ということになるだろうか。
3. 演奏者が感染者であるリスクを考察する。
次に演奏者が感染者である場合を考察してみよう。
演奏者が感染していたら…という疑惑は完全に払拭することはできない。不顕性感染(スプレッダー)は、本人の自覚症状は全くないのだから。それにフリーランスの演奏者は少々の体調不良でもステージに上がるのではないか?という懸念もある。
ただ、ジャズミュージシャンに限れば、バンド単位ではなく個人で活動をしている。ジャズという音楽形態はフレキシブルなので、体調が悪い場合にトラを頼みやすい形態だ。その分リスクは下がるかもしれない。*3
実入りの多い舞台、バンド単位の活動(特にビッグバンドなど参加人数が多い形態)などは少しリスクが高くなるかもしれない。
また、ステージと観客席の間に距離がある方が安全かもしれない。
それから、管楽器、ボーカルのライブよりは、ギター、ピアノなど息をつかわない楽器の方がエアロゾル感染のリスクは低いとは思われる。もちろん、管楽器奏者、ボーカルが感染していなければ全く問題はないのだが。逆に、観客の感染を、彼らはもらうリスクが高いという面もある。
3.ライブハウスにおける観客の望ましい行動
環境については完全に自分の裁量では決められないかもしれないが、ライブハウスでの行動は、ある程度個人でコントロール可能だ。
- 飲食を避ける
エアロゾル感染はある種避けられないが、接触感染、飛沫感染はライブハウスでの飲食を避けるとかなり回避できる。
飲食の際手洗いしていても、観劇しながら長時間テーブルに晒されている食物を摂取することは、かなりリスクを押し上げる。食べ物にウイルスが付着するかもしれないからだ。
食べ物は、例えばつまみや乾き物やお菓子のような、指でつまんで食べるようなタイプの食材が一番いけない。手指に付着したウイルスを体内に入れることになるからだ。*4
考えたくないが、お店のスタッフに感染者がいる可能性というものも念頭においておく必要がある。その場合は調理された物ごと汚染されている可能性もある*5。
飲み物に関しては、カクテルや水割りのような手間を介するものよりも、開栓して瓶から直接飲む形式のものの方が安全である。
瓶ビール、ジンジャーエール、コーラ、ZIMAなどのようなものでもよい。
グラスよりも瓶は開口部も狭い。ウイルスが液面に落ちたり、飲み口の縁に付着するリスクもかなり下がる。
例えば、こうしたドリンクに、切ったライムを入れてサーブするお店もあるが、感染流行期にはそうした一手間は感染を招くので断る方がいいだろう。
" Thank you, But I'm Ninja " の精神。
忍者は毒物の混入を避けるために他所で飲食はしないのである。
はなから口をつける気がないのなら、高い酒でも頼みたまえ。お店の売り上げに貢献しよう。
- ボーカルもしくは管楽器の正面に席をとるのは避ける。
もっともエアロゾル感染であれば、多少避けたところで店が狭ければ無駄かもしれないが、ある程度広いのであれば、距離をとるべきだ。
- マスクはつける
可能であれば観ている間も、マスクはつけておいた方がいいかもしれない。直接予防効果はないかもしれないが、飛沫感染を多少は防げるかもしれない(ただ、エアロゾル感染には無効)
かなり近接距離での会話、ボディータッチ、ハイタッチなど(ジャズではみたことないけれども)はしない。
モッシュダイブもしない。ジャズではもちろんしないけど。
- 滞在時間を減らす。
時間依存性にリスクは減るだろう。長居は無用。
- スマホを洗う。
コロナウイルスなりノロウイルスなりインフルエンザなり、口の中にウイルスが直接入るリスクは避けられても、手指にウイルスがつき(飛沫感染を受けたものに手があたると、手指にウイルスが付着する)、手洗いせずに食事をすれば、口の中にウイルスが入ってしまう。手洗いはすごく重要だ。*6
ただ、20年前にはなかったデバイス、スマホについては、あまり注意が払われていない。
例えば、家に帰る途中で、スマホを触る。
帰宅する。
手を洗う。
手を洗ったあとで、食事をする。
さて、食事する時に、先ほどのスマホを触りましたか?
もし触ったのであれば、帰宅する前についていたウイルスが、もう一度手についた可能性は大いにある。
帰宅する時、手洗い・うがいをすると思うが、この時に、スマホも丸洗いすることを強くオススメする。
これはノロウイルスなどでも同じだ。スマホってトイレに持ち込んだりすることもあるじゃないですか。
スマホは定期的にクリーンナップする習慣をつけよう(エビデンスは今の所ありませんけどね)
帰宅したあと、着替えるのも有効だと思う。
まとめ:
- 基本的にはライブに行かなければ、ライブハウスで感染することはない
- 行く場合は、小さな工夫を積み重ねて、リスクをできるだけ少なくする努力はしよう
私は感染症の専門家ではないが、一般医家の立場で、そしてアマチュアミュージシャンの立場でこれを書きました。異論反論は受け付けますが、私の愛する(金銭的に苦戦している)ジャズコミュニティが救われますように、祈るばかりだ。
個人的には、エアロゾル感染がどれくらいのリスクがあるかデータがないのが、難しいところだ。おそらく人口密度に累乗してリスクは上がって行くものだとは思うけれど。
*1:荻野博士がこれを提唱し、オーストリア人のヘルマン・クナウスが原理を逆転させて避妊法として発表したらしい
*2:逆説的だが、喫煙を許容するためには空調の性能をあげているがためにウイルス感染を防ぐ、なんてことがあるかもしれない。しかしエビデンスはないので、一応この項目はこうしておこう。4月の新法導入によって店内喫煙OKはかなり少なくなるはずだ。
*3:ただジャズミュージシャンの平均収入の少なさは、リスクを押し上げているかもしれない、と補足はしておく
*4:その意味では、スナックという類の場所は相応に危険だと思う
*5:もっともこれは一般飲食店も全く同じだ
*6:ジャズクラブの水回りは投資が後回しになっているために貧弱なところもある。きっちりした洗面スペースのあるところを推奨したい。ちなみにペーパータオルではない備え付けのタオルは絶対に使わない方がいい。その意味でハンカチを持ち歩いた方がいいかもしれない。一度使ったハンカチはすぐ洗濯に回すようにする。何日間も同じハンカチを使い回すならウイルスを手に塗りつけているのと同じだ。もっとも、流水でしっかり流し、濡れた手を拭き取るだけであればリスクは極小までさがるとは思うが