半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

コロナウイルスがジャズシーンに与える影響 その2

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2020 因島

要旨:

  • ジャズのライブハウスも壊滅的な影響を受けているが、保護すべきはハコそのものではなく、ハコを運営している経営者だと思う
  • トッププロの活動が、日本のジャズシーンを担保している。ここが細ると衰退に向かう。
  • 音大勢からのプロマーケットの流入はコロナ以前から、構造的なバランスの悪さにつながっていた。コロナはおそらくこの層を直撃すると予想される
  • ライトなファンがマーケットから立ち去っても、マーケットのボリュームが立ち枯れる。
  • 全体の多様性を担保するために、様々な対策を考える必要がある

* * *

その1の続きです。

非常事態宣言がでて、飲食店のほとんどは営業・存続が難しくなった。
すでに4月18日現在、ほとんどのジャズバーは休業を余儀なくされている。
ミュージシャンのほとんども通常の仕事がない状況に追い込まれている。
jazz-zammai.hatenablog.jp
こんなことを書いていた頃が懐かしい。もうこういう甘いことは通用しなくなってしまった。

ハコ:

おそらくだが、非常事態宣言が解除されても、二次三次感染爆発が懸念されるので、ジャズの演奏が再開されるのは結構先のことになるのではないかと思われる。ジャズバーに関して言えば、この長期籠城戦に営業体力が耐えうるかどうかは、ちょっとわからない。

傷口が大きくならないうちに撤退するのも一方策ではないかと思う。
飲食業界全体のリセッション(景気後退)は今後数年は続くし、ひょっとしたらもう戻らないかもしれない。
長期トレンドをみると、人口減による需要減、それに続くテナント過剰は間違いないとは思う。
むしろ不完全ではあるがアベノミクスはこの人口減の状況の中で時計の針を戻す作用はあった。
 コロナ禍がおさまり社会がもとに戻ったとしてもよほどの好立地でない限り地価はさがる。

ゆえにお店を継続するにしてもテナント代の値引きくらいは交渉の余地があるはずだ。
不義理なようだが、閉店して、次が決まるまで設備も置かせてもらってもいいかもしれない。
 賭けてもいいが、次など決まらないからだ。
(固定資産税を払わなければいけないオーナーにも同情するが数年間はそんな感じだと思う。固定資産税も中期的には下がるが、やや遅い)

ジャズ愛好家からすると、馴染んだ店、行ってみたかったお店が閉店するのは悲しいことだ。
だが、真に保護すべきは、お店そのものではなく、ジャズライブハウスの経営者だと僕は思う。

経営者は今のお店を継続してほしいという消費者の期待を背負っているが、その人に余力が残っていたら店は多分再建できる。
大事なのはハコより人。
次にPA装置や楽器を含む什器だ。
ハコそのものはどうにでもなる。
(ただ、防音工事なども含めた設備費は普通の飲食店よりも高額になるので、ライブハウスは逃げ足が遅いのも事実だ)
後述するミュージシャンの新たな形態のような試みも一つだと思う。ニューヨークのSmallsというライブハウスはライブ録画とアーカイブをネット配信してサブスク収入を得ている。これも日本でも可能だと思う。ただし一つか二つまでのハコまでだろう。早いもの勝ちだ。

ミュージシャン:

ミュージシャンについていえば、ジャズにうごめく有象無象を模式化してみた。
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プロフェッショナルミュージシャン:

コロナショックで、現在完全にマーケットは凍結した状況になっている。活動再開の目処もたたない。
勝ち残ってゆくのは、演奏能力に加えて、セルフプロデュース能力や交渉能力、IT、ネットワークへの適応力、月並みな話だが人脈などの総合力を持つ人になるだろうか。レッスン、オンラインレッスン、オンラインサロンなど、インターネット空間での演奏活動でマネタイズできるようになるかどうか、が勝負をわけるかもしれない。
コンテンツの作り込みなどでも明暗をわけるだろう。
(以前にこんなことを書いた)
hanjukudoctor.hatenablog.com

* * *

このカテゴリの人は、いわば日本のジャズシーンを牽引する人たち。
この人たちの音楽活動が、日本のジャズの価値を代表している。
ここがもっとも大事な最終防衛ラインであることは皆認識しておきたい。

しかし残念ながら多様性は社会の余剰資本の大きさに依存するので、不況になるとどうしても淘汰圧が高まるのも事実だとは思う。

音大勢:

実はジャズのマーケットに関しては、過去数十年の大学ジャズ研勢に加え、近年、音大のジャズ科の卒業生が、例年大量にマーケットに参入するという現象がみられていた。そのため、競争圧力も高まっていた。
マーケットそのものは緩やかに下方局面であったように思うが、私は専門家ではないので、これ以上は語る数字をもたない。
このマーケット局面に対し、プロ勢は当然淘汰圧に適応するためにレッスンの拡大、セッション文化の普及によるアマチュア文化の拡大によるマーケット拡大、他ジャンルへの展開、焼畑農業式地方巡業によるマーケット拡大など、各人工夫をこらし、パイの拡充とニッチのマーケット探索を試みていた。
がそもそもここ数年のマーケット状況は、音大→プロフェッショナルミュージシャンへの流入過剰によって導かれていたと思う。*1
完全に需給超過という構造的な問題を抱えていた上に今回のコロナがやってきた。

ポストコロナで最も割を食うのはこの層なのではないかと想像している。
淘汰圧は今まで以上に厳しくなる。淘汰圧が高くなれば若いうちに志を断念するミュージシャンも増えざるを得ない。

最悪のシナリオは、ジャズも他のポップスとかロックとかと同じ「若気の至り」のようなモラトリアム期の音楽に堕してしまうことだ。20代のうちは中央沿線沿いに住みバンド活動して、30代になったら青森帰って実家のりんご農家継ぐ、みたいなやつ。
食えなくてもやっていける若い時期しか音楽との蜜月関係は許されない。

もうすでに今でもそうした傾向は多少あるけれども、不況になるとそれは高まる。
そうした中で音大ジャズ科のありようはいずれ見直されるべきではないかと僕は思っている。*2

セミプロ勢、コンボ、ビッグバンドのアマチュア勢:

この層については数十年間は変化がない。ジャズ研を出た人の中で本気でプロの道に飛び込んでいく人は一定数いるけれど、多くは本業をしっかり持つパートタイムミュージシャン(セミプロ〜ハイアマチュア)の道を歩む。
社会人になってもビッグバンド勢、コンボ勢、いずれかもしくは両方で活動を続ける人も一定数いる。
これはこれでマーケットの多様性を担保している大事な存在だとは思うが、不況には強い(本業が影響を受けるのでどうしても数は減ると思うが)。

今回のコロナでは、もうすでにジャズ愛好家の人は、雌伏して演奏できる時を待つ、ということでいいと思う。
なんなら今のうちに猛烈に練習したっていい。

最も大事なことは、我々自身がジャズの愛好家であり続けるためにはどうしたらいいか?ということだ。

マチュアのビッグバンドも演奏の機会が宙にういている。
セッションに行く人、バンドを組んでいる人も演奏の機会が失われている。
モチベーションも正直上がらない。
問題はちょっとライトなユーザーのジャズ離れかと思う。

大学のジャズ研も、新入生は構内に入ることさえ許されていない状態。
勧誘どころではないし。
もともとそこまでジャズにのめり込んでいない学生にとっては部活動がなくなればジャズに触れなくなる可能性の方が高い。

ライトなファンが一定数ジャズ研などから立ち去ってしまう可能性は十分にあるんじゃないか。
マーケットの力はやはり人数に依存する。
ライトユーザーが減ると、プロミュージシャンのリスナーも減る。
全体のマーケットも細ってしまい、結果的にはジャンルとしての衰退に向かう。


ライトなジャズ愛好家を保ち、マーケットとしてのパイを守るためにはどうしたらいいだろうか?
そして我々がジャズを好きで居続け、楽しい音楽活動(ライブを観るのも、演奏する方も、聴く方も)を続けるにはどうすればいいのだろうか?
多分これをみんなで考えていく時期なのではないかと思っている。

その3に続きます。

*1:マーケットの異常さの一つとして、若い女性プレイヤーの隆盛があげられる。もちろん最近の女性のプレイヤー、むちゃくちゃうまい。きちんとジャズでもあるけれど、淘汰圧の強いマーケットの中で売れるポイントとしての「若い女性」の要素は無視できない。少し歳を召して円熟味がでてくるはずなのに若い女性の新人が次から次へとデビューして押し出されてしまう。しかし男性ミュージシャンは舞台にもあげてもらえない。

*2:そもそも芸大・音大と言われるところはすべての分野において一握りの成功者しか輩出しないのが当たり前の世界だ。医学部のように入学生のほとんどが脱落せず専門職へすすむのが当然な業種からすると、ありえない世界なんだけれども、ま、みんなそれを納得して入学してくるんだよな……