半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

CSR理論とジャズ その2

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2019, 北海道

ジャズにおけるCSRとは:

その1では、植物学におけるC環境、S環境、R環境を例示した。
では、ジャズにおいて、同様のCSR環境を考えるとどうなるだろうか。

C環境:ストレスが少なく撹乱も少ない生育環境

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C環境の代表 森林・樹海

植物にとっては好適環境であるようなところ。例えば森林であるとか。
ジャズにおけるC環境とは、これは一目瞭然、東京・大阪などの大都市だろう。
沢山のライブハウスや、コンサートホールがある。なんなら放送局などもある。
レッスンなどにも事欠かない。
この様な環境で最も重視されるのは、競争力、ジャズでいえば、演奏の能力であろうと思う。
良い演奏をすれば、売れる可能性がある環境。それがC環境だ。

S環境:ストレスが大きく、撹乱は少ない生育環境

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S環境の代表例 砂漠

それに対して、S環境は外的環境が過酷であるような環境だ。
たとえば砂漠におけるサボテンを想像してみよう。

ジャズにおけるS環境は、例えば、人口10万以下の地方都市などだろう。
ライブハウスなどの演奏環境も乏しい。
聴衆がよい演奏を受け入れる文化的土壌も少ない。マーケットがない。
演奏に対するフィーも少ないため、プロミュージシャンを地域内で涵養できない。

こういうストレス環境では、当然ストレスに強い=低コストのミュージシャンが強い。
つまり、兼業のアマチュア・ミュージシャンだ。
音楽で報酬が期待できない状況でも生きていけないと、この環境にとどまることは難しい。

この環境では、演奏能力による淘汰圧は生じない。変化に対する耐性による淘汰圧も生じない。

いまひとつ冴えない演奏が十年一日のごとく、客のまばらなライブハウスで演奏される、みたいな光景は地方都市でしばしば見かけるが、これはしかし、S環境に完璧に適応しているとも言える。
(時々、とんでも無くうまいアマチュアミュージシャンがいたりするけどね)

R環境:ストレスが小さく、撹乱が大きい生育環境

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R環境の代表 雑草の生えている植生

R環境は、植生でいえば、雑草のような草が茂る低木環境である。
こういう環境は、変化適応性に富み、勢いのある(生育が早い)種に適した環境である。

ジャズに置き換えてみれば、これは学生のジャズ研であるとか、ジャズサークルのようなものが該当するかもしれない。
または、「学バン」と言われるビッグバンド。
もしくはジュニアジャズオーケストラとか、ジャズ教室のグループレッスンとか。
こういう環境に、例えば10年同じ環境にい続けるプレーヤーは少ない。どうしても一時的にこの環境に止まり、いずれは別の環境にでてゆくことになる。
この環境で淘汰されない条件は、ストレス耐性=低コストでも耐えられる、や、競走能力=絶対的な演奏能力ではない。
むしろ、変化適応力だ。
周囲環境に馴染むのが早いこと、与えられた要求に答えるのが早いという能力がもっとも重要だと思われる。
環境の変化に強く=へこたれたりしにくく、繁殖力の強い=友達など交友関係の広い人間が、この環境にもっとも適していると言える。演奏能力そのものよりも、だ。

S環境では成長は期待できない

私が住んでいる地方都市は、ジャズ研があるような大学もなく、新規参入が期待できない環境なのである。
ここ数年、やはり新規参入の人材が出てこないよなあと慨嘆していた。
そうなると、いきおいジャズマンの高齢化も進み、そしてサウンドの多様性も減少してゆくのである。
地方に住んでいるジャズ愛好家のみなさんも同じ気持ちではありませんか?

なんで、新規参入がないのだろうか?
の答えがこのCSR理論で理解できたのである。
こういう地方都市はS環境の典型なのである。
S環境はそもそも新しい人材を育てる土壌ではない。

新しい人材を育てる可能性があるのはやはりR環境なのである。
R環境で揺籃期を楽しく過ごし演奏の素養を身につけたら、S環境に遷移しても演奏活動を続けられるかもしれない。
いきなりS環境に放り込まれても、ジャズマンとして定着することはできない。そもそもS環境に適応したプレイヤーはR環境からみて、リスペクトを抱きにくいし、ロールモデルにもしにくいのだと思う。

ということで地域の全体的な状況がS環境であったとしても、その中に局地的にR環境を作り出すことができれば、そこから新規参入のジャズプレイヤーを輩出することができるかもしれないと思う。

逆に言えば、田舎で後進を育てるためには、意図的にそういう環境(R環境)を作らないとダメなのだ。