ソロの構成について その3
ソロの構成について その1 - 半熟ドクターのジャズブログ
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続きです。
その1。
近視眼的には、ソロの際、どの音を選んでフレーズを吹くかを考えますが、それに慣れてくると、ソロの全体構成を俯瞰しましょう、という話。
その2。フレーズの細かさという点で3段階にわけました。
それぞれの段階を意識してソロをアナリゼしたりフレージングの練習をしてみましょう。
という話をしました。
しかし、「盛り上がり」というのは、フレーズの細かさだけではありません。
あ、この章は、ひとまず、初心者を脱し、アドリブのフレージングが無理なく出せるようになった方に向けて書いています。
ソロの要素
アドリブソロはたくさんの要素を含んでいます。
- フレーズの細かさ (これはその2で触れました)
- フレーズの音列の複雑さ
- フレーズの背後にあるコード進行の複雑さ
- 音の大きさ
- 音の高さ
- 音色・ビブラートなどの音響情報(言語化されないことが多い)
このそれぞれの要素すべてに、静的→動的 な段階があります。
それらの複合的な要素の変化で、アドリブソロというものは盛り上がりを示してゆくものです。
もちろん、その盛り上がり方は、シチュエーションによって変わってくることもあるし、その人の得意としているパターンもあると思います。
イメージを図示してみると、こんな感じになります。色々な要素を複合して「盛り上がり」というものは作られる。
盛り上がりを「要素分解」する
そういう盛り上がり、聴いたら、わかると思います。
しかし、演奏側、音を「提供する」側にまわれば、同様な感動を演出するためにトレーニングを積む必要があります。
これがなかなか難しい。
多分、セックスとかと同じで、感性でなんとなく上手くやっちゃう人はいるはず。
ですけど、自分がそこまでそういうのに長けてない場合は、それを理性でコントロールする必要がある。
「要素分解」「解析」が必要です。
まずは一つのパラメーターをいじってみることを仮定しましょう。
例えば、同じような第二段階(その2で述べたやつです)のフレーズを2コーラス吹くとしましょう。
音量のパラメータをいじってやるとどうなるか。
後半の音量を少し上げるだけでも、ソロの構成としては盛り上がります。
音高のパラメータをいじるとどうなるか。
後半のフレーズに高めの音域の音を入れると、やっぱり後半盛り上がる感じにはなります。
こういう観点で、すべての要素を検証してみましょう。
自分の好きな音源のソロを聴いてみましょう。
音の高さはどうなっているのか、音量はどうか、フレーズの細かさはどうか?すべてそのパラメーターだけに注意しながら聞いてみればいいと思います。
慣れてきたら複数の要素をソリストがコントロールしていることも見えてきます。
ソロの盛り上がりでは、複数のパラメータが複雑に変化します。
今度は、自分で複数のパラメーターをコントロールしてみましょう。
例えば、ソロの全体を4つ(例えば2コーラスソロだと半コーラスで一つのセクション)のセクション、
A-B-C-Dとわけてみましょう。
A:フレーズは第1段階(空白多め)
B:第二段階のフレーズ主体
C:同じく第二段階だが、フレーズにハイノートとかが少し混ざる
D:全体に音量大きめ
みたいに構成すれば、立派に、ソロの起承転結感をつくりだすことができます。
A:第一段階〜第二段階
B:第二段階のフレーズ。しかし裏コードやコードの代理などで、フレーズをカラフルに
C:フレーズとしてはシンプルなリフに近いが、ハイノートで大音量
D:第二段階 音はやや小さく、音高もテーマメロに近いレベルに下げて終了
みたいなのもあるでしょう。
A:第一段階 テーマモチーフの展開
B:第二段階
C:第二段階だけど、一瞬瞬間最大風速的に第三段階のフレーズを入れる
D:第二段階のフレーズ〜第一段階に戻り終了
みたいなパターンもあるでしょう。
歌ものの間奏のソロって、こんな感じのクールなパターン多いですよね。
もちろん、こういうソロの盛り上がりは、ソリスト一人の手によるものではありません。
例えば、Miles Davisの"Nefertiti"という曲があります。
これは同じテーマメロディーは変わらず、コーラスが繰り返されます。
しかし同じことをやっているわけではなく、バックのサウンド、コード進行やアンサンブルは、静的なものからどんどん動的になり、サウンドは豊穣になり、最後は静的な状態に回帰します。
フレーズは一切変化させずに、フレーズの背後のコードやリズムセクションの複雑さを変化させています。
曲の構成、盛り上がりという要素に関しては、ソリストはあえて動かず、その他のプレイヤーにゆだねている、という構図です。
大変実験的でもあり、クールな例であると言えます。
ネフェルティティは極端な例ですが、自分ひとりで盛り上がりにくい場合は、バックのサウンドにも協力してもらうのも一つの解決策です。
リズムセクションの方々(特にドラムの方)は、テーマやソロに応じてサウンドそのもののに追随することを、フロントの方よりも早い段階で手がけていることが多いと思います。ですよね?
もちろん、経験やもてなし力が足りないリズムセクションの場合、逆に自分が盛り上がっても、バックサウンドが反応してくれないような時はまずまず。このときは、桶狭間の戦いで部下が付いてきてくれないパターンの織田信長。討ち取られるだけ。*1
練習の時に
練習するときに、この一つひとつの要素を検証しながら、ソロを演奏してみましょう。
盛り上がっている時のパターンとして、音量を上げる、音高をあげる、フレーズを激しくする。
さらに、この複数の要素を組み合わせる。
やってみるとわかりますが、複数の要素は簡単に足し合わせできないものです。
例えば、大音量でハイノートでなおかつ細かいフレーズを吹くのは、現実的に難しい。
フレーズの細かさと音量はトレードオフの関係にあるからです。
音量と音の伸ばせる時間もトレードオフの関係にあったりします。
そういえば以前こういうことを書いたりもしました。
一番盛り上がるところで、むしろ音はシンプルになったりすることもよくある、という話ですが、
フレーズの細かさはシンプルにする分、音高と音量を上げる、という盛り上がりのテクニックであると思います。
自分の脳内でプランした構成通りに演奏がついてゆくとは限らない。
なので、すべての要素を意識した上で、ソロの構成を一人で練習する時に試しておくのがいいでしょう。
自分なりの定番の流れ、は練習しておかないとなかなか難しい。
プロの方の演奏でも「またこのパターンかよ」と言いたくなるのもありますが「そのパターン」を作ることさえ、結構大変なんだぜ、と思いますね。
フレーズそのものはともかく、楽譜に、そういう盛り上がりの構成を書いておく、というのも一つのやり方です。
プロの方でもそういう盛り上がり計画を事前に書いている方、いらっしゃいます。
まとめ
ソロの起承転結(構成)には様々な要素があります。
いろいろな要素について、盛り上がる時にアクセルを踏めるように、練習の段階で試しておくとよいでしょう。
*1:とはいえ、チョー上手いリズムの方々で、「お前のそれくらいのソロの盛り上がりじゃあこっちは反応しねえよ」みたいな態度の方もおられます。セットリスト全体を考えると、それはそれで正しいのですけどね。そういう時は頑張って盛り上がってもらうくらい単独で頑張るしかないですかね……