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Stay Blue " Bill Evans ” 特集 その2

Stay Blue “ Bill Evans 特集 ” その1 - 半熟ドクターのジャズブログ 
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続きです。


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Comrade Conradという曲は親友のConradにあてて書かれたBill Evansのオリジナル曲です。
非常に美しいコードワーク。しかし四拍子と三拍子を行ったり来たりする、なんとも言えない曲ですね。
*1
日本のミュージシャンですが浜崎航さんと福田重男さんのDuoアルバム"レイチェルズ・ラメント" でもこの曲取り上げられています。
このアルバムおすすめです。


先ほど触れましたが、Bill Evansの複雑な精神性の一因には、当時のジャズ界において、白人のBill Evansがいささかデリケートな立ち位置に置かれていたのもあります。
もちろん、Benny GoodmanやGlenn Miller楽団などのスウィング時代*2、それからCool Jazz、West Coast Jazzなど、白人がジャンルを牽引したジャズのサブジャンルはありました。
が「ジャズの本丸」でもある東海岸のジャズにおいて、黒っぽさが全くない白人ミュージシャンがピックアップされたのは、おそらくマイルスがビル・エバンスを抜擢したところから始まるのではないかと思います。*3

ウィントン・マルサリスが監修しているKen Burns Jazzというジャズドキュメンタリーがあります。
これは黒人のジャズマンを中心に据えたジャズの歴史であります(この史観では、前述のスウィング・ジャズやウェストコーストは、白人による黒人文化の搾取、と描かれている)しかし、そのKen Burns史観をもってしてもビル・エバンスを無視することはできなかったわけです。*4
この後、ヨーロッパのジャズも含めて、ジャズは多国籍化してゆき、人種による峻別が相対的に薄れてゆきます。ジャズはグローバルな、コスモポリタンな音楽になってゆくわけです。
その潮流の序盤にビルエバンスがいたことは間違いない、と思います。

ただ、その副作用とでもいいましょうか。ビル・エバンスはその奔流の中でずいぶん傷ついたようです。
おそらくビリー・ホリデイが白人のショービジネスの文化の中で傷ついたのと同じく、ビル・エバンスは黒人コミュニティの中で深く傷ついたのだと思う。
結果として、麻薬耽溺を深め、早世してしまったのは残念なことです。

次の曲いってみましょう。



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この曲もスタンダードです。
玄妙なコードワークが多くのミュージシャンを魅了しました。
きれいな曲ですよね。
Bill Evansもソロアルバム”Alone”で取り上げております。
このバージョンではかなり複雑な転調を繰り返しています。

先程「Bill Evansが”におわせ”」と言いました。
Bill Evansの生涯に何人か女性はでてきますが、エバンスは女性を冠した曲名をいくつかつけています。
(ちなみに最も有名な Waltz for Debbyは、姪御さんです。これは男女関係ではないのでよかった!)
インストなので、Aiko的に関係性を歌詞に織り込んだりとかはしませんが、割とロマンティックなタイプといえるでしょう。

ロマンティックなタイプ。言い方を変えると、自己中心的な視点でもあります。
ちょっと、メンがヘラっちゃっていると思いますね。

最初の奥さんが列車に飛び込み自殺をした3ヶ月後に次の奥さんと結婚していたりしたりもします
   ……ま、サイコパスですよね。それでも多分主観的には被害者意識は強いようですから。
そういう逸話を考えながら、アルバムをじっくり聴いていると、どうもタイトルが気になってくる。
スタンダードにしろオリジナル曲にしろ、です。

Suicide is Painless=死ぬのはこわくない。とか。
酒バラもそうですね。依存で崩壊というモチーフに、明らかに惹かれています。
「彼の人生は緩慢なる自殺であった」といわれる破滅的なものでした。

それにしても、曲名でメッセージを伝えるのは、あんまりよくない癖なんじゃない?とは思います。
自分作曲ではないにしろ、 "A house is not a Home "という曲名、やっぱ奥さんはいやじゃないかなあ……と思う。
"Two Lonely People"とか、そういうオリジナル曲もあるし。


最後の曲です。
My Funny Valentine。

Jim Hall とのDuet ”Undercurrent”より My Funny Valentineという名曲。
普通ボーカルものでバラードの形が多いのですがこのテイクでは緊張感みなぎるSolidな演奏が特徴的です。
インストのDuoとしては、非常に緊張感のある名作と言えます。
「きちんとBill Evans聴こう」と思ったら、私はまずこれをかけることにしています。

ご清聴ありがとうございました。

*1:ライブ後、私はこのComrade Conradにすっかり魅せられてしまい、隙間時間にピアノを触る場合、これを選んで弾くことが多くなりました。一見トリッキーにみえてシンプルなコード。スーパーマリオ 1-1みたいな感じで、いつまでも終わらない麻薬性があります。

*2:"jazz is music, but swing is business"とこの苦々しい状況に対してDuke Ellingtonは言ったとか

*3:当時マイルスが白人のビル・エバンスを起用したことについてはかなり話題になったらしく、記者に聞かれて「俺はそいつがスウィングさえできれば、そいつが緑の息を吐く紫色したやつだろうが構やしない」といったという語録が残っています

*4:まあ取り上げ方は可能な限り少ないとは思いましたけど