その2では、コピーしやすいトロンボーンを紹介しましたが、実はトロンボーンのソロ初心者には難しい。音域高いし。ヘタに同じ楽器だとできない時の不全感は大きい。
わかりやすいトランペットのソロをコピーする
トランペットをオクターブ下げてトランスクライブがオススメです。
理由は…
- 楽器の構造の類似性:
楽器構造が同じなので一息で吹けるフレーズのレンジ(音域)は似ています。ピアノやサックス・ギターのフレーズはそもそも吹けないことも多い。トランペットだとのスライドポジション的に難しいものもありますが、音列そのものはトロンボーンでも吹けるはず。
- 音の高さ:
トロンボーンの高速フレーズではスライドの動きを省略できるためか高い音域を使う人が多い。トランペッターには低めでフレージングする人がいます。(勿論ハイノートの方は高いけどね)もちろんこの長所は弱点でもあります。トランペットのピストンなら可能なフレーズも、スライドではできないこともある。
- わかりやすさ:
トロンボーンの高速フレーズは譜面にしにくいんです。ポジション移動を最小限にしたリップトリルのフレーズは聴いてもよくわからない。音をのんでいる場所も多いし。トランペットのフレーズはデジタルで、譜面に落としやすい。トランペットの方が背景の理論を理解しやすい。
私はジャズ研でアドリブは独習したクチですが、大学一〜二年くらいの私は、トロンボーンのソロをコピーしても、ソロの意図や背景がよくわかりませんでした。むしろコピー元をトランペットにした時に、いろいろ視界がひらけた記憶があります。
コピー4天王:
個人的にソロをコピーしやすいトランペッターを勝手に命名しました。
それぞれにすごいミュージシャンだから、バリバリ吹いているテイクもあります。ゆっくりした曲は必ずある。それを狙ってコピーしてください。
Kenny Dorham:
Kenny Dorham - 1959 - Quiet Kenny - 08 Mack The Knife
"Quiet Kenny" という昭和のジャズ喫茶では絶大な人気を誇ったアルバムの中から、コピーしやすさ、コード進行という意味でこれをピックアップしました。ね、これ聴いたらコピーできるかも?と思いません?実際音は低めでトロンボーンだとスライドがかなり不自然。しかし高音でスイスイフレージングするトロンボーンよりはなんとかなる。
Chet Baker:
Chet Bakerはスキャットのような歌心が特徴。です。なんならスキャットでもいい練習になる。
晩年のChet Bakerはドサ回り旅行を続け、片端から録音し日銭を稼いだので大量に音源があります。巧拙はともかく。また、キャリア初期はアイドル枠だったのでソロは短い。
後期ではSteeplechaseの作品群がドラムレスで聴きやすく、おすすめ。"Chet Baker In Tokyo"もいいですね。
レパートリーは少なめで、同曲の別テイクも多いのも特徴。
Chet Baker-But Not For Me
これは Steeple Chase版のTouch of your lips ですね。これを聴いて「あ、こんなんでいいんや?」と思ってください。
スキャットでソロをしてギターのあとトランペットでもソロをしています。でもフレーズ感はスキャットもトランペットも同じ。僕の音楽キャリアの中間点での大事なお手本でした。
正直にいえばチェットベイカーのソロは深みに欠け構築力は低いです。しかし、瞬間的な美しさ、歌心という点では随一です。
アマチュアでこの境地が出せればハッピーなセッションライフを過ごせるでしょう。
小難しいソロは音大勢に任せちゃいましょう笑。
Art Farmer
もっとも好きなプレイヤーですが、地味です。端正に練り上げられた、カラフルで地味なフレーズを吹きます。
絶対にハイノートに逃げたりせず、地道に積み上げてゆく。その点でもコピーに向いている。
サイドメンとしての活動も広範囲で曲のバリエーションも豊富です。
Art Farmer & Ray Brown - In a Sentimental Mood - LIVE HD
Art FarmerのCDの紹介とかすると多分2万字くらい書けちゃうので、晩年のライブ映像あげときます。
これは晩年ですが、若い頃からこんな感じです。ちなみにこの楽器はモネ製のフリューゲルホルンとトランペットを足した「フランペット」というやつです。
みんなArt Farmerのこともっと好きになって!
Miles Davis
ジャズマンなら誰でも知っている帝王マイルス。常に変化し続け振り返らなかった男。
栄光の表街道を歩み続けたためマイルスの足跡はそのままジャズ界の名所観光案内にできちゃうくらいです。
"Cool"と評される彼のスタイルは、音数は少なく間を大事にするもので、初心者でも試しやすいと思います*1。
特にテーマのうたい方、バラードの間はとても素晴らしいプレイヤーです。
ピッチはあまりよくありませんね*2 。
Miles Davis Quintet - Blues By Fiveマイルスはいろんな時代をがありますが、まずコピーしやすいのは、1950年代。Kind of Blueが1958ですが、それまでの作品がセッション登場率が高いですね。Cannonball Addreleyの枯葉はいうに及ばず、マラソンセッション4部作も凝ったことせずにスタンダード吹いてますから参考度高いです。ソロもそんなに長くないし。
セカンドクインテットの頃のサウンドが理解できるようになればコンテンポラリージャズへの道が開けるかもしれません。
* * *
以上、この辺りがトロンボニストにとってコピー(トランスクライブ)しやすいかなと思います。
ジャズトランペットは奥が深いものです。すばらしいプレイヤーが数多くいます。
サックスやピアノ、ギターに比べると、トランペットのソロはトロンボーンに引き写しやすいです。
ぜひトライしてみてください。
長いソロの序盤をコピーする
ソロというのは、そのプレイヤーの自己表現です。
難易度の高いテクニック、高い音など、自分を誇示する部分があるものです。それを真似るにはそのプレイヤーと同じ力量がないと吹けない。
ただ、ソロには起承転結があり、構成があります。
逆にいうと、盛り上がりではは難しくても、入り口はおさえ気味だったりします。
アウトサイドの音も少ないし、フレージングもシンプルで真似やすい。
ものすごいテクニシャンの4コーラスのソロのうち、最初の1、2コーラスは80%くらい吹けるけど、3-4コーラス目は半分も吹けない、なんてあるでしょう。そんなことよくあります。まあ、今の自分にわかる1-2コーラス目を丁寧に練習しましょう。できない時は何年か経ってからまたやればよろしい。
人生は長い。
そりゃ優れたプレイヤーが一生をかけて練り上げたソロをやすやすとは完コピできませんよ。
まとめ:
- トランスクライブは絵描きのスケッチ・デッサンと同じです。基礎力をつけるためにはソロのトランスクライブがきわめて有効です。
- ソロをトランスクライブする行為はそのミュージシャンを好きになり近づきたい、という気持ちを姿勢で示していることです。
- 音源を聴いて採譜をし、その譜面をふく行為は、ただ音源を聴くよりも何十倍も深く集中して音源を掘り下げることができます。
- トランスクライブをすることで、自分の好みとか傾向を知るきっかけになります。自分の音楽スタイルの方向性を得るきっかけになるかもしれません。君が音源を見ている時、音源もまた君を見ているのです。