半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

フロントが複数いる時のオブリガードは? (歌伴の時に 番外編)

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前回、歌伴の話
https://jazz-zammai.hatenablog.jp/archive/2018/11/15
を書いたわけです。
これはこれで、もう少し具体例を提示しようと思っていたんですが、一回お休み。
フロントが二、三人いる時に、どう演奏すべきか、書いてみます。
前回の歌伴の時の考えの延長なものですから。

(以前にセッションのことというのも書きました。)

フロントとは

フロント、というとわかりにくいんですが、リズムセクションではない、ソリスト楽器、ということになりましょうか。

いわゆる「管楽器」はフロント楽器と言っていいでしょう。

むずかしいのがギター。
ギターは、ピアノレスではコード楽器として振る舞うし、ピアノがバッキングで、純粋にフロント楽器のように振る舞うこともある。
もちろん、ピアノとギターでコード楽器として伴奏を分担することもあります。
このあたりの機微は非常に難しい。
ジャムセッションなど初対面でピアノとギターの役割分担がうまくでき、なおかつ、ギターもピアノもお互いにスペースを譲り合って紳士的にサウンドを形成できる人は、相当な上級者といってもいいと思うくらいです。

ギターは多様なスタイルを取りうる自由度の高い楽器だといえますが、その分、自分のスタイル、立ち位置、見識が問われる。
自分の出す音、だけではなく全体のサウンドをきちんと捉えた上で、自分のサウンドを形作れる演奏が、個人的には好みです。
*1

* * *

話がそれました。
フロントが複数いる場合、ジャムセッションなどで事前に綿密な取り決めをしない場合*2、基本的にはテーマのメロディーを吹く人が、明示しないまでも「リーダー」的な役割をになうことになり、全体の流れを指示します。
*3

この時にそれ以外のフロント楽器奏者はどうするべきか。
よくあるのが、テーマを前半・後半半分に割ってテーマを吹く人を分けるパターン。
それ以外の場合はなんとなくオブリガードを二番手の人が吹く、というやつですね。
このときですが、オブリガードを誰かが吹くと、「あ、ここは吹いていいんだ」みたいに、また別の人もオブリガードに参加する、
みたいなことがセッションではしばしばあります。*4
吹くべき、吹かないべき、ということを、他人の様子をみて日和見的に決めている人は、よくこういうことをする。

我々には「群れとして行動する」習性があります。
たとえば、信号待ちをしている時に、誰かが渡り始めたらぼんやりとみんな追随しちゃう、みたいなことが起こる。
そういう習性として、この行動には理解ができます。
ただしサウンドとしては容認できないことが多い。
オブリガードが二重になると、それぞれのフレージングが干渉して邪魔をします。
結果吹かないほうがましになります。

さらにいうと、ピアノやギターのリズムセクションがオブリガードをとることもある。
フロント楽器とピアノOrギターがオブリガードで干渉するのも、美しくない光景です。

こういうときに、サウンドを濁るのを嫌う人は吹くのをやめるわけで、結果として「悪貨は良貨を駆逐する」もしくは「言うたもん勝ち」方式で、美しくないサウンドになってしまうことが多い。
セッションという形式どうしても好きになれない人は、ここが容認できないっていう意見、根強くあります。

もちろん、すべての曲で、整合性や美しさを追求しなくてもいいんじゃないか楽しくやろうや、という考えもあります。
ジャムセッションは偶然性の音楽なので、時にはカオスがあったり、カオス、喧騒の中にある美もあるでしょう。
盛り上がる部分では、ある程度容認されると思いますし。デキシーランドの現代的な再構築、みたいな複数のオブリガードラインの錯綜を楽しむようなものもあると思います。

ただ、サウンドを美しく保つための共通認識は知っておいたほうがいいと思います。*5*6

* * *

あくまで、本日の内容は、一つの「形式」にすぎません。
こういう予定調和を、わざと無視するというのも、一つのスタイルだと思います。
確信犯でやっているのは、ありだと思う。
でも「僕マナー守ってるもんねー」と思ってマナー守れていないのは、端的にいうとダセえ。
アウトフレーズを吹くのはOKでも、音外してるのはかっこわるいじゃないですか。
それに、これはマナーという礼儀作法だけでなく、美意識という普遍的な問題でもあります。

まとめ:

  • オブリガードを吹く人は原則として一人。
  • テーマにオブリガードが入ったからといって、別のもうひとりがさらに別のオブリガードに加わるのは禁忌行為。
  • オブリガードを吹くときには、全体のサウンドをよく注意する。

ま、セッションって、基本、吹きすぎ、弾きすぎが多いよね。
自戒をこめて。

*1:ギターとピアノの関係性はまたこんど。

*2:バンドの場合は、事前にトリッキーな展開を決めておくことは十分可能で、それこそがバンドの醍醐味だとは思います

*3:歌もののようなテーマフェイクがある程度入るような場合は、この図式が成り立ちますが、問題はConfrimationとかビバップの曲。全員がテーマユニゾンするような状態は、また難しいですね。これもまた別稿で。

*4:これほんと多いんですよ!

*5:この種の衝突を避けるために、セッションホストが登壇する人数をコントロールして、そもそもフロント奏者を一曲辺り二人くらいまでしかあげないところもあります。まあ、妥当な戦略です。

*6:あとはボーカル歌伴と同様、白玉=吹き伸ばしでたとえば八段の歌ものであれば34段、78段目にちょこっと参加するとかの「オブリガード2」とでもいうべき立ち位置。これはオブリガードもメロディーも邪魔しません。トロンボーンの場合はそういうサウンドへの参加もありえると思います。

歌伴の時に その1:

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問:
フロント楽器で歌の伴奏をする時の、コツや注意点はありますか?

私は、歌の伴奏をするのが大好きなんですが、歌伴には歌伴独特の美学があると思っています。
かなり優れたソリストなのに、歌伴では利己的な演奏で、歌の良さを殺してしまうような演奏を目にすると、悲しくなってしまいます。

個人的な好みではありますが、
私が気をつけていることを列挙してみます。

一番大事なこと:

もっとも大事なこと。
歌の伴奏は「歌を引き立てる」ためにあるのであり、自分が目立つためではない……
と、いうこと。

もちろん、自分のスペースでは、目立っていいとは思います。
ですが、あくまでボーカルが主であります。
特にボーカルが歌っている時は、ボーカルがよりよく聴こえるように振る舞うことが望ましい。

トロンボーンという楽器はワンホーンで演奏するよりは、二管、三管で演奏し、二番手以降の立ち位置が多い。
ですからボーカルの伴奏で、一歩下がって演奏することに関しては、割と体得しやすいんじゃないかと思います。
 「はべり(侍り)」慣れしてる、といいますかね。

逆に、空気でも吸うかのように自分が演奏の中心であるかのように振る舞う人は、サックス、ラッパの人に一定数います*1。ある種のジャイアニストね。
僕らからしたら、
「そのメンタルすげーなー」
「末っ子か!」
「独りっ子か!」
とか思っちゃいますけど。
そういう人って、ムッとするくらいあからさまに指摘しないと自分がそういう振る舞いしていることに気づいていないんですよね。

* * *
ボーカルを遮ったり、掛けた梯子を外したりして、ボーカルを「つぶす」ような演奏は、簡単にできてしまいます。
そういう「いけない行動」をしないようにするだけで、歌伴については上手になるんじゃないか、と思います。

歌と掛け合いをすること

歌のオブリガードをする時に、本当にただ、自分のオープンなアドリブと同じように、歌と関係なしに音をだしている人がいます。
これは、「ボーカルつぶし」の典型です。

メロディーに近いところでフロント楽器に音をだされると、ボーカルは歌えません。
あまつさえ、メロディーの音とかぶってしまったら……
端的にいって、死刑です。

ではどうするか。
ボーカルを聴けばいいんです。

そもそもボーカルは、譜面の半分くらいしか歌っていません。
ですからデッドポイントともいうべき、ボーカルが歌っていない部分が必ずあります。
それが、歌伴が力を発揮するスペースです。

まず第一歩は、このスペースで、フレーズを吹くことを心がけてください。
そうするだけでボーカルに対して、掛け合いのようになります。
これが、歌伴にとって、まず必要なスキルです。
歌伴に限らず、セッションで2管以上いる場合に、オブリガードを吹く時にも当然必要なスキルです。

これが出来るためには、任意のスペースに対して収まりのいいフレーズを入れるスキルが必要です。

ツーファイブのフレーズブックなどからアドリブを習得した方の中には、大きなツーファイブワンの部分しかフレーズを作れない人がしばしばいます。そういう人は、アドリブソロでフレーズの吹き始めと吹き終わりの位置が何コーラスしても変わりません。
そういうソロは一見複雑なフレーズを繰り出しているようにみえても、単調な、退屈なソロになります。

「なんかあの人難しそうなこと喋ってはるわ…」
だけど、実は話してる内容は本とかの受け売りで、中身はスカスカ、みたいなもんですね。

歌に沿わせる

ただし、歌伴で、常にボーカルのデッドの部分にだけフレーズをはめるのも、やはり単調なものです。
時には、ボーカルが歌っている部分に、音を重ねる、など変化をつけてみることも大事です。
この場合、ボーカルを邪魔しないように、ロングトーンみたいな(白玉)音を伸ばしたフレーズにするか、
ボーカルの歌い方をよくよく聴いていて、ボーカルと同じリズムで、3度もしくは10度でハモるとか、そういうことをしてもいいでしょう。
それから、吹かない、という選択肢もすごく大事です。「休符」も選択肢の一つのカードとして使ってみましょう。

上記を組み合わせる。たとえばAメロでは ボーカルと掛け合いを行い、Bメロでは、ボーカルの背後で白玉を鳴らす、もしくはボーカルのフレーズにハモる、など、サウンドに変化を付けましょう。

ボーカルの歌伴は、全体をアレンジして、盛り上げるところを盛り上げ、落とすところを落とし、起承転結を作るイメージが大切です。

こういうのを習得するためにはジャズだけじゃなくてポップスの歌モノとかもすごく勉強になります。
謡曲だっていいんです。
ボーカルのメロディーに対してどのようなバッキングがなされているか。
いい曲、いいアレンジでは、Aメロ B メロ、サビ、セクションによって、カラフルにサウンドが変わります。

それはジャズでも同じです。ジャズのピアノトリオをバックにボーカルというシンプルな編成でも、
優れた伴奏はやはりボーカルに対しカラフルなサウンドの選択肢を駆使して起承転結をつけます。

そういうのは、そういう意図を持って聴かないと身につきません。

*1:上手い下手は関係なく、います。

速いフレーズを吹くには? その4:

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問い:速いフレーズを吹きたいんですけれども?

その1:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/10/31
その2:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/archive/2018/11/01
その3:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/11/02

の続きです。

(番外編)速い曲

ちなみに「速いフレーズを吹く」とは少し違うのですが、速い曲を吹くには?という悩みもあります。
Cherokeeとか、そういう曲。オープンのセッションでは「トロンボーンの方はちょっと…」と言われちゃうような曲ね。

速い曲だと、どうしてもうまくフレーズを乗せにくいというのは、よくある話。
吹き始めの意識の遅延が、速い曲では致命的になるから。音の吹き出しが遅いと、速い曲に乗っかれない。
一歩が遅いと、高速縄跳び、なかなか輪に入れない。

こういう解決策の一つとして、速い曲では、たとえば2,4でリズムを取ろうとしない、というど直球の解決もあります。
1,3というか、大きい波として捉える必要がある。プロの方に教わったことがあります。

速い曲だと、ある程度フレーズも単純なものになりやすいし、リズムテンションみたいなのをいかした音数を抑えたフレーズも効果的だと思います。
あとは、熱くならないこと。落ち着くこと。
「あっ俺リズムにのれてない!」と思うとアドレナリンがどばどばでてさらに反応速度は遅くなり、唾液がでなくなり音もでなくなり、悪循環を引き起こします。

最後にどっちらけ

ところで、いわゆる「音数」主義、速いフレーズをパラパラと吹くという、スピード偏重に陥るのは実はあまり賢いアプローチではない。
制限された状況の中で上手に音を選ぶ方が、音楽の本道ではないかと、実は思ってます*1
自分がそれを達成できていないからこそ、強くそう思うわけです。

トロンボーンだけみていると、そういう気は不思議とならないんですが、マイルスのバラードプレイとか、ポール・デスモンドチェット・ベイカーの枯れ枯れプレイなどは、速弾きのように「空間にフレーズを充填しなければ…」という強迫観念とは無縁にみえます。
休符を自由自在に操ることが出来ると、演奏の質はぐっと変わります*2

しかし、僕も若い頃はそうは思いませんでしたし、古今東西のジャズ・トロンボニストも、多かれ少なかれこのトロンボーンというフレーズとりにくい楽器で、いかにフレーズを吹くかという強迫観念に捕らわれている。
これは、永遠のテーマなんでしょうね。

これは選択肢の問題でもあります。遅いフレーズしか吹けない場合は遅いフレーズしか選択の余地がないわけですが、速いフレーズを吹けるなら、遅いフレーズと速いフレーズを選択することができる。
実際、Toots Thielemansとか、Miles Davisとか、空間をゆったり使う名手も、キャリアの初期の段階では吹き倒している録音があるから、基本的にゆったり吹く状態のままで最適な音を選び取るよりは、沢山吹ける人が、音を抜いていく、という方が、発達段階としてはやりやすいのではないかと思いました。

 ゆっくりなフレーズを吹いていても、速さというものは十分に感じられるものです。(ベースソロなどをイメージしてみて下さい)。
 それは、多分、速いフレーズも手中におさめているからではないか、とも思います。

 トロンボーンにとっての速いフレーズは悪い意味でも、良い意味でも、禁断の果実です。
 若い時は一度は志向するもんです。
 そこから、いかに余分な音を抜けるか、というのが腕の見せ所なのかもしれません。
 
 また「上手く吹くこと」と「善く吹くこと」というのは違う。
 これは忘れないようにしないといけません。
 僕なんかはもう、しょっちゅう忘れているんですけれども。

*1:これを書いたのは10年以上前なのですが、やっぱり今でも思います。

*2:バークリーの講師であるHal Crookの"How to Improvise"という本の第一章は確か休符だったように思います。

速いフレーズを吹くには? その3:

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問い:速いフレーズを吹きたいんですけれども?

その1:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/10/31/104041
その2:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/archive/2018/11/01

の続きです。

速いフレージングをするためには速い音が吹ける「音の精度」が必要
ということを述べました。
具体的にはどのような練習が必要でしょうか?

高く跳ぶために

「音の精度」はフレーズを速く吹く練習だけでは身に付きません。
結果的に音の精度が上がれば、速く吹いても大丈夫になります。

小学生のころはひたすら遊びまわって走っていれば、足が速くなりました。
F1マシンのエンジンは、速く走らせながらビルトアップするわけではありません。*1

自分の音の精度を見つめ直すためには、一つ一つの要素を分解し、それを極端に引き延ばしてみることで、逆によい結果を得られることがあります。
一つ一つの動作を、クローズアップして、チェックする。
一見逆説的なようですが、つまりそのために動作を極端にゆっくりにしてみるわけです。

高く跳ぶためには深い井戸に潜らなければいけません。

まぁ、こういったいわゆる「楽器」のアドバイスに関しては、実は僕あんまり自信がないんです。
自分は自己流ですし、いわゆるトロンボーンの上手さというのと今ひとつ無縁で育ってきたので。

プロフェッショナルのジャズ・トロンボニストの中には本当に超絶技巧の方が結構おられますし、来日した際にはあちこちでクリニックも開かれますしね。
以下は一応個人の意見ということで、あまたある方法論の一つと考えてください(弱気)。

リップスラー

前回「リップスラーはがむしゃらにやったらがむしゃらにやっただけ伸びるで~」と書きました。
一つだけ注意しておきます。

速いリップスラーを"んあんあんあ"と超スピードでひたすらやる、という練習にはご用心。
リップスラーは、出来るだけ目的とする音でぴったり止めるイメージを大切に。

 基礎練とかで妙に張り合ったりする馬鹿がいるじゃないですか(はい、私もそうでした)。
 速さばっかり気にして、ラフにやっちゃうと、練習の効用は低くなる。
 こういう吹き方をしている奴の頭の中は「上へ」と「下へ」しか考えていない。

 これは「精度」というものを考えるためにリップスラーの練習をする、という本来の目的からは反しています。

 音の変わり目を十分に意識すること。

 ゆっくりのリップスラーは非常に効果的です。
 例えばD→Bbを出来るだけゆっくりやってみる。どこかでブリンと音はD→Bbへ変化する訳ですが、そこの継ぎ目をなくす練習というのをしなさい。
 と僕は教わりました。
 要するに、階段のように降りるのではなく、なだらかな坂道のように降りてみなさいということ。

 実際やってみると、半音から全音くらいは唇だけで下げることは出来ます。もっと丁寧にやると、スラーの際の"ブリン"という音の変わり目を、ほとんどギャップなしに繋げることができる。リップスラーの不連続線を出来るだけなくす。そして、しっかり目的のBbの音程に着地する練習をしてみること。

 そうやってゆっくり上下動し、変化した後の音が安定するようにイメージしてみる。

 そういったイメージを持った上で、速い練習をしましょう。

タンギング

 これも速いタンギングのばっか練習しても、無駄な力が入るばっかりでよろしくない。

 トゥートゥートゥートゥートゥトゥトゥトゥツツツツツツツツ…というブラバンによくある
 タンギングの練習は、総じてバカに見えるので注意。

 ロングトーンで音を吹いているのを、長いお豆腐のようにイメージしてみますと、タンギングは、お豆腐を切り分ける包丁のようなものです。

 この包丁の精度が大切です。
 薄い剃刀で豆腐を切ると綺麗に切れるでしょう。
 が、例えばお箸のような鈍なもので切ると、切り口はでこぼこぐちゃぐちゃです。
 タンギングの際のイメージはそんな感じです。ぶりっ、ぶりっとするのではなく、精度を高めるイメージ。
 音は辛うじて切れてはいるけれども、切り口は無限小に近い。

 Doodle Tonguingという言葉もあり、僕もなんちゃってDoodleですが、あくまで技術的な解法。
 イメージすべきタンギングの原則というのはこのような感じではないかと思います。

音の出だし

 タンギングリップスラーの精度とも重なりますが、音の出だしそのものにも注意を払ってください。

 先ほど、音を「お豆腐」に例えました。
 まず、それこそお豆腐のように、極力平板に音を出すイメージを持ちましょう。ブラスバンド出身の奏者は、パーンと響かせるような音の出し方に慣れている場合が多いんです。
 平板に、フラットに音を出す。これができた上で装飾していく。
 そして、その音の最小単位を極限まで精密に作り込む。

 ロングトーンをしていて、音量を徐々に落としてやります。息の量が徐々に減ってゆき、ある時点で音は出なくなります。
 逆に、無音の状態から、息だけを出し、徐々に息の量を上げてやります。タンギングをしてはいけません。
 そうするとどこかで音が出ます。

 この音の出だしが「ブリン」とならないように、出来るだけゼロから緩やかに立ち上がるようなイメージで吹いてみること。

 要するにこれが自分の音量の最小単位というわけです。
 最小単位が小さいことは、例えば写真でいうと、ピクセルが小さいことです。
 より細かい、つまり精度がいい。

 小さい音できちんとフレーズが吹けるというのは非常に大切なことですが、
 普段曲を吹いている状態ではあまりそれは認識しにくい。
 こういう練習で、思った以上に小さい音で音が保てない場合、多くは音のきっかけにタンギングを使っています。
 この場合、音の精度は低い、といわざるを得ない。
 余分な一動作が一音一音に入っているわけで、当然フレーズを吹く時の障害になる。
 結果として出音と大脳の間の抵抗感は、かなり大きくなります。

*1:逆説的ですが、小学生が足が速くなるがの如くに、ずーっとやってて深く考えることなく速いフレーズ吹ける人もいます。

速いフレーズを吹くには? その2:

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その1:
https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/10/31/104041
の続きです。

リップスラータンギング、どっちが重要か?

 では、リップスラータンギングは、どちらがより重要なんでしょうか?

 速いフレーズでタンギングが重要なのは、トロンボニストにとってはもちろん自明の事です。トランペットなどのバルブ楽器と違い、トロンボーンはスライドを動かすわけですが、タンギングを当てなければ音になってくれません。

 が、実はそれと同じくらいかそれ以上にリップスラーも重要なんです。

 アドリブの時には音は倍音をまたいで細かく動きます。
 リップスラーをちゃんとできていないと、そういうフレーズの動きに対応できない。
 音型が動かずにタンギングだけが出来ても、それはあくまで「速いタンギング」であって「速いフレージング」ではないですから。
 トロンボーンでの高速フレーズの多くは、チューニングBb よりも上のレベル、Fの辺りが多いのですが、このあたりで自由自在にフレーズを繰り出すのであれば、リップスラー・リップトリルが速いに越したことはないですね。

 タンギングリップスラーは、レースカーのエンジンとタイヤの関係に似ています。
 車としてのパフォーマンスが一段階上がるためには両方の要素がレベルアップする必要がある。
 エンジンの馬力が上がっても、タイヤがそのままだと、運動性能はそれほどは向上しないし、逆も然り。
 同様に、リップスラータンギングの能力の両方がそろって初めて音の精度のレベルが上がると思って下さい。

どっちが先?

 
 ところで、僕は初学者にはリップスラーをまずやることをおすすめしていました。

 それは、タンギングはがむしゃらに練習してもあまりうまくならないから。
 けれどもリップスラーはがむしゃらに練習すればある程度用量依存的にうまくなります。

 タンギングは、今までよりしっくり来るタンギングのポイントを見いだすと、一ヶ月から二ヶ月くらいでぐっと吹き方が変わり、その結果、限界速度は急速に上昇します。しかし、そういうコツが見つからず、ただ筋力トレーニングのように練習をこなしても、やればやっただけ動きが速くなる、という保証はありません。

タンギング」のための練習は、正解を見つけるような感じなんですよ。
タンギングに関しては、幾つかのブレイクスルーを経て階段状に上達するといえましょう。

 一方リップスラーは基礎体力に近いようなもので、練習をすれば、時間を掛けただけ大体上達効果が得られる。
 リップスラーは、直線的に、用量依存的な上昇カーブが得られると思います。

 つまり、例えば野球選手で言えば、いわゆる筋力とか瞬発力、持久力のようなアスリートとしての基礎体力のようなものがリップスラーで、選球眼とかスウィングフォームのような、センスに関するものがタンギングだと思います。

 実際、僕なんかは現役を離れて、時々にしか吹かないアマチュアトロンボニストに成り下がっているわけですが、リップスラーは、練習していないのが祟って、随分衰えました。しかしタンギングに関してはそれほどマックススピードは落ちていない。

 タンギングは一度正解を見つけると、それほどは衰えないのに対し、リップスラーは一度つかんでいても、練習しなければ落ちる能力であるということです。

 ですから、とりあえず何を練習すればいいかわからないときは、リップスラーを練習しましょう。
 これは時間のあるうちにしかできないものです。
 RPGでいうレベル上げ、みたいな作業と思ってすればいいと思う。

 タンギングは、できれば上手い先輩とか、プロの方について習得することをおすすめします。

 ところで、プロフェッショナルな領域のレベルでは、タンギングも練習して維持し続けなければいけないもののようです。
 早いシラブルを吹くためには、一つ一つのタンギングを出来るだけ素早く連結する必要があります。これは確かに不断のトレーニングをしないとある程度落ちる能力だと思う。
 それから、「タンギングは落ちない」といいましたが、それも程度問題で、やはり限界域でのタンギングのきっちり具合はある程度落ちます。但し、リップスラーに比べると遙かにましですけれども。

まとめ

速いフレーズを吹くには? その1:

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問い:速いフレーズを吹きたいんですけれども?

 受験生のほとんどがもっと頭が良くなりたいと思っているように、そして女性のほとんどがもっとキレイになりたいと思っているように、ジャズ・トロンボニストのほとんどが、より速いフレーズを吹きたいと思っているんじゃないでしょうか。
 え?私だけ?

 トロンボーンでジャズをやるとき、ボトルネックになるのがフレーズを吹く時のスピードです。
 ことフレーズの細かさ勝負では、他のフロント楽器と競り合いをするとどうしても見劣りがします。

サックス三倍段

 えー、俗に「ラッパ二倍段、サックス三倍段」という言葉があります。

 例えば一年生のトランペットと二年生のトロンボーンが大体吹くフレーズ的には同等であります。サックスであれば、一年生のサックスと互角にやりあうにはトロンボーンは三年生ではないとだめだということですね。

 一応補足しておきますと「剣道三倍段」という言葉がありまして。
 剣道は得物を持っているので有利だから、剣道の初段に勝つには空手なら三段くらいの実力がないと駄目だと、そういう言葉です。
ま、僕も『空手バカ一代』で読んだ知識ですけれども。
 はい、この言葉は2000年くらいに僕が作りました。*1
 速いフレーズを吹くためには、やはり何らかのトレーニングが必要です。
 決め手は、一つ一つの音の精度。

 細密画を描くには、ペン先を細くしなければいけないのと同様、速いフレーズを吹くのには一つ一つの音の精度を上げる必要があります。ペン先がつぶれていては、細かい絵は描けません。
 フレーズの構成要素たる一つ一つの音。その音の精度は、最低限細かくできないといけない。

精度が高いということ

 ところで「音の精度が高い」とは、どういうことでしょう?
 例えば、精度の高いエンジンというのを考えてみて下さい。

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 精度の高いエンジンは、一つ一つの部品の精度が高い。
 では、その「部品の精度」というのは何かというと、部品同士が組み合わさった時にミクロレベルで規格が保たれている必要がある。
 接触する部分はなめらかで、余分な凹凸がない。
 部品と部品の間の隙間も一定で、設計通りに可動部分が動くこと。
 そういった個々の部品の精度の高さの結果、精度の高いエンジンは同じパワーゲインでも生じたパワーを効率良く伝達できる。

 フリクションロスとして逃げるエネルギーは不必要な振動や熱エネルギーに置換され本来のポテンシャルを妨げる。
 例えば垂直に動くピストンの力のベクトルが0.1度でもずれると縦方向の力は減少し横方向の摩擦や振動になり、本来のスペックを下げる。

 同じインプットでも、余分なフリクションロスがなく、結果としてアウトプットの効率がいい。
 結果としては動力のベクトルはシンプルである。
 これが、精度が高いということです。


 フレージングに関しても全く同じです。
 どんなに巧い人間でも、舌の動くスピードは、カメレオンや蛙並にはできない。
 舌の筋力も鍛錬しても何倍にも増えはしません。
 唇周辺の筋肉だってそんなムキムキにはできませんよね。
 インプットパワーにはそれほど個人差はないんです。
 問題は、そのインプットパワーが、ダイレクトに出音に反映されているかどうか。
 余分なエネルギー減衰が起こっていないかどうか。

 エンジンの動きの最小構成単位は一回転だと思いますが、フレージングにおける最小構成単位は一つ一つの音です。
 さらに、それをもう少し要素分解しますと、リップスラータンギングになります。

 多くの初学者は、リップスラータンギングいずれか、もしくはその両方に問題があります。
 その結果、一つ一つの音の出始めで、大脳皮質と唇の間にタイムラグが生じてしまう。
 反応から出音までの速度が遅いと速いテンポの曲や速いフレーズに対応出来ない。

* * *

 この様なタイムラグは、用意されている譜面を吹く場合よりも、アドリブを吹くときに、より顕著に表れる傾向があります。
 例えばバップっぽいテーマはなんとか吹けるけど、そのあとアドリブになると、同じ様な音の密度が維持出来ず、途端によちよちしてしまうような経験はありませんか?
 これは、決められたフレーズであれば、決められたコンビネーションで反復練習すれば意外に追随できるのですが、決められていないフレーズを吹くのであれば、脳〜フレーズの想起、想起されたフレーズ〜出音の両方が累乗的に遅延作用し、みるも無残な結果になってしまう。

まとめ

  • トロンボーンで速いフレーズを吹くのは大変
  • 速いフレーズを吹くためには、エネルギーロスの少ない、「精度の高い音」をイメージする必要がある。
  • 音の精度、フレーズの構成要素としては「リップスラー」と「タンギング」がある。

(2005年くらいの原稿の Refine)

*1:どっかに言って若いトロンボーンの子と話していると、この言葉が出てきてニンマリした覚えがあります

どの曲からはじめる? その4:ダイアトニックとノン・ダイアトニック

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その1:どの曲から始める? その1 初学者の場合 - 半熟ドクターのジャズブログ
その2:どの曲を始めるべきか? その2 レパートリーを増やす - 半熟ドクターのジャズブログ
その3:どの曲からはじめる? その3:調性 - 半熟ドクターのジャズブログ
の続きです。

その3では曲を増やしていくときに、苦手なキーもほどほどレパートリーに含めながら苦手キーを作らないようにしたほうがいいですよ。
ということを言いました。

同じキーの曲でも、難しい曲と簡単な曲があります。
どうやってそのあたりを識別したらいいんでしょうか?

曲の中のトーナリティー

 ジャズって、たとえばキーがFだとすると、最初っから最後までFで吹けないことが多いです。
 ずっとそのキーで演奏できる曲はむしろ少数。

 そういう曲は「一発もの」と言われたりしますが、トーナリティーに強く拘束される。キーのドレミから離れない。
 一発性の曲としては、そうですね……

  • Mack the knife
  • ブルース全般*1
  • Watermelon Man
  • 聖者の行進

 くらい。これらの曲は、基本的にはそのキーのドレミファソラシドから外れない。

* * *

 話はがらりと変わるんですけれども、最近わけあって、童謡歌集というものを買ったんです。

 「さくらさくら」とか「蛙の歌」とか、そういう「童謡」。ほとんどの曲が全く転調がない。そうするとメロディーは完全にそのキーのドレミで唄えちゃうわけです。こういう曲のコードは、多くがその曲の調のトニック(Ⅰ)、ドミナント(Ⅴ)、サブドミナント(Ⅳ)で構成されている。
 もう少しいうと、そのキーの部分には「ダイアトニック・コード」が割り当てられている。

 ダイアトニック・コード?
 ジャズの教則本には大抵載っていますし、Web上にも良質のテキストが沢山あります「ダイアトニック・コード」で検索して各自調べてください。

 それ以外の曲では、もとのキーで吹ける部分=ダイアトニック・コードの部分の中に、他のキーに転調している部分(ノン・ダイアトニック・コードの部分)が点在している。
 

曲の複雑さ:

 そろそろ結論に近づいてきましたが、曲の複雑さは、ノン・ダイアトニック・コード(ダイアトニックコードではない部分)の多寡で決まる……といっちゃいます。
 上述の「一発」曲を除けば、曲中でダイアトニック・コードしか出ないことはまれです。なぜなら、ジャズではコード進行をなんやかやでわざと複雑に加工しているからです。その方がBop的にはソロをとりやすいから。

 それは、Bop-idiomの本質が、そもそもダイアトニックなコードもノン・ダイアトニックなコードも等価的に扱うことから出発しているからです。コードをわざと複雑にすることよってフレーズをトーナルの呪縛から解き放つことができたのでした。バップはダイアトニック・コンポジションのある種のアンチテーゼなんです。

 ですから、バップでアドリブするかぎりトーナリティーは重要ではありません。逆にいうとバップらしく吹くということは、ダイアトニックな音から離れることを必然的に意味します。

 そういうわけで、ジャズのコード進行では、ダイアトニック・コードとノン・ダイアトニック・コードがブレンドされた格好で存在しています。
 問題はその比率です。

 あくまで大雑把にですが、ダイアトニック・コードが全体に占める比率が、コード進行の複雑さの指標になると思います。
 ダイアトニック・コードの含有率が高い曲では、その曲の調(トーナル)の拘束率が高いわけで、理解しやすい。

 その3でも述べましたが、調性に拘束されやすい管楽器奏者にとってはそういう曲が演奏しやすいのです*2
 我々は転調に弱いからね*3

メロディー

 本質的に同じ事ですが、メロディーで判断することもできます。
 ダイアトニック・コードでは、その部位において、その調のドレミファソラシド(メジャースケール)を使える。ですからダイアトニック・コードの部分のメロディには基本臨時記号はついていません。
 逆にいうと、メロディーの音符に臨時記号があれば、その部分は必然的にダイアトニック・コードではなく、原調を離れています*4

 だから、リードシートのメロディーを追って、ざっと臨時記号の多寡で、コード進行の調から離れ具合を推定できます。
 ちなみに、逆は必ずしも真ならず。臨時記号がつかないメロディーには必ずダイアトニック・コードが割り当てられているわけではありません。*5

まとめ:
アドリブのしやすさは転調の多寡と相関する。
原調に対するダイアトニックコードの比率、メロディーの臨時符号の多寡が、転調の多寡を推測する目安になる。

 ものすごい簡単に言うと、転調が多いと、アドリブは難しくなるという話ですね。
 過去、定量的に調べてみたことがあるのですが、テーマのメロディーに含まれる臨時記号つき音符の比率が20%を超えてくるとちょっと難易度が上がる印象です。

*1:ただしトニックが7thである点で、いわゆる理論的整合性をわかりにくくしている

*2:ただし、全くダイアトニック・コードだけだと、単純すぎてバップでは演奏しにくい。

*3:逆に「そうか…転調に強くなることが必要なんだな」と思っていただければ、このページは目的を達成できたと思う

*4:勿論、経過音、装飾音符などの例外はありますし、マイナーの曲の場合はこの原則にあてはまらない場合がある

*5:例)Over the rainbowの一、二小節目とかそうですよね。この辺がジャズのリハモの真骨頂です。