半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

アドリブをするときに気をつけなければいけないこと

f:id:hanjukudoctor:20190309091014j:plain:w350
裏山。2019年。

どうやってアドリブを吹くのですか?
もしくは、アドリブを演奏する際に気をつけることはなんでしょうか?

めっちゃ身も蓋もない質問です。
気をつけることは多岐に渡り、その優先順位の付け方こそが、各人のアドリブの持ち味になっているようにも思えます。

プロでもなんでもない僕の個人的意見ですが、一般的なことを要素分解してみましょう。

  1. 与えられた場(コード)に対して適切な(時には不適切な)音を出す
  2. ソロの、曲の起承転結を作る
  3. メロディーに意味をもたせる(motivating)

順に説明していきます。

1.与えられた場に対して適切な音を出す

みんながアドリブといえば、まずこれやろ、と考えている部分です。
コード進行に対して、アドリブのフレーズの音を並べてゆく。
フレージングの仕方とか、そういうものです。

要するに、コード進行を理解し、コードの構成音や使えるスケールの音を知り、音を並べることです。
このサイトでも、多くのスペースを割いていますね。

ただ、この部分は、実は全体の一要素にすぎない、という意識をもっていただきたい。
フレージングの技法は、例えば絵画であれば、デッサンの技法、もっと言えば素描のやり方にすぎないんです。

2.ソロの、もしくは曲の起承転結を作る

小節単位での整合性はとても大事なんですが、キレイに音を並べることができても、それだけでは片手落ちです。
一曲として、感情を吹き込むためには、起承転結や展開というものが重要になってくる。

1.を、Photoshopなどで線画だけで描かれた下書きだとすれば、
今度は、それを彩色するようなイメージです。

スケッチ(素描)から、ペン入れを行い、彩色を行う。

f:id:hanjukudoctor:20190309084828p:plain:w240f:id:hanjukudoctor:20190309084450p:plain:w200f:id:hanjukudoctor:20190309084510p:plain:w200
実際の彩色の過程の一例です
Youtubeの出典を提示していましたが、リンク切れになってしまいました)

明確な技法として定式化しづらいのですが、起承転結の構築はフレージングそのものと同じくらい重要です。
フレーズ一つ一つは、あくまでフレーズにすぎない。
いかに適切なソロの音選びをしていたとしても、そのフレーズの連なりがアドリブソロになります。
一つの曲に対し、盛り上がり・起承転結・起伏などを考えないといけない。

もりあがりのないソロは、適切に彩色されていない線画のようなものです。
逆に、少しぐらデッサンが狂っていても(音の選びが間違っていても)、起伏がきちんとある演奏の方が、立体感がある。
ライブ演奏であればなおさらです。

* * *

もちろん、これには時代性もあります。
例えばチャーリー・パーカーの時代、つまりBe-Bopの時代は、レコードに残されている演奏は3分程度で終わり、起承転結のような展開を感じる部分は少ない。
また逆にノーマン・グランツがやっていたJ.A.T.P. (Jazz at the Philharmonic)というシリーズでは、同じ曲を20分とか延々と演奏していて、ソロの起伏とか全体の構成は、これまた別の意味でないがしろにされています。
40年代から50年代初頭のBe-bopはそんなものでした。
Bop-idiomという(虫瞰的な視野)新奇な技法にばかり目がいって、楽曲的な完成度がなおざりにされてもいた。

50年代以降は、コンボジャズも、楽曲性を問うようになり、そのおかげか、ポピュラリティを得ることになります。
和製英語ではHard-Bopと言われる時代ですね。

一般論をいえば、ソロの演奏を展開するとすれば、やや後半に盛り上がりのポイントをもってくることが普通です。
後半2/3のポイントを最初は志向して、ピークポイントを敢えて作ることを念頭においてみてください。
もちろん1/2でも3/5でも、4/5でも構わないのですが…。

ここで大事なのは、盛り上がりって何?ってこと。
一つには音量(ダイナミクス)であったり、音域だったり。
また、フレーズの速さ(細かさ)や、フレーズの複雑性(もとのコードに対しての乖離の度合い)なども、盛り上がりの指標にはなります。
というよりも、こうしたいろいろな要素が渾然となした総体で「盛り上がり」というものは形成されるでしょう。

このあたりも、突き詰めるとなかなか難しい話だったりもします。
まずは、イメージをしていただくことが大事だと思います。
このイメージがないと、なかなか、フレーズ単位の視点から曲全体を見渡す視点にならないから。

3.メロディーに意味をもたせる(motivating)

最後は、アドリブソロを展開するときに、フレーズ(モチーフ)の展開させたり、メロディーに大きな流れを作ることです。

これは厳密にいうと作曲技法とも合い通じるものです。

そもそもアドリブ・ソロとはなんでしょう?
アドリブは、テーマメロディーのコード進行を共通基盤に、また新たなメロディーラインを構築することです。

アドリブソロは、だからSF的な言い方をするとテーマのパラレルワールドみたいなものです。
同じ共通基盤(コード進行)を持つ世界の、一つがテーマメロディであるけれども、別の世界線がアドリブソロ、ということになる。
だから、アドリブソロもまた、テーマと同じくメロディーである、と言える。

クラシックの作曲技法では「反復法」と言われるらしいのですが、メロディーの技法として、Motifを展開するという手法があります。
そうやって作ったメロディー=ソロは、より意味あいが強く、意図が伝わりやすい。
物語性も生まれやすいと思います。

初心者を卒業して、中級者になってくれば、どんなコード進行に対してもコードに合ったフレーズを作ることはできるはずです。
しかし「合っている音を出す」ということと「言いたいことをしゃべる」ということとはずいぶん隔たりがある。
例えば、英語学習でいえば、文法的に正しいかどうかがわかることと、自分の欲求を伝えるために言葉を発するのとは違う。
ストックフレーズを駆使していれば、例えば海外旅行でよくある単語と文を組み合わせてコミュニケーションはできる。
でも、自分の言いたいことをきちんと伝えるには、一から文章をつくらないといけない。

コードに合わせて正しい音を嵌めるというのは、最初の段階。
自由に嵌められるようになってから、自分の言いたいことが言えるようになる。
できれば、そういう技法を念頭において練習した方が、目指しているものが明確になると思います。

まとめ

初学者の時点では 1.のフレージングの作り方を習得するのが第一だとは思います。
これは、小節単位、長くてもワンブレス。4小節くらいまでの視野です。
しかし、2.3.はもう一歩ひいたところから見た視点で曲を解釈することになります。

最初は、局所局所で自分がどう吹くか、自分の吹く音が「合っている」「いない」が気になるかもしれません。
しかしもうすこし大きな視点、1コーラス、1曲、1つのライブなどのスケールで自分の演奏を見渡す習慣をつけておくことを強くおすすめします。