半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

ピッチの話 その3 場末での話

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前回の続きです。
jazz-zammai.hatenablog.jp
jazz-zammai.hatenablog.jp

場末の話

ともあれ、かような歴史的で偉大なバンドにおいて、ピッチは相対的で深遠なものではある*1
しかしアマチュアが普段場末のセッションで演奏する場合は、そういう深遠な話以前の問題。
単にピッチは「いいか悪いか」のレベルに帰結する。

私はトロンボーンなので、特にそう思うのかもしれないが、
バックのサウンドの音程が狂っている中で、自分の音程をうまくあわせることは、なかなか難しい。

ピアノとベースの音程がずれているセッション。
ピッチ感覚がよくても、いやよければこそむしろ逆に演奏しづらい。
どこにあわせたらいいかわからない状態になるから。

でも、このパターンはまだ傷は浅い。
ピアノの音程は、再現性がある分、あわせやすい。
もしピアノの音程が悪くても、その音は何回連打しても変わることはないので対応はできる。

ベースの場合は、全体の音程が高い低いというタイプのずれというより、音程感の悪いベースの人が問題になる。
すべての音の精度が低い、という狂いかたの場合、出音が、どれくらいずれているか、予測できない。
出す音ごとに、その狂い方もバラバラなのだ。
ただ、ベースは低音なので、ピッチの許容範囲は、他の楽器よりは広いとは思う。

もっとひどいことになりうるのはギター。
先程のと比べて狂いの程度は地滑り的に大きくなる可能性がある。
ギターの方の中には、音韻情報には注意を払うけど音響情報に無頓着な人がいて、そういう人は音程が大抵悪い。
ピアノと違って、ギターはチューニングを必要とするが、こちらの許容範囲を超えた音程の場合は、やりづらい。
また、フィンガリングの問題で、きちんと音がでていない人もいたりする。
そういうつぶれた音は、音程以前の問題ではあるが、想定した音をだしてくれない。


こうなると、トロンボーンの僕はフレーズも、高音もあたらなくなる。
昔は自分の調子が悪いと思ってへこんでいたのだが、最近は、そういう状態で音程をあわせようと思っても傷つくだけ。
いつしか傷つくことをやめた。
ただ、こういう状態でも、プロは自分の中の絶対音を引き出せるのか、きっちり自分の音を出し切る。
すごいと思う。
僕はダメだな。そんな不愉快な状況で演奏をする機会は自然と避けるようになる。

* * *

静かに対談できるときは静かに自分の言葉を選んで語ればいい。
が、朝まで生テレビみたいに、お互いの話なんか全然聴いていないようなディスカッションの場では、言葉の正確性はともかくわあわあやりあうテンポとタイミングこそが重要であって、言葉の整合性は二の次なのだろう。
チューニングの狂った場での演奏には、そういう感じがつきまとう。

トロンボーンの吹き方に関する話

いずれにせよトロンボーンは音程は口元で合わせることもできるし、スライドの抜き差しでも細かい調節が可能な楽器だ。
チューニングスライドが多少狂っていても、目的の音は出せないといけない。
トロンボーンの場合、音程が悪いのは耳が悪いと同義で、サックスのように楽器のせいにはできないのがつらいところだ。

* * *

適切でない管長でも、正しい音は出せる。
スライドのポジションはともかく、口でピッチを引っ張り上げたり、押し下げたりすることはできる。
ただし、適切でないポジションで出す音は、口で合わせている分、無理している。
倍音が細って、音色も細くなる。
また速いパッセージで音が当たらない。
要するにスイートスポットにあたっていない音になる。

例えばピアノにBbを出してもらって、トロンボーンの音を添わせる、という形であわせる場合、耳と口で、とりあえず音は合うのである。
だが、曲中で吹いているとしっくりこない。
これはゴルフのスウィングのずれのようなもので、曲中で修正することになるが、まーそういう風に修正は、うまくいかない。

その時、口ので音を上げているか下げているか、をきちんと体感して、ちょうどいい管長をさぐっておく必要がある。
それは結構難しい。
なので、アンブシュアによる修正のない、リラックスした音でBbの音を吹く。
そこにピアノのBbの音を足してもらって、合っているかどうか確認した方がいい。

そうすると、一番気持ちいい音でキレイにチューニングがあう。
パカパカと柵越えのバッティングができるに違いない。

トロンボーンプレイヤー

ちなみに、トロンボーンの場合は、楽器時代がこのようにピッチについて自覚的であることを要求される楽器だけあって、ピッチの感じ方はある程度演奏から推し量ることはできる。ピアノの平均律ベースでAny KeyのTransitionをむりなく行えているトロンボーンMicheal Davis、Conrad Herwig。
逆にこの人達の音は、どこかで「トロンボーンの鳴りのよさ」を犠牲にしている感じがつきまとう。

Bennie Greenとかはその真逆で、Any Keyで演奏なんて全然しないしできないが、トロンボーンにて行われるフレーズとしては非常に鳴りがよい。
現代の人では、Steve Davisはトロンボーンらしさが目立ち、平均律感よりは、Bb調性感がつよい。

個人的にお手本にしたいのはUrbie GreenとJim Pughのピッチだ。

日本のプレイヤーでは、録音で伺うかぎり佐野聡さんと駒野逸美さんのピッチ感覚がすばらしい。
もちろん村田陽一さん、中路さんなど、CDになっているトロンボーンの人は概ねいいピッチではありますけどね*2

正しい「ミ」は、実際のところ、微妙だ。純正律的なミと平均律的なミがある。
これはトロンボーンのスライドにしたら1cm程度は差がありそうだ。

*1:そもそもマイルスの音程自体は、結構微妙…というか、わりにわかりにくい。器楽奏者的に「吹けている」「吹けていない」というのとは別に、調子いいときでさえ、我々とはみえている景色が違うのかな……という微妙な音程感がある

*2:唯一ピッチに関してあまり首肯できないのは、むか(以後自粛)