半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

縦か、横か

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与島。いつだったか…

ソロの時に大事なことはなんですか?

うーん、色々(笑)。


一般的な(大きな)話をしますと、ソロの時に注意をはらう要素としては、

  • リズム
  • コードに即したフレージング(音の使い方)

の二つが、まず考えられます。
もちろん、アタックの綺麗さとか、ピッチのよさとか、音色の綺麗さとか、構成のみごとさとか、他にも要素は山のようにあって、それこそ何に優先度を置くかで、その人のソロの個性になるんじゃないかとは思いますけど。

まあまずは前掲した両方の二つの要素。
これは楽譜をデカルト平面と考えると水平面がx軸で時間を表します。
x軸に刻んだ目盛りはある時点を表す。つまりリズム=縦方向の目盛り。
一方y軸の目盛りは音の高低です。横方向の目盛り。
それでリズム=縦、音の高低=横と称することが多いですね。「縦をそろえて」なんて、よくいいます。

縦か、横か、まずどっちが大事なんでしょうか?

縦の勝ち

結論からいうと、すばらしいソロは縦も横もきちんとしています。
ただ、どちらか一つを優先するなら「縦」つまりリズムだと思います。
究極的なことをいうとリズムが大事。

リズムがばっちりで音がデタラメと、リズムがふにゃふにゃでフレージングは綺麗、を比べたら、リズムがばっちりの方が圧倒的にかっこいい。

* * *

ジャズのリズムは、難しい。
何が難しいって譜面をみても再現できないところ。
八分音符のハネ、スウィング。
よく、2:1みたいに書いてあるけど、それはどうも違うらしい。人や時代によっても違うし、テンポによっても違う。
突き詰めればかなり深淵な話になるのですが、詳しくは最近刊行されたこれを読んでみましょう。
halfboileddoc.hatenablog.com

譜面だけからリズムを再構成できません。
リズムは、音源をきいたり、ライブを観たり、音そのものを聴いてグルーブの勘所を理解する必要があります。
そもそも、本物を聴いて感動しないとリズムを真似ようともなりませんし。

実際、リズムいまいちでフレーズは演奏できているパターンは、例えば、吹奏楽・クラシックの演奏家が「ジャズもいいよねー」と、売っている「ジャズ・アレンジ」みたいな譜面に手を出してみた、って時。
譜面を弾いている分には間違ってはいないけど、ジャズっぽさ、にはならない。
譜面からジャズに入ると、リズム(縦)がおろそかになります。これはいわゆる「お稽古事ジャズ」の典型で、かなりかっこ悪いと僕は思っています。*1

「ジャズ「も」できる」ではなく「ジャズ「が」できる」状態にならなきゃいけない。

だから、初学の段階では、譜面じゃなくて、とにかく音源を聴いて、それをバチっと真似する方がいいと思う。
もちろん、よく知っている人に習ったりアドバイスをもらったりして、真似きれないところはコツを教えてもらったりしながら。

ジャズのかっこよさは、譜面に写しきらないところに隠れているのです。

* * *

もちろん「横」すなわちフレージングが簡単かというと、そういうわけではなくて。
Bop-Idiomなんてめちゃめちゃ数学的で難解だし(逆に理路整然とはしている)コード記号からフレーズを作りだすのも修練が必要だったりします。この辺も、完成形である譜面だけ弾いていても、やはりモノにはならない。
ジャズっていう音楽は、クラシックや吹奏楽の訓練とは全く違う練習が要求されるわけですなあ。

でも、とりあえずは「縦」。
たった一音の連続とかでも、リズムがビシッとハマると、それだけで、スゲーかっこいい。

練習の過程では

というわけで、リズム(縦)に気をつけてアドリブしましょう。
しかしまあフレージング(横)にも気をつけましょう。
最終的には両方がきちっとしているのが理想。

まあしかし、そんな急に全ての要素に注意を払って演奏なんてできないものです。
車の運転でいうと、アクセルワークに注意するとコーナリングがおろそかになり、コーナリングに注意するとアクセルワークがおろそかになる。初学〜中級の段階ではどうしてもそうなる。

なので、最初のうちはリズムに気をつける曲と、コードワークに気をつける曲と、わけて注力してみたらどうかなと思います。
コードワークがシンプルな曲、いわゆる「一発」と言われる曲が代表的ですが、音使いはシンプルに、その分リズムにことさら注意を払って吹いてみる。八分音符のキレとかそういうのに注意を払う。
とにかく、自分のアイドルとも思えるような人のアーティキュレーションを想像しながらニュアンスを合わせるようにして吹いてみてください。なりきりが大事です。

リズム重視の曲コードチェンジ重視の曲
ブルース全般
St. Thomas
Blue Bossa
Work song
Watermelon Man
Doxy
一般に速い曲
All the things you are
Confirmationをはじめとする Be-Bopの曲
Have you met miss Jones?
I Remember You
Girl from Ipanema


反対に、コードワークが複雑な曲をやってみたらわかりますが、不慣れな状態では、ビタッとかっこいいタイミングでフレーズが入りません。なぜなら演算に時間がかかっちゃうから。リズムにも注意を払って複雑なコード進行に沿ってフレーズが繰り出せると、かなりカッコよくなるでしょう。でも最初は転調に沿ってフレーズを繰り出すところからですかね…

もちろん、これは一例にすぎません。
リズム重視の曲もコード重視の曲も、0-100%ではありませんし、その中間の曲も、やまほどあります。
リズムもコードも、両方完成度が高くないとかっこよくない曲もあります。
ファストテンポで、コード進行が複雑な曲は、縦横どちらも両立しないと難しい。
例えば、Invitationとか、Chrokeeとかでしょうか。

もちろん、中級以降の人は、敢えて逆パターンを攻めるのも一つの手法です。
リズム重視の曲で、シンプルなコードワークを、大胆にリハモしたりアウト・フレーズを繰り出したり、横の複雑さを追求する。
逆にコード重視の曲で、リズムに注力したフレーズで攻めるとか。
最終的には、リズム(縦)でも、コードワーク(横)でも縦横無尽に遊べるのが理想だと思います。

ただ、初学の段階では、リズム練習に向いている曲、コードワークの練習に向いている曲は、ちょっと頭の片隅に入れておいた方がいいでしょう。

*1:ただ、そのかっこ悪さは、当人にはわかってもらえないですね…もどかしいです