ソロの構成について その2
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前回の続きです。
ソロの盛り上がり、フレーズの強度を三段階に分けて意識してはどうか?ということを書きました。
トランスクライブする時に、この段階を意識する
好きな人のソロをコピー(トランスクライブ)する場合に、この三段階を意識してみるといいかもしれません。
初学の段階では、第二段階の八分音符の羅列のところが、一番理解しやすい。
そこに注意を傾けるといいでしょう。
ただし、第二段階は楽器の初心者にはいささかハードルが高いのも事実です。
第二段階が無理なくコピーできるミディアムスローの曲を練習するのが、ストレスの少ない練習だと思います。
少し余裕ができたら、ミディアム・ミディアムファストとテンポをあげてゆきましょう。
また、同じ第二段階でも易しいフレーズを演奏している場合とやたら難しい場合もあります。最初はソロの最初から最後までトランスクライブすることは難しい。その場合も、一部でもいいからトランスクライブしてみるといいと思います。
以前にコピー(トランスクライブ)について書いたことがありますが、今回触れた「三つの段階」を意識してみてください。
第二段階:
常に八分音符でフレージングできることをまずは目標としてみましょう。
これが、中級のまずは到達点だと思います。
もっとも、簡単ではありません。
しかし、この第二段階ができると、すべての曲・コード進行に対して、八分音符でアドリブフレーズができる状態になります。
ストレスなくこれをできる状態にしましょう。
それができれば、そこから「足し引き」ができる。
ソロを構成するトバ口に立つことができるのではないか?と僕は考えています。
これは私の例です。Fのブルースを八分音符を中心にフレージングしています
恥ずかしいので2コーラスしか載せていませんが、あまり意識せずに何コーラスもダラダラとフレージングができる状態が、理想です。
もちろん、こういうフレージングの中で、音高を少し上げてみれば、また別の盛り上がりの要素になる。
またコードに対してNon-Diatonic Scaleをフレーズに取り入れてもいい。
この状態をスタート地点として練習するといいのではないでしょうか?
* * *
最近流行りの「鬼滅の刃」でいうと、「全集中・常中」という状態でしょうか。
コミックス6巻に出てきた特訓。
最初の段階では難しかった「呼吸法」、全集中の呼吸。
ただ行うだけでも難しいはずのそれを二十四時間常にその状態でいる訓練をすることによって、炭治郎たちは一段上のレベルに到達します。
それに似ているかも。
少し古い例えだとドラゴンボール。「常にスーパーサイヤ人でいられるようにする」ためのトレーニングを孫悟空が孫悟飯としていました。
あんな感じです。
常に第二段階でフレーズを吹けるようにすれば、そこをたたき台にしてソロの完成度を上げることができる。
第二段階のお手本はたくさんあります。
ハードバップのレジェンド達です。スタンゲッツや、ハンクモブレー、アートファーマーやケニー・ドーハム、クリフォード・ブラウンなど。
日本のプレイヤーだと、バップマスター村田浩さんのソロを思い起こさせます。
村田さんはトランペットですが、この第二段階のソロをおそろしいほどの滑らかさと安定感で朗々と吹ききる。
まるで、高性能のエンジンや、精巧な機械時計の歯車の回転を見ているかのような美しさを感じることができます。
第一段階
そして、その次に第一段階です。
実は第一段階の方が第二段階よりも難しいと僕は思っています。
もちろんトランスクライブには第一段階がもっともEasy-Goingなのも事実です。最初期は第一段階にふれることが多いと思う。
僕もそうだった。
しかし第一段階のフレーズを、第二段階を会得してからもう一度立ち戻ってみると、さらに様々な気付きが得られることでしょう。
第二段階ができてから第一段階を見つめ直すと「抜き方」について新たな発見がある。
休符や長い音の吹き伸ばしを有効に使うことは、第二段階とはまた別の感性や心性が必要です。少し長い俯瞰した視点を身につける必要がある。
第一段階のよいお手本は、例えばルイ・アームストロングや歌物のオブリガート。
それからアントニオ・カルロス・ジョビン。
ジョビンはさすが天才メロディメイカーだけあって、空白を生かしたソロが実にうまい。
ボサノバは第一段階の洒脱に溢れている音楽だと思います。
youtu.be
第一段階っぽいやつ、あげてみました。
Cool Struttin' のテーマ最後四小節から、そのフレーズをモチーフにソロを作ってみています。
お手本というにはお粗末ですが、前述した第二段階とはスペースのとり方が違うことをなんとなく察してください。
ちなみにトロンボーンという楽器は、第二段階に達するのがかなり難しい楽器です。
なので、一見コピーをしやすそうに見える第一段階の部分を抜き出してトランスクライブを行うことが多い。
ただ、第一段階をどれだけ習得しても何百時間やっても、第二段階にはならないんです。
第二段階は第二段階の練習をしないとできない。
第三段階
そして、第三段階。
これに取り組んでいる時点で、中上級者への道です(少なくともトロンボーンは)。
第三段階は、第二段階を十分にできるようにならないとなかなか難しいのが現状です。
昔でいうコンディミ*1、ホールトーンスケールなどのメカニカルなスケールも知っておいた方がいいですし、オルタード、U.S.T.などコードのリハモナイゼーションにも通暁しておく必要がある。
リズムテンション、いわゆるポリリズミックアプローチとかMetric Modulationみたいなものもできた方がいいですし、何よりフレーズを刻む楽器の演奏力が第一に要求されます。
すべての要素において一段階上のレベルのテクニックが必要になります。
また、その表現形もさまざまです。
到達すべきゴール、山の頂にもさまざまなスタイルがあります。
ここまで来れば、アドリブ演奏の一番面白いところを味わえるんじゃないのかと思います。
しかしこれは終わりなき自分との戦いです。
方法論も千差万別でしょうし。
一応、自分なりの第三段階のソロの例をあげてはおきます。
youtu.be
まとめ
- ソロの構成。後半盛り上がるためには前半を控えめにする。
- 八分音符でフレージングする状態を「常態」とする。
- ストレスなくそれができるようになれば、そこから音を間引いたフレージングや、さらに音を足すフレージングを練習してゆく。
*1:今はディミニッシュドスケールとか、W/H H/Wとかいうんでしたっけ?