半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

コードの理解 その1:アベイラブル・ノートスケールの陥穽

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コードの理解 その2:圧縮・展開について - 半熟ドクターのジャズブログ
コードの理解 その3:コードを複雑にする理由 - 半熟ドクターのジャズブログ
コードの理解 その4:ドミナント・モーション - 半熟ドクターのジャズブログ
コードの理解 その5:まとめ - 半熟ドクターのジャズブログ

問:アドリブが吹きたくていろいろやっているんですが、今ひとつです。コードが、よくわからないんです。

 うん、僕もコードは、よくわかりません。
 終わり。

 うそ。

コード、と一括りにするのは大変危険です。
現在商業音楽のほとんどはコードを元に構築されていますから、コードを語ろうとすると、すべてのジャンルを俯瞰しないといけないが、それは不可能です。

なので「ジャズのアドリブを吹くためのコード進行の理解」に範囲を限定させてください。

自分も大学生の頃アドリブで悩みました。
片っ端からうまい人にアドリブの方法を聞き回った時代もありました。
答えは千差万別でした。
頭の中のプロセスは様々です。逆に、考え方の違いが個性となっている可能性さえあります。

ですから、あくまで私の考え方で「正解」ではない、と思ってください。

スケール!?モード!? 全部忘れろッ!!

「ジャズ理論講座」はネットでも書籍でも、探せばいくらでも見つかります。
まず、楽典的な知識の羅列から始まります。次にスケールとか、モードとかそういう説明とか。

コードの統一理論として、いわゆる「バークリー・メソッド」があります。
この膨大な理論体系は殆どすべてのジャンルを包含しうる強力なものです。

バークリーメソッドの神髄である「スケール」や「モード」を用いた解釈は、やはり有用です。
アベイラブル・スケールは包含的にかつ無理なくコードの概念を説明出来る。
非常に懐の広い理論です。

ただ、一般化させすぎた理論は、器が大きすぎる。
逆に小さなものを扱いづらい。
幼稚園の遠足の準備に、アメリ海兵隊の標準兵装を用意するようなものです。

強調しておきたいことが二つあります。

一つ。
我々はフロントマンで単音楽器である、ということ。

単音楽器ならではのコード理解

コードをもとにしてアドリブ・フレージングをします。
しかしそのフレーズとコードはきちんと一対一対応していない。
そこには相当なる自由(いいかえると、「適当さ」)があります。

これは私感ですが、作曲理論や、コード楽器(ピアノ・ギター)がバッキングを行う際のコードの取り扱いと、単音楽器のフロントマンのコードの取り扱いはかなり違います。*1

もう一つ。
私、またはあなたが今やりたいと思っている音楽は何かということ。

包括的な理論を最初から修める意味

「バークリー・メソッド」はモードも含め、その後の発展した音楽のスタイルも包括的に説明できる理論です。
しかしそれは、バップ「のための」理論ではない。

バップは、現在のバークリー・メソッドよりも歴史的に前方にあります。
バップを超克するために作られた理論が、現在のバークリー理論の中核に在しています。

バップを理解するためにバークリー・メソッドを勉強することは当然可能ですが、ではバークリーメソッドを完全に理解すればバップが吹けるか、というと、これは完全にNoです。

1960年までのビバップ・もしくはハードバップのプレイヤーの頭の中は、決して現在のバークリー・メソッドの形では整理されてはいなかったと思います。
(もうちょっと詳しく言うと、ドミナント・モーションを主軸にしたコード・ケーデンスに関してはすでに現在ある形にまで達していたと思いますが、Available Note Scaleに関してはいまほどは整理されていなかったはず)。

だから、スケールとか、チャーチ・モードの理解はあとでいいです。
理解しないと次のステップに進めない、なんてことはさらさら無いわけです。

もう一つ。君の目標は何か、ということ。
例えばプロのトロンボーン奏者を目指してなおかつ中川英二郎Micheal Diaseのレベルになりたい?
それなら、泣き言いってないでさっさと大きな理論を覚えなきゃいけない。

ただ、普通に楽器が吹けて「あわよくば」アドリブもやりたいな……
なら、簡単なステップから一歩一歩積み上げる方がいい。
もし、今後ジャズにドハマリすることがあれば、習得しなおせばいい。

トロンボーンに「スケール」は馴染まないかも

正直に言えば、トロンボニストには、上達した後もスケールやモードを十分に使いこなす機会は訪れないかもしれない。

例えばギターのような転調の容易な楽器では「スケールを覚える」という言葉に現実味はある。
スケールに伴う運指は転調しても同じだから。一旦覚えたスケールからフレーズを導くことは難しくはない。
だがトロンボーンの場合、スケールを覚えても、それを簡単に演奏できるわけでもない。
モードも、トロンボーンの皮膚感覚からはやや解離しています。

始めるに際して、スケールとモードは無視していい。○●アン、スケール、必要ありません。

但し、コードに関しては、早くからつきあっていく覚悟を決めた方がいい。
コードは、ジャズをやる以上、目にしないことはないはずです。
コードが書いてあれば、そのコードの構成音がわかる、くらいの予備知識は、初心者用の本で仕入れてください。

念のため補足しますが、フロントマンはスケール・モードの理論を一切知らなくてよいというわけではありません。
"ハウ・トゥ・インプロバイズ"、"ハウ・トゥ・コンプ"の著者であり、バークリーの講師でもあるハル・クルックは、トロンボーン奏者です。
ハウ・トゥ・コンプなんて、ピアノバッキングのための方法論ですからね。そんなの書いてる人がトロンボーン奏者なんですよ。
HAL CROOK ハウ・トゥ・インプロヴァイズ インプロヴィゼイションへのアプローチ

付記

私もジャズ30年選手なんですが、さすがに、ある程度以上のレベルにすすむ際に「スケール」はやっぱり学習しなおしました。
アベイラブル・ノート・スケールも大事ではあります。

でも、初学の段階で、アベイラブル・ノート・スケールを完全に知っておかなきゃ、と言われたら、アドリブやっぱりしなかったんじゃないかと思います。
トロンボーンでフレーズを作る際に「スケール」からフレーズは展開しにくいですから。

*1:ここ数年ピアノを触るようになっていますが、ますますその思いを強くしました。この辺りは後述したいですね