半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

コードの理解 その1:アベイラブル・ノートスケールの陥穽

f:id:hanjukudoctor:20001118145157j:plain:w300

問:アドリブが吹きたくていろいろやっているんですが、今ひとつです。コードが、よくわからないんです。

 うん、僕もコードは、よくわかりません。
 終わり。

 うそ。

コード、と一括りにするのは大変危険なことです。
現在の商業音楽の大多数はコードを元に構築されているので、コードについての話は、すべてのジャンルを俯瞰した上で語ることになる。
すくなくとも僕にとってはそれは不可能です。

ま、この質問は、ソロを取る際に、と解釈して、適用する範囲をぐーんと限定します。
とりあえず「ジャズのアドリブを吹くためのコード進行の理解」なら僕にもなんとか答えられるかもしれません。

自分も大学生の頃アドリブで悩み、自分よりもうまい人を片っ端からつかまえて、アドリブのやり方を聞き回った時代がありました。
答えは人によって千差万別でした。
人によって頭の中のプロセスは様々ですし、逆に、そうした考え方の違いが、逆に個々人の出音の個性となっている可能性さえあります。

ですから、これは一応自分の考え方である、と思ってください。

スケール!?モード!? 全部忘れろッ!!

「ジャズ理論講座」的なものは、イマドキ、ネットでも書籍でも、探せばいくらでも見つかります。
アプローチは様々ですが、「まず」楽典的な知識の羅列があります。スケールとか、モードとかそういうものの説明とかね。

和声学の統一理論として、いわゆるバークリー・メソッドがあります。
この膨大な理論体系は殆どすべてのジャンルを包含しうる強力なものです。
現在いわゆる「理論」と称されるもののほとんどはこのバークリーメソッドに包含されています。

バークリーメソッドの神髄である、これらの「スケール」や「モード」を用いた理論は、そりゃあ有用です。
確かにアベイラブル・スケールは包含的にかつ無理なくコードの概念を説明出来るわけで非常に懐の広い理論ですね。

但し、あまりに一般化させすぎた理論は、器が大きすぎて逆に小さなものを扱いづらいんですよね。
幼稚園の遠足の準備に、アメリ海兵隊の標準兵装を用意するようなものです。

強調しておきたいことが二つあります。

一つは我々はフロントマンで単音楽器である、ということ。

単音楽器ならではのコード理解

我々はコードをもとにアドリブ・フレージングをします。
フレージングとコードは当然一対一に必ずしも対応しません。
ゆえに、そこには相当なる自由(いいかえると、隔たり)がある。

少なくとも作曲理論や、コード楽器(ピアノ・ギター)のバッキング技法でのコード理論とフロントマンに要求されるコード理論はかなり違うと僕は思っています*1

もう一つは、私、またはあなたが今やりたいと思っている音楽は何かということ。

包括的な理論を最初から修める意味

いわゆる「バークリー・メソッド」はモードも含め、その後の発展した形のスタイルを包括的に説明できる理論です。
逆にいうと、バップ「のための」理論ではない。

バップは、現在のバークリー・メソッドよりも歴史的に前方にある。
バップを超克するために作られた理論が、現在のバークリー理論の中核に在しています。

従ってバップを理解するためにバークリー・メソッドを用いることは当然可能ではありますが、ではバークリーメソッドを完全に理解した人間から流れてくるフレーズがバップであるかというと、これは完全にNoです。

1960年までのビバップ・もしくはハードバップサウンドの作り手の頭の中は、決して現在のバークリー・メソッドのような形で整理されてはいなかった、という事実をよく記銘しておくべきです(もうちょっと詳しく言うと、ドミナント・モーションを主軸にしたコード・ケーデンスに関してはすでに現在ある形にまで達していたと思いますが、Available Note Scaleに関してはそれほど整理されていなかったはず)。

と、いうわけで、スケールとか、モードとの理解を一番に優先させる必要はありません。
理解しないと次のステップに進めないなんてことはさらさら無いわけです。

もう一つ。君の目標は何か、ということ。
例えばプロのトロンボーン奏者を目指してなおかつ中川英二郎Micheal Diaseのレベルになりたい、というのであれば、泣き言いってないでさっさと大きな理論を覚えなきゃいけない。ただ、普通に楽器が吹けて「あわよくば」アドリブもやりたいな……
という目標だったらやっぱり簡単なステップから一歩一歩積み上げる方がいいです。

いずれ、ドハマリしてから、習得しなおしてもいいとは思う。

トロンボーンに「スケール」は馴染まないかも

正直に言っちゃうと、トロンボニストにとっては、上達した後も、スケールやモードを使う理論を十分に使いこなす機会は訪れないかもしれない。

例えばギターのような転調の容易な楽器では「スケールを覚える」という言葉に現実味はある。
スケールに伴う運指は転調しても同じだからです。
一旦覚えたスケールからフレーズを導くことは確かに難しくはない。
だがトロンボーンの場合、スケールを覚えたからといって、それを発露しやすい楽器の構造ではないんです。
モードも、トロンボーンの皮膚感覚からはやや解離しています。

というわけで始めるに際して、スケールとモードは、全部忘れて構いません。○●アン、スケール、必要ありません。

但し、コードに関してはつきあっていく覚悟を決めた方がいいです。
コードは、さすがにジャズという音楽の枠組みでくくられる音楽をやる以上、目にしないことはないと思います。
とりあえず、あるコードを出してきた時に、そのコードの構成音がわかる、くらいの予備知識は、初心者用の本とかで仕入れてください。

念のため補足しますが、フロントマンはスケール・モードの理論を一切知らなくてよいと言っているわけではありません。
"ハウ・トゥ・インプロバイズ"、"ハウ・トゥ・コンプ"の著者であり、バークリーの講師でもあるハル・クルックは、トロンボーン奏者です。ハウ・トゥ・コンプなんて、ピアノバッキングのための方法論ですからね。そんなの書いてる人がトロンボーン奏者なんですよ。
HAL CROOK ハウ・トゥ・インプロヴァイズ インプロヴィゼイションへのアプローチ


* * *

私もジャズ30年選手なんですが、さすがに、ある程度以上のレベルにすすむ際に、「スケール」はやっぱり学習しなおしました。アベイラブル・ノート・スケールも大事だとは思います。

でも、初学の段階で、アベイラブル・ノート・スケールを完全に知っておかなきゃ、と言われたら、アドリブやっぱりしなかったんじゃないかと思います。
トロンボーンでフレーズを作る際に「スケール」からフレーズは展開しにくいです。

*1:ここ数年ピアノを触るようになっていますが、ますますその思いを強くしました。