半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

コードの理解 その2:圧縮・展開について

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コードの理解 その1:アベイラブル・ノートスケールの陥穽 - 半熟ドクターのジャズブログ
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コードの理解 その3:コードを複雑にする理由 - 半熟ドクターのジャズブログ
コードの理解 その4:ドミナント・モーション - 半熟ドクターのジャズブログ
コードの理解 その5:まとめ - 半熟ドクターのジャズブログ

ブルースのコード

「ブルース」という形式があります。
ロックからR&B、ブルース、ジャズ問わず広く演奏される曲の一形式です。

多くはワンコーラス12小節。
ジャズでは管楽器がBb/Eb管な関係から、FかBbが好んで演奏されます。それ以外のキーも勿論たくさんありますが6割強がこのキーです。
今回はFのブルースを例にあげましょう。

(A)よく用いられるコード進行

ジャズ(もう少し厳密に言うと、バップ)でよく用いるコード進行の例です*1
アドリブの際には、大体これを出発点にして演奏されます。

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fig 1a-ブルースコード進行

(B)最も単純な形

しかし本来のブルースはもっとシンプルなコード進行でした。このようなものです。

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fib 1b-ブルースコード進行の原型

すごく単純ですね。
今でも、リズム&ブルースで演奏されるブルース(正確に言うとブルーズ)はこんな感じです。


(B')機能で色分けしてみた

ここまで単純化しちゃうと、コードの機能もよくわかります。
色分けして示してみます。
ブルースは一曲を通じて調性(トーナル)が変わりません。従ってトニックとか、サブドミナントとかドミナントとかを理解しやすい。
Fの調性では、FがT(トニック)、BbがSD(サブドミナント)とC7がD(ドミナント)ということになります*2

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fib 1c-ブルースコード進行を機能ごとに色分けしてみた

先に示したやや複雑なコード(fib 1a)でも、このコードの「機能」は保たれています。この大雑把に色分けした部分は複雑なコード進行でも、同様の機能を有しています。

ジャズでは一般にコード進行を複雑化する傾向があります。
しかし、複雑なコードの基層には、単純なコード進行が存在しています。
複雑に見えるコード進行も、一皮むいてやれば、単純で大まかな流れが存在する。
逆に、複雑なのコード進行は、単純なコード進行から再現することができます。
これはもちろん、ブルース進行に限らずすべての曲で言えることです。

コードの複雑化、単純化には一定のルールがあります。
この圧縮/展開の法則さえわかっていれば、逆にコードを、スタンダードブックに載っている形そのままで記憶する必要はないわけです。
優れたミュージシャンの頭の中を割ってみれば、おそらくブルースなどは、先ほど挙げた簡単なレベル (fib 1b)の形で記憶されているはずです。

話の筋書き

こうした圧縮/展開は、言葉の世界で考えるとわかりやすい。
例えば、『ロミオとジュリエット』という話。
この話を他の人に伝えたい時に、どうします?

簡単にまとめると、

「男と女がやな、出会って、愛し合うけどいろいろ揉めて心中する話しや」

となります。このレベルだと『タイタニック』も「船が沈む話や」となってしまいますが(笑)
細かいディテールはともかく、ま、正しい要約ではあります。

では、もう少し詳しくすると。

「男と女がおんねんけどもな、その親同士がごっつ仲悪いねん。しかし二人はひょんな事から接近し、愛し合ってしまう。こっそり結婚するんやけど、親同士の揉め事がひどくなって大変なんや。でもくっつきたい二人は一計を案じて、自殺に見せかけて駆け落ちをしようとするんやけど、手違いでホンマに心中になってしまうんやな。親たちは後悔するけど後の祭り、という悲劇や。」

 となるでしょうか。なんで関西弁なんでしょうね。

で、さらにもう一段階勧めて、文学作品としてきちんとあらすじを紹介すると、このようになります。

 舞台は14世紀のイタリアの都市ヴェローナ。そこではモンタギュー家とキャピュレット家が、血で血を洗う抗争を繰り返している。
 モンタギューの一人息子ロミオは、友人らと共に、キャピュレット家のパーティに紛れ込む。そこでロミオは、キャピュレットの一人娘ジュリエットに出会い、たちまち二人は恋におちる。二人は修道僧ロレンスの元で秘かに結婚。ロレンスは二人の結婚が両家の争いに終止符を打つことを期待する。
 しかし結婚の直後、ロミオは街頭での争いに巻き込まれ、親友マキューシオを殺された仕返しにキャピュレット夫人の甥であるティボルトを殺してしまう。ヴェローナの大公エスカラスは、ロミオを追放の罪に処する。一方、キャピュレットは、悲しみにくれるジュリエットに大公の親戚であるパリスと結婚することを命じる。
 ジュリエットは、ロレンスに助けを求める。ジュリエットをロミオに添わせるべく、仮死の毒を使った計略を立てるロレンス。しかしこの計画は追放されていたロミオにうまく伝わらず、ジュリエットが死んだと思ったロミオは彼女の墓で毒を飲んで死に、その直後に仮死状態から目覚めたジュリエットもロミオの短剣で後を追う。事の真相を知った両家は、ついに和解する。

 最初のが32字、次が176字、最後のきちんとした説明が 大体500字です。

 ざっくり説明と、きちんとした説明では密度は異なりますが、あらすじを語る上で、ポイントになる部分、部分がありますね。字数を減らしても残ってくる部分が物語の進行としては外せない重要なポイントです。

曲の流れも、この言葉の世界と大体似ています。
ドラマの基層として大まかな流れがあり、これは、ディテールを付け加えても優先されています。
そしてそれを保った上で細かいディテールまで書き込む場合もあるということです。

コードの「圧縮」と「展開」、このイメージをまず持ちましょう。

書かれているコードは、すべてが等価ではないんです。

* * *

あ、ちなみに、トニック・ドミナントサブドミナントというコードの3機能*3については、これ以上深入りする必要はありません。
ダイアトニック・コードのレベルでは、この3機能は、まだ定義はできます。
この「機能」というのはある調性に対して、のものだからです。

ところが、ジャズの曲って転調を繰り返しているので、トーナル(調性)が一定ではありません。
なので、ある調性に対する機能がどうである、ということを考えてもジャズの現場では詮ないことで、それを突き詰めてもアドリブがうまくいくわけでもない。

例えば、味の4要素、甘い・からい・苦い・酸っぱいがあるとして、
フランス料理で、出てくる一品一品に対して、この料理は、味の要素の4つでいうと、どれに当たるだろう……と考えるのに似ています。
はっきりいって無駄よね。
複雑過ぎて。
トニック・ドミナントサブドミナントも、その程度のもんです。

ただし、その料理を要素分解して解析する際には、この4大味覚に、ある程度還元する作業を行いますね。
すごく難しいリハモとかの場合にはこの3機能に立ち戻ることもあるかもしれません。

*1:フラット記号がへんなところにあり、少し違和感を感られるかもしれません。これ、ヘ音記号準拠なんです。大意にかわりないのでお気になさらないで

*2:実はブルースの場合トニックが7thなので、理論的整合性というのを考えると、あまり適しているとはいえないんですけどね。初学者に説明しにくいですね……

*3:厳密にいうとサブドミナント・マイナーというもう一種類ある