半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

どんなミュージシャンになりたいか。

先週は唐口さんのCD発売記念ライブ、木曜日は黒田卓也さん率いるNYの人達のライブをみました。

そのあと、自分が演奏する機会があったんですけれども…

結論から言えば、あまりにうまい演奏を見て、軸がぶれてしまいました。

二つのライブとも、とてもいい演奏で、しかしそのスタイルは全然違っていて。

月曜日のは「やさしくてやわらかい」音楽でした。

木曜日のは「つよくてかっこいい」音楽でした。

どちらの音楽も、正しくジャズでした。

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唐口さんは関西で活躍されておられるプロミュージシャンですが、実家が広島県にありまして、戻ってこられる折に、数ヶ月に一度私の住んでいる街にも立ち寄られます。

私が関西で学生をしていた時に、部活で私の師匠筋にあたるような先輩が、唐口さんのレッスンに通っておられました。一緒に演奏するなんて畏れ多いような、遠い存在でした。

今ではセッションとかも一緒にしていただいたりして、とっても気さくにお付き合いさせていただいておりますが、とてもやわらかい人当たりである反面、出てくる音は、聴いているこちらが思わず居住まいを正す気にさせられる、端正なフレージングをなさいます。

どちらかというとぶっとい音ではなく、繊細な音です。ビッグバンドのリードラッパが出すような、圧倒する音ではなく、かといって低音にことさら寄っているわけでもなく、とにかく端正な音です。

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 対して木曜日の黒田卓也さんの演奏は、これぞ「NY帰り」のイマドキ感に溢れ、トランぺッターとしての「男らしさ」というか「かっこよさ」というか、そういう雰囲気を醸し出しておりました。コンペティティブな環境で這い上がってきた「強さ」というものを非常に感じました。

 もともと甲南でラッパをやっていたということで、ビッグバンド業界の方は「甲南のうまいラッパ」を定向進化させたら…と想像していただければそれが黒田さんです。とにかく、すごくうまいし、今やっているオリンピックではないですけれども、「現役アスリート感」をまざまざとみせつけられる演奏でした。それに対するとやはり唐口さんは「名球会」感があるのです。

 そして率いていたバンドのメンバー全員がそのような「現役感、コンテンポラリー感」を放っていたことです。とにかくかっこよくて強い演奏でした。

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 木曜日の黒田さんの演奏は、僕の今目指している方向とは全く違うものの、そういうささいな好みをふっとばしてしまうくらい、かっこ良すぎたんです。

 しかし、ものっそい「いい演奏」であったとしても、それが自分の演奏スタイルにあっているかどうかはまた別の話だと思う。今回はジャズの話ですが、たとえばロックバンドのコンサートを観に行って感動した、とするとそれは、なかなかジャズの場にフィードバックすることは難しいですよね。そういう感じです。

 では、月曜日に聴いた、唐口さんの演奏を100%自分のお手本にするのかというと、それはそれで少し違うような気もします。1970年代に生まれ、いろいろな音楽を聴いてきた、自分は、やはりまた、唐口さんの出自とは違うわけで、全く同じ音にしようと思っても不自然なことになってしまう。

 いい演奏を聴いた直後は、よくも悪くも、そのいいイメージが残像のようにやきついてしまうんですよね。で、月曜日には、月一で参加しているバンドの演奏があったのですが、そういうイメージをひきずりすぎたまま、ステージに上がってしまった。

 いいイメージをもつと、いい演奏ができる事もあるのですが、今回は個人練習が全くない状態場で、そのイメージをひきずりすぎたままで自分の手元を確かめる間もないままに演奏に向き合わなければならず、なんだか、木曜日にすごい人の演奏を聴いて圧倒された時の焦燥感のようなものをひきずって演奏することになってしまいました。

 録音しませんでしたから、実際どうだったかはわかりません。しかし、冷静に振り返ってみると、焦燥感が先立っていただけで、演奏そのものがひどく調子を崩していたともいえず、難しいところだと思います。

ま、個人の心情としては、月曜日の演奏後は、凹み、反省したわけなんです。

うーん、今日のライブはいけなんだ。反省、反省しきり。 体が起きていないというか、戦闘準備に入れずというか。 ちったあ上手くなったと最近思ってたんですが、他のメンバーとの差をまざまざと思い知らされたというか。 くさらず頑張ろう。

とか、あたし、 Twitterに書いていたんですが、つらつら考えると、反省のベクトルが違っていたように思う。

 反省すべきは、今の自分を見失ったこと。

 * * *

今、自分は、どんな音楽をしたいのか、ということを、振り返って再確認しますと、

一言でいうと、

「やさしくて かしこそうな音楽」ということになると思います。

ことさらにテクニックを誇示したり、周りを圧するような吹き方は、今の僕には

必要ない(勿論テクニックを否定しているわけではなく、テクニック先行のアプローチはあまり好きじゃない、ということです)。

やさしい、というのは、別にスポットライトを強要しないというか、あまり聴くものの耳を強制的に振り向かせるようなものではない演奏。

それでいて、聴いてくれる人にはそれなりの感動を与えられるような音。

そして、自分がリードするのではなく、リードする誰かをもり立てるような演奏。

そういう意味ではやはりボーカルのオブリガードのようなものに、力を注いでゆきたいと思います。勿論時々は自分も注目を浴びたいなーと思うけれども、視線が集まる場の強さ、というものに対する含羞があるようです。今の自分は。

オレ様感の全くない演奏が、今の理想かなあと、自分では思っています。