バランス感覚
バンドメンバーがこの前結婚したわけさ。
で、スピーチってほどではないんですが、なんかしゃべらなあかんかったので、その際に色々考えたことを、ここに書いてみようと思う。
おめでとうU君。
* *
結婚したメンバーはだいぶ歳の若いピアニスト。
学生時代にジャズ研でジャズを始めたが、もともとクラシックピアノの素養もあり、またジャズ的な勘どころもよかったのか、学生時代から活動も群を抜いていた。ライブハウスで演奏したり、学生にしてローカルなプロ活動をスタートさせている。
だから卒業したらてっきりプロになるもんだと思っていた。
だが、あっさりと地元の市役所に就職する。
バークリーにもいかないし、東京に行ったりもしない。
彼の進路を聞いた当初は随分驚いた。ずいぶんもったいない話だなと思ったし、若いが夢を追いかけたりしないのだろうか、と。
今にして思えば、国立大学を留年もせず卒業しそのまま地方公務員となる、という一見「降りた」キャリアパスは、地方の篤実なご家庭の惣領として期待された責務を彼なりに果たしていたのだと思う。
ジャズもプロの域に達しつつ、学業にもぬかりはなかった。キャンパスライフもほどほどにエンジョイしていたらしい。
ここまでであれば、よくある「若者が夢をあきらめた話」なのだが、結論はそうではない。
ジャズピアニストとしての活動は相変わらず盛んで、東京のプロミュージシャンが地方巡業を行う、その客演で引っ張りだこであるし、いわゆるプロとしてジャズのライブもコンスタントに行っている。
もちろんフルタイムのプロ音楽家ではないので、たとえば結婚式などでの演奏やホテルのラウンジなどの「おいしい」仕事はしていない。
だが、このような仕事は、音楽的に面白いものでもないのは周知の通りだ。
仕事の方でも順調で、いわゆる「釣りバカ」、仕事そっちのけで音楽に没入というわけでもないようで、つまりはきわめてバランスのとれた男なのである。
* *
ジャズの場合は、面白い演奏とレベルの高い演奏、は重なるところが多い。音楽的な豊穣さを追求してゆくと、どうしてもプロミュージシャンの棲息する圏域に踏み込まざるを得ない。
(ポップスやロックの場合は、バンド単位の活動なので少し事情が異なる)
ただその反面、個人単位での活動が多いし、他のジャンルの音楽のようにバンド練習を重ねて作り込んでいくという作業は少ない。ジャズマンの多くはきわめて個人的な活動だ。
しかも、ジャズは、音楽だけで食うのは難しい。
集客も少ないし、単価も安い。結構難しい音楽なのに。
レベルの高さと面白さは、比較的相関するが、レベルの高さと収入は必ずしも相関しない。
東京でプロとして活動するミュージシャンも、自分が真にやりたい音楽だけでやれてる人って、ごく少数で、上記のように「音楽」ではあるがその実アルバイトのようなもので糊口をしのぐのであれば、一般職の方が時間単価は高いわな。
そういうわけで、ジャズはある程度のレベルに達した後は、二足のわらじが可能なジャンルと言えるし、実際そういう人はけっこう全国にいる。
* *
ローマ人は中庸というものを何よりも重んじたという、あれだ。バランスとコントロールというのは人生のあり方において重要なイシューである。
私も地方都市に生きるディレッタントとして生き方を試行している。
* *
だが、プロの活動で身を立てている一流のプロの出す凄味、というのはもちろんある。すべてを音楽にブッこむことからしか、ある種のデーモニッシュさは生み出せないのかもしれない。
プロとアマの汽水域に生息する我々からみると、フルタイム(結婚式の演奏とかではないやりたいことだけをやっている)のミュージシャンのレベルは、やはり画然としている。
やはりそのポジションでやっている人は、近いようで、遠い。覚悟の深さも、音楽の洞察の深さも、楽器のコントロールも、すべて超えられない壁がある。
テニスで言えば、もし対戦したら、サービスキープくらいはできるかもしれないし、タイブレイクまでは時にはもつれるかもしれない。だけど、要所要所できっちり締めてセットは絶対に落とさせない。そういう人が、フルタイムのプロになっている。
近くて遠いその存在に、死ぬほど憧れはするけども、
ただ、ハイアマチュアという領域は、totalでの社会貢献度を考えると、それなりの意味があるのだと、最近は思うようにしている。
ハイアマチュアを極めることも、とても難しいことで、そのやり方は、一流のプロフェッショナリズムの極め方とは方法論が異なる。
マネタイズから解放されるかわりに、「バランス」が要求される。そういえば、以前にミュージックライフバランス、というのを書いたことがあるな。http://jazz.g.hatena.ne.jp/hanjukudoctor/20140505
我が僚友のU君も、バランス感覚の必要な人生を歩みだした。
お互いにバランス系ジャズマンとして、切磋琢磨していこう。