速いフレーズを吹くには? その3:
問い:速いフレーズを吹きたいんですけれども?
その1:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/10/31/104041
その2:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/archive/2018/11/01
の続きです。
速いフレージングをするためには速い音が吹ける「音の精度」が必要
ということを述べました。
具体的にはどのような練習が必要でしょうか?
高く跳ぶために
「音の精度」はフレーズを速く吹く練習だけでは身に付きません。
結果的に音の精度が上がれば、速く吹いても大丈夫になります。
小学生のころはひたすら遊びまわって走っていれば、足が速くなりました。
F1マシンのエンジンは、速く走らせながらビルトアップするわけではありません。*1
自分の音の精度を見つめ直すためには、一つ一つの要素を分解し、それを極端に引き延ばしてみることで、逆によい結果を得られることがあります。
一つ一つの動作を、クローズアップして、チェックする。
一見逆説的なようですが、つまりそのために動作を極端にゆっくりにしてみるわけです。
高く跳ぶためには深い井戸に潜らなければいけません。
まぁ、こういったいわゆる「楽器」のアドバイスに関しては、実は僕あんまり自信がないんです。
自分は自己流ですし、いわゆるトロンボーンの上手さというのと今ひとつ無縁で育ってきたので。
プロフェッショナルのジャズ・トロンボニストの中には本当に超絶技巧の方が結構おられますし、来日した際にはあちこちでクリニックも開かれますしね。
以下は一応個人の意見ということで、あまたある方法論の一つと考えてください(弱気)。
リップスラー
前回「リップスラーはがむしゃらにやったらがむしゃらにやっただけ伸びるで~」と書きました。
一つだけ注意しておきます。
速いリップスラーを"んあんあんあ"と超スピードでひたすらやる、という練習にはご用心。
リップスラーは、出来るだけ目的とする音でぴったり止めるイメージを大切に。
基礎練とかで妙に張り合ったりする馬鹿がいるじゃないですか(はい、私もそうでした)。
速さばっかり気にして、ラフにやっちゃうと、練習の効用は低くなる。
こういう吹き方をしている奴の頭の中は「上へ」と「下へ」しか考えていない。
これは「精度」というものを考えるためにリップスラーの練習をする、という本来の目的からは反しています。
音の変わり目を十分に意識すること。
ゆっくりのリップスラーは非常に効果的です。
例えばD→Bbを出来るだけゆっくりやってみる。どこかでブリンと音はD→Bbへ変化する訳ですが、そこの継ぎ目をなくす練習というのをしなさい。
と僕は教わりました。
要するに、階段のように降りるのではなく、なだらかな坂道のように降りてみなさいということ。
実際やってみると、半音から全音くらいは唇だけで下げることは出来ます。もっと丁寧にやると、スラーの際の"ブリン"という音の変わり目を、ほとんどギャップなしに繋げることができる。リップスラーの不連続線を出来るだけなくす。そして、しっかり目的のBbの音程に着地する練習をしてみること。
そうやってゆっくり上下動し、変化した後の音が安定するようにイメージしてみる。
そういったイメージを持った上で、速い練習をしましょう。
タンギング
これも速いタンギングのばっか練習しても、無駄な力が入るばっかりでよろしくない。
トゥートゥートゥートゥートゥトゥトゥトゥツツツツツツツツ…というブラバンによくある
タンギングの練習は、総じてバカに見えるので注意。
ロングトーンで音を吹いているのを、長いお豆腐のようにイメージしてみますと、タンギングは、お豆腐を切り分ける包丁のようなものです。
この包丁の精度が大切です。
薄い剃刀で豆腐を切ると綺麗に切れるでしょう。
が、例えばお箸のような鈍なもので切ると、切り口はでこぼこぐちゃぐちゃです。
タンギングの際のイメージはそんな感じです。ぶりっ、ぶりっとするのではなく、精度を高めるイメージ。
音は辛うじて切れてはいるけれども、切り口は無限小に近い。
Doodle Tonguingという言葉もあり、僕もなんちゃってDoodleですが、あくまで技術的な解法。
イメージすべきタンギングの原則というのはこのような感じではないかと思います。
音の出だし
タンギング・リップスラーの精度とも重なりますが、音の出だしそのものにも注意を払ってください。
先ほど、音を「お豆腐」に例えました。
まず、それこそお豆腐のように、極力平板に音を出すイメージを持ちましょう。ブラスバンド出身の奏者は、パーンと響かせるような音の出し方に慣れている場合が多いんです。
平板に、フラットに音を出す。これができた上で装飾していく。
そして、その音の最小単位を極限まで精密に作り込む。
ロングトーンをしていて、音量を徐々に落としてやります。息の量が徐々に減ってゆき、ある時点で音は出なくなります。
逆に、無音の状態から、息だけを出し、徐々に息の量を上げてやります。タンギングをしてはいけません。
そうするとどこかで音が出ます。
この音の出だしが「ブリン」とならないように、出来るだけゼロから緩やかに立ち上がるようなイメージで吹いてみること。
要するにこれが自分の音量の最小単位というわけです。
最小単位が小さいことは、例えば写真でいうと、ピクセルが小さいことです。
より細かい、つまり精度がいい。
小さい音できちんとフレーズが吹けるというのは非常に大切なことですが、
普段曲を吹いている状態ではあまりそれは認識しにくい。
こういう練習で、思った以上に小さい音で音が保てない場合、多くは音のきっかけにタンギングを使っています。
この場合、音の精度は低い、といわざるを得ない。
余分な一動作が一音一音に入っているわけで、当然フレーズを吹く時の障害になる。
結果として出音と大脳の間の抵抗感は、かなり大きくなります。
*1:逆説的ですが、小学生が足が速くなるがの如くに、ずーっとやってて深く考えることなく速いフレーズ吹ける人もいます。