半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

速いフレーズを吹くには? その4:

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問い:速いフレーズを吹きたいんですけれども?

その1:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/10/31
その2:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/archive/2018/11/01
その3:https://jazz-zammai.hatenablog.jp/entry/2018/11/02

の続きです。

(番外編)速い曲

ちなみに「速いフレーズを吹く」とは少し違うのですが、速い曲を吹くには?という悩みもあります。
Cherokeeとか、そういう曲。オープンのセッションでは「トロンボーンの方はちょっと…」と言われちゃうような曲ね。

速い曲だと、どうしてもうまくフレーズを乗せにくいというのは、よくある話。
吹き始めの意識の遅延が、速い曲では致命的になるから。音の吹き出しが遅いと、速い曲に乗っかれない。
一歩が遅いと、高速縄跳び、なかなか輪に入れない。

こういう解決策の一つとして、速い曲では、たとえば2,4でリズムを取ろうとしない、というど直球の解決もあります。
1,3というか、大きい波として捉える必要がある。プロの方に教わったことがあります。

速い曲だと、ある程度フレーズも単純なものになりやすいし、リズムテンションみたいなのをいかした音数を抑えたフレーズも効果的だと思います。
あとは、熱くならないこと。落ち着くこと。
「あっ俺リズムにのれてない!」と思うとアドレナリンがどばどばでてさらに反応速度は遅くなり、唾液がでなくなり音もでなくなり、悪循環を引き起こします。

最後にどっちらけ

ところで、いわゆる「音数」主義、速いフレーズをパラパラと吹くという、スピード偏重に陥るのは実はあまり賢いアプローチではない。
制限された状況の中で上手に音を選ぶ方が、音楽の本道ではないかと、実は思ってます*1
自分がそれを達成できていないからこそ、強くそう思うわけです。

トロンボーンだけみていると、そういう気は不思議とならないんですが、マイルスのバラードプレイとか、ポール・デスモンドチェット・ベイカーの枯れ枯れプレイなどは、速弾きのように「空間にフレーズを充填しなければ…」という強迫観念とは無縁にみえます。
休符を自由自在に操ることが出来ると、演奏の質はぐっと変わります*2

しかし、僕も若い頃はそうは思いませんでしたし、古今東西のジャズ・トロンボニストも、多かれ少なかれこのトロンボーンというフレーズとりにくい楽器で、いかにフレーズを吹くかという強迫観念に捕らわれている。
これは、永遠のテーマなんでしょうね。

これは選択肢の問題でもあります。遅いフレーズしか吹けない場合は遅いフレーズしか選択の余地がないわけですが、速いフレーズを吹けるなら、遅いフレーズと速いフレーズを選択することができる。
実際、Toots Thielemansとか、Miles Davisとか、空間をゆったり使う名手も、キャリアの初期の段階では吹き倒している録音があるから、基本的にゆったり吹く状態のままで最適な音を選び取るよりは、沢山吹ける人が、音を抜いていく、という方が、発達段階としてはやりやすいのではないかと思いました。

 ゆっくりなフレーズを吹いていても、速さというものは十分に感じられるものです。(ベースソロなどをイメージしてみて下さい)。
 それは、多分、速いフレーズも手中におさめているからではないか、とも思います。

 トロンボーンにとっての速いフレーズは悪い意味でも、良い意味でも、禁断の果実です。
 若い時は一度は志向するもんです。
 そこから、いかに余分な音を抜けるか、というのが腕の見せ所なのかもしれません。
 
 また「上手く吹くこと」と「善く吹くこと」というのは違う。
 これは忘れないようにしないといけません。
 僕なんかはもう、しょっちゅう忘れているんですけれども。

*1:これを書いたのは10年以上前なのですが、やっぱり今でも思います。

*2:バークリーの講師であるHal Crookの"How to Improvise"という本の第一章は確か休符だったように思います。