半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

Any Key… どこまで?

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立ち止まって考えよう。東京ビッグサイトのロッカーコーナーから雑踏をながめる

よく「Any Key、すべての調でフレーズとか練習した方がいいよ」とか言われます。
でも、本当に使います?
そんなに沢山の調、どうせ使わないじゃん?という意見もあります。
実際のところどうなんでしょう?

はい、結論からいいますと、

  • マチュアジャズマンであれば、曲として出てくる調は多くはない。
  • しかしすべての調を同様に扱えるのがやっぱり理想。なぜなら相対音感の完成に繋がるから。
  • Short Lickをすべての調で練習する作業は絶対に損しないし、結構即効性がある。

マチュアジャズマンの使うキーは限られる

とくに管楽器に関しては、Jazzというジャンルに限ると、曲のキー(調性)はかなり偏っています。

私もアマチュアジャズマン30年くらいやってますけど、曲のキーは G, C, F, Bb, Eb, Ab, Dbがせいぜい。
DやGbの曲とかもあるけど、これはまあアマチュアの多くは、逃げます。
歌伴でボーカルが持ってきた譜面で、こんなキーだったらうげげっとなりますが、リズムセクションは逃げられない。
あと、フロント楽器であっても、プロも逃げられないとは思います。

他のジャンルの曲だと EとかAとか、F#とか(当然それのマイナーも)でてきますよね。

* * *

 あくまでその観点でみれば、Any Keyで練習する意味はない、といっても良さそうです。
逃げてもいい。
色々なところでセッションみてても、やっぱ逃げてる。
そこは安心してください。
みんなスラスラ演奏できてるわけじゃない。

ただ、結論としては、Any Keyの練習は必要です。
ギターはともかく、サックス・トランペット・トロンボーンで、フレーズをすべての調でやる練習はかーーなり大変です。
でもやる価値はあるとは思います。
だからこそ。

すべての調を同様に扱えるのが理想。

以前、「音感のトラブルシューティング」という稿を書きました。
jazz-zammai.hatenablog.jp

ここで、カラオケで音程を変えたりして、ついていけない人。
歌ではそれはできるけど、楽器ではできない人。
実は僕もそうだったんですが、そういう人は、ちょっと相対音感が弱い、ということになります。

こういう人は、音感が弱い部分を補わなくちゃいけない。
 そういう訓練を伸ばす練習って、実はAny Keyの練習が一番近道なんですよね。

 ある特定の曲のテーマを、特定の調で吹く。
 可能であれば、半音ずつ上げ下げしてみてください。
 ちょうど、カラオケのキーコントローラーで変えるように。
 で、実はこれは結構難しいんです。
半音だと、例えば Fだったら EとかF#とかだし、CでもDbとかBとか、キツいところにいきなり行くんで。
だから、最初は4度進行で上げ下げしてもかまいません。
 Fのキーだったら、Bb→Eb→Abみたいにしてゆく。最初はこっちの方がいいよね。

 曲は、セントトーマスとか、マックザナイフとか枯葉とか、調性からメロディーがあまり外れない曲がオススメです。
 ブルースもいいですね。My Little Suede Shoesもいいです。Danny Boy…最高じゃないですか。
 そういう曲ね。

 慣れていけば、AABAでBメロで転調する曲とか、歌ものとか(実は歌ものはAメロのどあたまが意外に難しい。よくあるスタンダードだからといってAll of Meから始めたら、結構泣きます)そういうものにも手を伸ばして、最終的には、Jazz Originalといわれる、旋律そのものも複雑な曲を手がけてみればいいでしょう。Confirmationとか、Billies Bounceとか。もっといえばOrnithologyとか、Donna Leeとか。

 最初はかなり苦労する、というか苦痛でさえあります。
 これは、いままで使った筋肉を使っていないトレーニングなので、仕方がありません。
 最初は泣き泣き(「でけへん…!」)と思いながらやることになるでしょう。
 しかし出来ないなりに1ヶ月くらいみっちりやったら、じわっと出来てくる。

 君からみて、音楽の才能めちゃめちゃある(僕はないのに!)先輩や同級生、小さいころからピアノ触ってて音感あって、どんな曲でもすぐ演奏しちゃえるし、転調も自然にできちゃいますよーみたいな人、との差が少しだけ埋まります。

 そう、これは天才のための特訓ではなくて、クリリンの特訓なんです。

* * *

 最初が一番しんどいです。
 でも、もし枯葉を(別にSt.Thomasでもいいけど)Any Keyで、12通りのキーで演奏できるようになったら、その次の曲はその1/3くらいの労力でできます。その次の曲はもっと労力が少なくできる。そうすると、結構自信が付いてくると思いますよ。

 たとえ本番で使わなくても、相対音感を身に着けるために、Any Keyの練習はかなり役に立つ、と思ってください。

曲の中で、調性をはずれたコードは、かなり出てくる。

以前に、「コードの理解」という項で述べました。
jazz-zammai.hatenablog.jp
バップといわれるスタイルでは、曲のキー(調性)はさておいて、コードの移り変わりを瞬間的に転調しているとみなしてコード進行を増している、というか盛っているというか、そうやって複雑化しています。
必然的に、曲の主調以外のキーの2-5は沢山でてくることになる。その2-5では、瞬間的に転調した音階を吹く、と考えればいい。

例えば、よくあるスタンダード "Just Friends"でしたら、
F, Ab (Bbm7-Eb7) , Gb(Abm7-Db7), Dm(Em7-5 A7) , Gm(Am7-5 D7), C(Dm G7)のツーファイブがでてきます。
"It Could Happen To You"でしたら、Eb (Fm7 Bb7), Fm (Gm7-5 C7), Cm (Dm7-5 G7), Bb (Cm7 F7), Gb(Abm7 Db7)がでてくる。

 重複する部分もありますが、これだけでC, F, Bb, Eb, Ab, Gb, Dm Gm Cm Fm、のツーファイブがでてきます。
 たった二曲でこれだけ多くの II-Vがでてくるわけです。

オルタード、もしくはアウトサイド:

 上記に述べた通り、リードシートに書いてあるコード進行に限っても様々な調性がでてきました。
 でも、これは、初級から中級での話です。

 もう少しアドリブを楽しむ場合、リードシートに書かれた譜面から少し離れたアプローチが有効です。

 例えば、オルタードスケールを用いたフレーズ。
 僕はどちらかというと代理コードによるリハモに基づいてLydian 7th のフレーズを吹くと考えますが、根本的には同じことです。

例えば、
Dm7- G7 - Cという II-Vを代理コードでリハモすると、
Dm7- Db7 - C になります。この場合、Db7の部分は DbのLydian 7th scaleとなりますが、もうちょっとわかりやすく言うと Gbのドレミファソラシド(厳密にいうとGbのドレミファ…のド=GbだけがG=ド#に変化したスケール:G Ab Bb B Db Eb F)を使います。
 まあ、Gbのドレミファソラシドが基調になる。

それから、例えば、Dm-G7-Cの時に、半音上の ii-vをかぶせる形のフレージングなどもあります。
Dm7- Ebm7- Ab7 - G7 -C みたいなコード進行。この場合、間に Dbのトーナリティーでフレーズをとることになる。

コンテンポラリーっぽいソロフレージングには、こういう半音上とか、半音下(下はあんまりないけど)のアプローチが結構でてきます。
コンテンポラリーの調性から離れたソロには、

  • 元の調性から離れた別の調性のフレーズを使う
  • もともと調性感の希薄なスケール(Con.Dimとか、Whole Toneとか)を使う

というふた通りのアプローチがあるわけですが、調性からかなり離れた全音階が自由に出せれば、ソロの幅が広がる。

アウトサイドに逃げるために、すべてのペンタトニックは入念に練習しておくべき

 前項と同じようなことです。
 Brecker Brothersがもっともイメージしやすいですが、拍単位で細かく調性を変えるようなフレージングもあります。
 こういう場合には、トライアド、もしくはそれを拡張したペンタトニックフレーズをインテンポで繰り出さなければいけない。
 こういうことをするのに、すべてのキーでのフレーズ練習は必須になります。

まとめ

  • 曲のメロディーの相対度数などを理解するためにも、すべての調性でメロディーを吹く練習は有効。
  • ジャズでは本質的に曲中で転調を繰り返してフレージングを行うため、すべての調でフレーズの練習をすることも、やはり大変有効。この場合は、転調に対応するために、例えばメトロノームを鳴らして、インテンポで転調する練習をしないと、役にたちません。