半熟ドクターのジャズブログ

流浪のセッショントロンボニストが日々感じたこと

セッションのロードマップ その1(守)

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キリンの舌は長い

セッションのロードマップ その1(守) - 半熟ドクターのジャズブログ(←Now)
セッションのロードマップ その2(破) - 半熟ドクターのジャズブログ
セッションのロードマップ その3ー演奏していない時 - 半熟ドクターのジャズブログ
セッションのロードマップーその4(離) - 半熟ドクターのジャズブログ

ジャムセッションは楽しい。

ジャムセッションにはいろいろな形態も、いろいろなレベルもあります。
もちろんそこに参加する我々にも、慣れや習熟度の点である程度の段階があります。

初級・中級・上級、という言い方はなんですが、守破離、の三段階にわけて
それぞれの段階におけるガイダンスをしてみましょう。

その1:「守」

セッションの参加者の経験の浅い人。ジャズの初学者の人。
ジャムセッション行ってみようかなー…でも怖いなー」という感じだと思います。
具体的にはこんな方々ではないでしょうか。
どんな曲でも参加できるわけではなく、限定した曲のみ参加できる状態。
この状態が出発点です。

  • ジャズは聴いたことがあるけど、実際に演奏するのはあまり経験がない。
  • 先生について、習っている。発表会では吹いたりしたことあるけど…
  • ピアノは昔から弾いているけど、ジャズいいなと思って、ジャズの譜面とか家で弾いてます
  • 大学・高校のジャズ研でセッションみたいなやつはやってるけど、外のセッションは行ったことない…

みたいな感じですかね。

ちなみに、行くのに物怖じする場合は、まずは楽器持たずに下見にいってみましょう。
(まあボーカルやピアノやドラムの場合は、楽器がなくても弾かされちゃったりすることもありますけど…)

見るだけではなく、セッションで演奏しよう、と決心する場合、初学者に対しての注意点は下記の通り。

  1. まずはできる曲を1曲か2曲決めていきましょう。曲はまあジャムセッションでやりそうなベタな曲がよろしい。
  2. テーマとアドリブができる状態まで仕上げましょう。
  3. セッションホストには「初心者なのでこれしかできません」的な感じで伝えておきましょう。*1
  4. アドリブソロは、別に書き譜でもいいし、前もって先生と一緒に作った譜面でも構いません。可能であれば、譜面なしで吹けるところまでやってください。
  5. 始めるときには「よろしくお願いします」。演奏が終わったら「ありがとうございました」というようにしましょう。
  6. 今、どの部分を演奏しているのかをわかるようにしましょう(特にボーカルの方!楽器の人がソロをしている時間は「休憩」ではありません。)
  7. 自分が指向している構成に持っていくためのハンドサインやメロディーを理解しましょう。
  8. 自分の思惑から音楽が逸れた時のリカバリーを学習しましょう(Plan Bへの切り替え)


4.ソロを書いた譜面を置かない。
この辺りは見解がわかれるところです。
どうしても置きたければ置いて見ながら吹いてもいいとは思いますけど…
もしあなたが成長したら、かならず譜面なしでアドリブをする時期はきます。
で、書いてある譜面を読みながら演奏するのと、たとえ前もって決めたソロでも、譜面なしで演奏するのは、使っている脳の場所が全然違うんです。どうせすぐ譜面なしの状態に移行しますから…
ソロを譜面にしてそれを読みながら吹くのは、自転車で言えば「補助輪」つきのようなものです。どんなに上手く吹けていても、補助輪なしの状態とは異なります。拙くてもいいから、補助輪を外す努力をしましょう。アクセルを踏むのはそこからです。

5. 挨拶について。
これは初学者だけでなく、中級者になっても上級者になっても同じです。
挨拶はコミュニケーションの入り口として大事だと、僕は思います。です。

6-8.この辺りは曲の進行に対する話ですね。
セッションにて、一曲をやるときには、テーマ、アドリブ、アドリブの交替のタイミング、4 barsもしくは8bars、終わりのテーマからエンディング……なんとなく自分の中に、前もって予想した展開があると思います。(CDとか、音源と同じで構いませんがね)

しかし、ジャムセッションでは、すべてが自分の予想していた形で進むかどうかはわかりません。
特に他の人がいる場合、他の人のソロが入ることによって、サイズが変わってくる。
その場で構成が動的に変化するというのが、ジャズの即興性であったり、面白さだと思います。
ジャムセッションにおいてもっとも面白い部分だと私は思いますが、同時に一部の人には最も容認しがたい部分なのではないでしょうか。

クラシックや吹奏楽の形が決まった演奏というのが当たり前でそのコンセプトの延長線上でジャズを練習した方や、ボーカルの方は特にこういう事態には対応が苦手です。*2

でも、ジャムセッションには、この言語化されにくい部分に醍醐味がある。

こうしたことを踏まえて、他の人の演奏を聴いてみましょう。
他の人がどのように進行をコントロールしているか、そもそも曲をコントロールしている人は誰かを、探ってみましょう。
最初は全然わからないかもしれませんが、だんだん見えてくるものがあると思います

次の段階にいくために:

前述した通り、音楽の構成が、出たとこ勝負でどうなるかわからない所にジャムセッションの妙はあります。
他の人のやり方を見ながら、自分でも試行錯誤してください。
初心者であろうが、曲をもってきて、テーマを吹くのであれば、その人に曲をコントロールする権限があります。
(もちろん上手くコントロールできない状況であれば、誰かがコントロールすることになるでしょう)
おそるおそるだとは思いますが、やってみましょう。

確かに、最初は参加できる曲は少ないかもしれません。
しかし自分が持ってきた曲以外の曲に関しては、黒本やiReal Proでコード進行をみながら、どうやってアドリブするか、とか考えながら聴いてみましょう。
ジャムセッションに習熟するコツは、どれだけこうした無形の演奏者同士のコミュニケーションをキャッチできるかにあります。
そしてそれは、自分が参加している時はむしろ見えてこないですが、参加していない時にわかりやすいこともあります。
ほら、「岡目八目」って言葉があるじゃないですか。ね?

あとは、演奏技術的な話をしますと、

  • レパートリーを増やしましょう
  • いろいろなリズムパターン(4 beat, Swing, Bossa Nova, Latin, Waltz, Funk)に対応できるようにしましょう
  • 4 bars, 8 bars, chaseなどのジャズにおいていろいろある構成のパターンの選択肢を増やしましょう
  • リズムセクションはイントロを適切に導入し、フロントはそれにうまくのっかって、テーマに入れるようにしましょう。
  • 逆循・カデンツァなどの定番ネタを仕込んでおきましょう。

私の思うに、スタンダードブック(青本・黒本)というものは、ジャムセッションにもっていくためにあるのではなく、家でベタなスタンダードを片っ端から弾いてレパートリーを増やすためにあります。どんどん曲に親しんでください。
あと、個人的にはこの段階ではバラードを本番に持ち込むのは賛成しません。たまに「バラードはテンポがゆっくりだから簡単」とか思って、バラードをコールする初心者の方がいますが、バラードは一番難しいんです。
個人的な美学をいいますと、バラードはジャムセッション 90-120分ごとに一曲ずつくらいでいいと思いますし、その場にいるミュージシャンの中で最も上手い人の演奏を聴くコーナー、くらいに思ってください。「いつかはやりたいな、バラード」くらいに目標にしましょう。

*1:初心者対応してくれるセッションだったら、普通にウェルカムだと思います。一方、初心者お断り的なセッションであれば、この時点で邪険にされてしまうかも。それは結構つらいことですけれども、RPGでいうと、そのセッションは踏み込めば瞬殺されるダンジョンみたいなものです。親切な村人の忠告くらいに思って、その日はリスナーに徹しましょう。

*2:ボーカルの方の中には、歌以外のパートをカラオケ音源のように考えている人もいて、自分の思っていた形にならない場合に激怒される人も中にはいます。

セッションのバランシングとマネジメント:

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2019年、遥照山

ジャムセッションの進行にはいろいろな形態がある。

  1. マスター(ホスト)が管理して、メンバーをコールして参加するパターン。
  2. 参加表に名前・パート・やりたい曲とかを記入するパターン
  3. やりたいやつはステージに上がり、誰が決定権を持つわけではなく適当にセッションが続くパターン。

1.がもっとも秩序立っており、2.3.にいくにつれて混沌の度合いが増すことになる。

3.は例えば、軽音、ジャズ研の部活などで自然発生するセッションとか、特に形式を決めないセッションの原初状態だ。
 また、参加人数が少ない場合も、そんな感じになる。
対照的に1.はプロミュージシャンが仕切っていたり、有名なライブハウスの主催など。
 参加人数が多い場合、参加者の満足度を均てん化するためには、なんらかの管理をした方がよい。
 (やったもん勝ちになりがちだからだ)
特に、リズムセクションが同一楽器に複数いる場合は、組み合わせが偏らないよう、ある人だけ回数が多くなったりしないようマスターが腐心してメンバーの組み合わせを調整し、セッションに参加曲数をカウントしたりしている。

 曲の選択については、様々だ。
 参加者のレベルが高く、だいたいどんな曲でもできる場合は集まったあとでなんとなく決める。
 初心者でレパートリーが少ない方がいる場合は、その曲で優先的に加配する場合もある。
 曲が先に立つような場合もある。「Ipanemaやるんだけど、やりたい人!」みたいな形で募るような場合。

* * *

1.のようなしっかり管理されている場合は、リズムセクションも均等に順番がまわり、組み合わせも多彩で、結果的にバリエーションの豊かなサウンドを楽しむことができる。*1
まあしかし、1であろうが2であろうが3であろうが、リズムセクションに関していえば、各パート一人ずつしか参加できない。
だから絵面としてはそんなにかわらない。
きっちり管理すれば、公平で、満足度の均てん化が期待できるが、その程度だ。

一方、管理をきっちりするかしないかで、アウトカムが変わってくるのがフロントだ。

* * *

1. きっちり管理するセッションの場合は、大抵はフロント(ボーカル・ギターも含めて)は1〜3人まで。平均すると2人くらいだ。
逆に3.の管理しない状況では、フロント楽器が4,5人いれば、すべての曲で全員参加する、みたいな状況も起こりうるわけだ。
フロント楽器も、初心者でやる曲が限られていて2,3曲しか参加できないなら実害はない。
しかし、中級者で演りたいさかり。「あオレこれできるかも?」症候群で、できる曲はすべて参加する。
一歩も退かない、みたいな場合は、非常に暑苦しいサウンドになってしまう。
この「中級者、やりすぎ」パターン、しばしば出くわす。*2

* * *

フロントが四人いて、それぞれがソロをとって、ピアノ、ベースもソロをして、挙げ句の果てにはお定まりの4 barsもやって…みたいな構成の楽曲は、ダラダラ長いだけで、曲全体の起承転結を作りにくい。

公平にソロをとる、という観点では間違いないかもしれない。
リズムセクションの人間にしてみれば、楽曲単位での盛り上がりができないので、あまり面白くない。
また、聴き手目線で考えても、どの演奏も金太郎飴のようになるし、楽曲を通しての緊張感もなくなる。

リズムセクションはカラオケじゃないんだ」という苦言がリズムセクションから発せられる場合、
ただたんにフロント楽器が自分のソロしか考えていないようなソロがダラダラ続いたり、想定範囲以外のことをリズムがやるとフリーズしたり怒ったりするボーカルの演奏に付き合わされた時だ。

ある程度経験を積んで、ソロの中だけじゃなくて楽曲全体の構成を考える奏者には、こういうフロントソロが多い場合は、苦痛でしかない。
三人から五人くらいが、お互いの考えを汲み取って一つのサウンドに仕上げ、楽曲として完成度を高められる限界人数なのではないかと思う。

* * *

ただ、Bop黎明期には、ジャズクラブでの客向け演奏が終わったあと、深夜から明け方までプレイヤー同士がソロを対決していた(カッティング・エッジコンテスト)。
こういうシチュエーションでは5-6人、もしくはもっとたくさんのフロントプレイヤーが、次々とソロを演奏し、お互いの技を磨く。
一曲は数十分にもなったりした。
J.A.T.Pとかのレコードに往時の雰囲気は残っていたりもする。
だから、フロントが続々とソロを取るような形態はジャズの歴史にあるのだ。
不正解と断じることもできないのは、そういうことだ。
しかしBe-Bopはそういった構成美のなさが弱点で、Hard-Bopの台頭につれて、駆逐されることになったことを忘れてはいけない。

* * *

ジャムセッションのもう一つ大きな側面は、共演することによるコミュニケーションだ。
「同じ釜の飯」もしくは、インディアンのタバコのまわし吸いのように、同じ場を共有することによって打ち解ける。
そういう目的のためには、この「カッティング・エッジ形式」は有用だ。
なので、セッションの最後の曲は、
1.の管理されたセッションでも、最後は「大団円」って感じで、全員が参加し、構成美にはこだわらず「みんなで演奏」するセッションは多い。

セッション全体をアレンジする

聴き手も、プレイヤーも飽きがこないようにするためには、一曲一曲プレイヤーを変えつつ、楽曲のテンポ・長調短調、リズムパターンなども変えて、できるだけ与えられたカードで、可能な限りの多様性を生み出すことができれば、よいセッションであると言える*3
ライブと違って、セッションが唯一優れているところは、プレイヤーのカードの多様性がさらに多いことだ。
素材がいい=優れたプレイヤーが集まっている場合は、あまり考えなくてもいいかもしれない。多くのジャズプレイヤーは複数のスタイルを使いこなせるし、どんな曲だってこなせる。
曲の選択肢やプレイスタイルが限定される中級者の場合は、得意なジャンルを見極めてうまくマッチングしないといけない。
いずれにしろ、セッションに参加するプレイヤーの満足度を均てん化することが必要だ。
同時に聴き手の満足度も高めないといけない。
聴き手〜プレイヤー(上級者〜中級者〜初心者)すべてを満足させることは難しく、いくつかはトレードオフの関係にある。
そして、店の要求する優先度も、方針によって異なる*4
その辺りのバランスを取るのが、セッションのマネジメントの醍醐味と言えるだろう。

自然発生的に生まれた、3.のセッションにおいても、そういう視点で取り組んでみると、また違った気づきが得られるかもしれない。

*1:もちろんそこには功罪両方あって、リズムセクションには技量とは別に相性のようなものもあり、ピタッと噛み合う場合もあるし、惨憺たる結果に終わることもある

*2:私も昔そうだった。一歩も退かない状態だった。ある程度出来るようになってから、引き算を覚える。

*3:もちろんこれはライブでも言えることだ

*4:例えば初心者向けセッションであれば、初心者にはかなり配慮されることが要求されるが、逆に聴き手にとってはつまらないサウンドになる可能性はある。また中級者以上の方にとっての満足度もかなり下がるかもしれない。反対にIntroの様な店であれば、聴き手の満足度にも配慮されバランシングすることになる。来店している人がほとんどプレイヤーというスタジオセッションのような形態であれば聴き手の満足度は考慮しなくてよい。また仄聞するNYの本気のセッションは、公平に満足を分かち合うためではなく、勝ち残るためのセッションなので、初級者・中級者に満足度は分配されない。Winner Takes All。

言いたいことだけ言っとくわ。アドリブの練習の要点な。

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ひなたが気持ちいいワン…

どうやったらアドリブができるようになりますか?
アドリブするためにはどうすればいいですか?

もうね。そりゃそうだ。
その質問。わかるよ。

アドリブの仕方。方法論。
どうやったらいいかわからへん。

でも、そういいながら、質問している君も、君なりに、アドリブやろうとしたんだよね?

やらずに質問する人は、とりあえず何でもいいからやってみてください。

まずは思い切って飛び込んでみる。
そこでケガをしたあと、このアドバイスを参考にしてみてください。
結局なんだかんだいって、やらないとうまくならないのは事実です。
そして、下手なアドリブをリベンジして乗り越えないと、うまくならないです。

以前にこういうのも書きました。ビジネスにおけるPDCAを回さないといけないです。
jazz-zammai.hatenablog.jp

* * *

さて、ではその方法論です。
アドリブを行うための練習方法は様々ですし、これじゃないとダメ、とかもないです。
それぞれの練習方法は、自分で見つけてください。
もちろん教則本を見ても構いません。
練習方法はいろいろ試すべきです。
我々は仕事ではなく、遊びで音楽やっているんです。
楽しくないと意味がないですから。

ただまあ、試行錯誤するにも、いちおう経験者の実践的なアドバイスでも、しておきましょうか。

  • アドリブ演奏では、基本的に楽譜をみません。複雑な楽譜の情報を音にする作業よりも、頭の中でフレーズを作ること、そして「音」を大事にしてください。
  • ジャズは転調の多い音楽です。特にアドリブでは曲内で無数の転調(というか、コードチェンジ)を繰り返します。転調の練習は役立ちます。

最初はアドリブ全然ダメだったおじさんからのアドバイスです。
そして、ここを避けていると結局アドリブになりません。

譜面をみない、譜面にしない

暗記をしなさい、暗譜をしなさい、といっているのではないんです。
アドリブをするときには、頭の中でぶんぶん乱流のように渦巻いている思考の端っこを捕まえて、それを音にする、という作業をしています。そういう脳の使い方をしないと、アドリブのフレージングってとっさにでないんですよ。

例えば譜面に書かれた複雑なフレーズとかソロのコピー譜、エチュードをみながら、それを演奏する練習(これは他のジャンルでは当たり前に行われることです)は、いくら複雑なフレーズが吹けるようになっても、アドリブの実践にはつながりません。
もちろんそれが不要だとはいいませんが、しかしそれ「だけ」では、アドリブはできないということです。

なぜなら、使っている脳の領域が違っているから。

譜面を再現する。
これは、目で楽譜を読み、それを音のイメージに直し、それを楽器で再現する、という作業です。
これはこれで優れたミュージシャンになるためには必要なんですけれども、
譜面を吹くことと、アドリブを吹くことは、脳科学的には多分全然違う。

朗読と、会話では、使っている脳の場所が違っている。
それと同じことです。

* * *

例えば、Any Keyの練習などのときに、やるべきスケールをすべてのKeyで書き出して、書き出した譜面をもとに練習する方おられませんか?
もちろん、ポジションを覚えたりする意味で、この作業が全く無意味とはいいません。
ただ、それで終わってはアドリブのため練習にはならない。
いくら複雑なことをしていても、書かれていることを逐語翻訳しているだけだからです。
読譜力には繋がりますが、アドリブ力にはならない。

こういうのは、やろうとすることを楽譜にするより、言葉で表現した方がいいです。

ドレミファソラシド、ドシラソファミレド。半音ずつ上行してキーチェンジ。
とか。

で、書かれたオーダーを頭で再現する作業が大事です。
譜面を介さず、直接吹くようにしないと身につかないと思います。
内容を言語化し、オーダーを自分に課して、実行しましょう。
譜面に落とさない方がいいと思います。

もうちょっと言うと、特にフロント楽器については、
セッションの前に出て行って吹くときに、黒本とかを見ないで吹いた方がいいです。

特に吹奏楽では、楽譜がとても重視されます。吹奏楽出身の奏者は、敢えて楽譜なしで吹く努力をした方がいいと思いますね。

さらにいうと、楽譜よりもCDとか音源そのものに興味を持つようにしてください。
ジャズは楽譜によって「固められた」音楽ではなく、その場の音に対して相互作用してゆく音楽です。
音を出す根拠を、「楽譜」から「音」そのものに注力した方がいいです。

転調

端的にいって、ジャズは転調の多い音楽です。
なので、転調をばんばんノーモーションで繰り出せる練習をすると、実践に役立つことが多いです。

曲中の転調に対応するためには、インテンポで転調する練習をしましょう。
基礎練の時に転調と転調の間で息継ぎをして意識を切らせている場合が多いのですが、メトロノームに合わせて、一小節単位で転調してゆく(半音ずつとか、4度ずつとか)練習は、非常に実践的です。

吹奏楽でも、ドレミファソラシドをすべての調で吹いたりはすると思いますけど、
inC でドレミファソラシド、ここで息継ぎして、次は in Dbでドレミファソラシド… としているようでは、
使える転調にはなりません。息継ぎ、意識の途切れがないまま転調する練習をぜひしてください。
メトロノームを鳴らして、インテンポで。

例えば Fのキーから半音ずつまわって一周というのは難しいかもしれない。
その時は、できるキーで構いません。
FからC,Gくらいまで、反対方向にBb Eb Ab。
これくらいでも最初は構いません。

* * *

また、相対音感…というほどではありませんが、相対度の感覚をつかむために、好きな曲のテーマ(覚えているものにしましょう)を、すべてのキーで吹くことはよい練習になります。
調性の動かないメロディーが最初はおすすめです。My Little Suede Shoesとか、Moritat、枯葉とか。

これは苦手な人には絶望的な作業です。
しかし一曲こなすことができたら、あとは結構ラクです。

慣れたらAll the ThingsとかIpanemaとか調性のまあまあ動く曲でチャレンジしてみてください。
楽器うまいけど音感乏しい、昔の僕のような人は、Sir DukeTuttiのところをやると、ストレス解消になります。

デタラメやるメソッド

デタラメなんだワン!
アドリブの裏技的なもの。
例えばFのブルースで、デタラメ…というか、Non-Diatonicの音をたくさんだして切り抜ける、という方法がある。
この手のパターンは一定の割合でみる。

よくあるのは、

  • Tonalityを無視して、クロマチックな音列を並べる
  • Tonalityを無視して、例えばTonalityから比較的離れたキーのペンタトニックフレーズ(例えばFブルースでGbとかBとかDbとか)

みたいなやつ。

過去30年くらいアマチュア・ミュージシャン界隈をみているが、このスタイル数パーセントの確率で出現する。
どの楽器もいるが、他の楽器に比べトロンボーンの頻度はやや高い。

このメソッドの人は、

  • トロンボーンの楽器の演奏能力が高い。
  • 速いフレーズも高い音も得意。音量も大きい。
  • 譜面は相当吹ける
  • 音感は優れていなくて、コードは苦手

こういう特徴があります。
つまり、コード感やスケールにそった演奏は苦手。
 それゆえにこのスタイルを選択してしまうわけです。

力技だし強引ではあります。
実際に、普通のアドリブのプレイヤーからは「何やってんの?無茶やなあ…」という感じ。

* * *

この手のタイプは、大学の部活やビッグバンドのコミュニティにしばしば出現します。

聴き手のアドリブの咀嚼力が高くない場合は、アウトフレーズを正しく評価できない。
このスタイルの提供者は、そうした場でなんとなく受けいられた結果、このスタイルの方向性を強化する傾向にあります。
率直に言えば、がっつり確信犯で「デタラメ」を吹く、わけです。


クローズド・マインドでソロを評価すると「それあかんで」となる。
けれども、オープンマインドで「いい所を拾っていこう」という的な観点では
  「なんかかっこいいことやっているかもしれん」となる。
ま、言ってしまえばこれは「裸の王様」的なやりくちなわけです。

口さがなく言えば、この手のソロを許すコミュニティに一定の特徴があります。

  • コミュニティのアドリブソロの平均のクオリティが低い。
  • アドリブソロの評価も批評をきちんとできる人がいない。
  • コミュニティが開放的でなく、他との交流が少ない。
  • プロのライブを見にいく人が少ない。プロと交流しない。

アドリブのレベルの高いコミュニティでは、こうしたソロのスタイルは淘汰されるか、見直しを迫られることが多いんです。

デタラメメソッドの長所

ただし「デタラメメソッド」は欠点ばかりではありません。

デタラメメソッドは、フレージングはデタラメかもしれませんが、
アドリブの盛り上がりとか、アドリブ演奏の興奮(エキサイト)という意味では、ある種正しい。

高速のスピードでNon-Diatonicのフレーズを繰り出す。それはソロの盛り上がりのピークの演奏を再現できているわけです。
特にこういうソロの起承転結感とか盛り上がり感は、ビッグバンドのソロ(コンボの、少しづつ積み上げていってピークに持っていく演奏とは違って、いきなりトップギアに入れるような演奏が求められます)では、はまりやすい。

実際、ビッグバンドのトロンボーンソロって、モノホンも「ようわからんソロ」いっぱいあるんですよね。
また、コンボでも、他の楽器のソロも、最も盛り上がっているところでは「ブギョー!」だったり「ピロピロピロピロ…」だったり、要するにバーサークしているような「一見でたらめにしか聞こえない」部分が結構あるもんです。
あれを丁寧にコピーしていると、そういう感じにもなる。

対照的に、コードにそって、丁寧にフレーズを並べても、ソロが盛り上がれないという問題もあります。
楽器のうまさを見せつけるより訥々とコードに沿ってフレージングを積み上げるタイプのソロ。
アートファーマーとか、ケニードーハムとか、そういう感じのソロです。*1

こういうソロでは盛り上がり感が出しにくくてビッグバンドでは、むしろ「デタラメメソッド」の方が映えることもよくあります。

デタラメメソッドの弱点

「デタラメメソッド」には一定の強みがあり、また、ビッグバンドでのトロンボーンソロは、オリジナルもそういう要素がある。
どうしてもデタラメメソッドのスタイルのトロンボニストが一定数出現するんだと思います。
トロンボニストにとっては、デタラメメソッド、ある程度しょうがない。
ごく一部の人間を除けば、トロンボーンでアドリブソロをとる際、最初からできている人はかなり少ないし、僕もこういうスタイルで誤魔化した経験はあります。

ただデタラメメソッドの弱点は、

  • ソロの盛り上げしかできない。盛り上がっている曲にしかはまらない。
  • 一発ものは得意だがコード進行の複雑な曲はうまくいかない。

という、致命的な弱点があります。
「デタラメメソッド」は勢いに任せた奏法。
勢いを削いだ状態では途端に魅力を失ってしまいます。

ちなみに、デタラメメソッド奏法のプレイヤーの勢いを削ぐ方法。

  • バラード。
  • スロウな曲をさせる。
  • バラードのテーマとソロの部分をさせる。
  • 歌ものとかのオブリガードをさせる(フロント楽器にとってはもっともわかりやすいコード感が必要とされるたぐいのタスクです)

逆に、Giant StepsとかCherokeeとか、そういう曲だと、めっちゃかっこいい演奏に化けることもあります。(もちろん一発ものじゃないので、空振り三振になるかもしれません)
コードを無視できる、というのも、時と場合によって強力な武器になることもある。

* * *

デタラメメソッドを脱却するためにはどうしたらいいか?
まあ、このBlogは半分以上そのために書かれたようなもんですが、

  • きっちりAny Keyの練習をする
  • Tonalityを身に着ける練習をする

ことが必要でしょうかね。

*1:こういうソロイングはソロの出だしとかではとても有効なんですが、しかし盛り上がれず終わってしまう部分もあります

第3回福山ジャズ検定

drive.google.com

えーと、福山というのは私の住んでいる街のことなんです。
8月にジャズの初心者向けワークショップというのをやったんですが、その時に中級者以上に退屈しのぎにクイズとか作ってみたわけです。

えーと、そんなに好評でもなかったんですが(笑)*1
このクイズ作りって、わりと一旦作り始めると結構やみつきになるんですよね…
というわけで今回は第三回。

どちらかというと、Jazz Musician向けの内容となっています。楽器奏者ですね。
ジャズの理論とか、曲への知識を問う問題が多いです。

ではどうぞー!

* * *

過去のクイズも一応載せておきます。

第1回ジャズ検定

drive.google.com

初回は100点満点で全19問。*2
これは 有効回答 58例(重複あり)時点で平均点は 57点です。
まだの人は、興味あればチャレンジください。

第2回ジャズ検定

drive.google.com

第一回の反省を踏まえ、いわゆるジャズのリスナー向けの内容になっています。
ボリュームは半分にして、50点満点。
ただ、色々問題に不備があったので、あまり大々的には宣伝せず、ひっそりと終えました。
現時点では平均点は 28点です。

*1:難しすぎるわ!マニアックすぎるわ!という批判続出。

*2:20問も作るとしんどいので以降50点満点にして問題数を減らしました

使っていい音について その3


問い:使っていい音、使ってはいけない音、というのがよくわかりません。
 自分がアドリブを吹いたりする時に、「あっこの音、はまっていない!」と思う瞬間はあります。おそらくその音の使い方が不適切なんだと思うんですけれども、なぜその音がいけないかが解らないんです……
 でも、理論書をみて"Available note scale"とか書いてあるものの範囲内でも、はまっていないなと感じる時があるんです。
 よくわかりません。

続きです。

「間違い」と感じる理由

 理論的に、無限の自由度が許されるのに、なぜ我々はソロによっては「間違っている!」と感じるのでしょうか?
 我々の耳の錯覚なんでしょうか?

オッカムの剃刀

オッカムの剃刀」という法則があります。

[オッカム-の-剃刀]Occam's razor; Ockham's razor
Occam's razor is a principle attributed to the 14th-century English logician and Franciscan friar William of Ockham. The principle states that the explanation of any phenomenon should make as few assumptions as possible, eliminating, or "shaving off," those that make no difference in the observable predictions of the explanatory hypothesis or theory. The principle is :
entities should not be multiplied beyond necessity.
(ある事柄を説明するのに、必要以上に複雑な仮説を立ててはならない)
(Wikipediaより)

人は、可能であれば、出来るだけシンプルな理論に基づいた解釈を望みます。

あるコード進行に対して、無限のアプローチがあるとしても、選んだ音をシンプルに説明できるなら、シンプルに説明すべきであるし、脳はそうとらえます。

ドレミの枠内で説明がつくものは、ドレミの(要するにダイアトニックスケールの)範囲で説明するし、我々の脳内もそういう風に解釈します。
例えば、スタンダードナンバーのメロディーなどは、ダイアトニックな音階で作られていますよね。
我々の中心部にはやはり強固にダイアトニックな音階が刷り込まれている。

基礎と応用でいえば、基礎部分にはがっちりドレミ(ダイアトニック)の世界でできています。

* * *
 
あるコードとフレーズの関係性を、シンプルにも、複雑なリハモでも説明できる場合、我々の脳はシンプルに解釈します。
ゆえに、ダイアトニックスケール(要するに、ドレミの音)だけを使ったフレーズはダイアトニックコードの上で処理される。

で、こういう時にアドリブで「間違っている」感じやすいのは、トニックにおける四度の音。
イオニアンスケールでは四度=ファの音が、Avoid Note(=厳密にいうと「避ける」というよりは「慎重に扱うべき」音というべき)ですが、それなりの音価を持ってこの音を置くと、明らかに違和感がでてきます。
どちらかというと、聴き手ではなく、自分の中で。

では、ダイアトニック以外の音列ならどうか?
non-diatonicのフレーズは様々な理論的アプローチが考えられるがゆえに、脳は一瞬、判断停止に陥ります。
だから「なんか変な音を使っている」とは思うけど「間違い」とはあまり感じません。

むしろダイアトニックの音を使って、コードの解決感が示されない場合、人は「間違い」と判断を下しやすいようです。

ですから、一見矛盾しているようですが、いわゆるAvailable note scaleといわれる、そのキーの音よりも、キーの音以外の音(non-diatonic note)の方が、案外間違って聞こえない。

この性質を利用したのが、以前別で書いた「デタラメやるメソッド」です。
jazz-zammai.hatenablog.jp

共時性の排除

 あと、大事なこと。
 アドリブのある部分で存在が許されるのは一つの理論に従って選択されたスケールです。
 同時に、複数のスケールが混在することは許されません。

 要するに、G7のところでは オルタードスケールを使ったり、調性はCなのでCのドレミの音(G ミクソリディアン)を使ったりできますが、同時にごちゃまぜにしたらいかん、ということです。オルタードで行くならオルタードで、ドレミでいくならドレミ、どっちか選ばなきゃいけない。切り替えることはできますが、まぜちゃだめです。

 例えばコース料理を考えますと、前菜があって、オントレ、メイン、デザートがある。これらは一つずつ順番に出ることでそれらの存在感をお互いに増すことが出来るわけです。もし、メインの中にデザートが突っ込まれて一緒に出てきたらどうでしょう?味の足し算、とはいわないですよね。台無しです。
 音楽でも同じで、カラフルなサウンドを作ろうと思っても、すべてのエッセンスを一度につめこんでは期待した効果を得ることは出来ません。

 もちろん、一つのフレーズの中では必ず一つの理論に従ってフレーズを作るべし、なんていいません。
 しかし、例えばIIm7-V7-Iでフレーズを作るとして、前半は、IIm7のコードトーンを使った(スケールで言えばドリアン)フレーズ、V7の一二拍はミクソリディアンで、三四拍目はオルタードスケールのフレーズを吹いたとしましょう。この時、オルタードに変わったらそのあとはオルタードスケールの枠内でしか音を使うべきではない。このオルタードスケールにミクソリディアンの構成音を混ぜると、すべての音が使えることになりますが、それでは何がなんだかわからなくなってしまいます。

 でも、アドリブの上ではオルタードに変化するタイミングは何拍目でもいいわけです。
ミクソリディアンのフレーズを吹いているある時点をもって、「次に吹ける音」を考えると、1:そのままミクソリディアンでフレーズを作ってもいいし、2:オルタードの音を使ってもよい。即ち、すべての音を使うことができます。これは最初に挙げた「おはようございます、□…」の例と同じですね。

まとめ

  • すべてのものを選ぶことができる。我々には選択の自由がある。
  • しかし、同時に選べるのは一つ。
  • そして、選んだ語法にそって出たフレージングに我々は責任をもたなきゃいけない。

 そういうことです。

 シュレーディンガーの猫のようですね。
 理論的には 例えば V7のコードで、様々な可能性がありうる。V7は非常に多彩なアプローチが許される。それは、頭の中にある時は、ある存在確率の雲のような形で存在しています。
 しかし、実際に音を選んで出す時には、一つの理論によって導かれた音列になる。

 我々が吹いたフレーズは、聴者の耳にて、再び解釈されるわけです。ここで、選んだ語法の範疇に収まらないフレーズは、エラーに聞こえてしまう、ということになります。特に、自分のフレーズを自分が聴く場合は、自己再解釈ではなく、背景の語法は自分の中で決めていますよね。
 その語法からずれていたら、「間違っている」と認識されると思います。

 だから、自分では「ミスした」と思っていても、他者にはそれほど間違っていないように聴こえることは、よくあります。

 

使っていい音について その2

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問い:使っていい音、使ってはいけない音、というのがよくわかりません。
 自分がアドリブを吹いたりする時に、「あっこの音、はまっていない!」と思う瞬間はあります。おそらくその音の使い方が不適切なんだと思うんですけれども、なぜその音がいけないかが解らないんです……
 でも、理論書をみて"Available note scale"とか書いてあるものの範囲内でも、はまっていないなと感じる時があるんです。
 よくわかりません。

前回の続きです。

jazz-zammai.hatenablog.jp

使っていい音、使ってはいけない音、というのはなんなんでしょうか?

話し言葉とのアナロジー

jazz-zammai.hatenablog.jp

 以前に「理論」の項でも試みたように、音楽を会話、話し言葉などのアナロジーで考えてみます。

 言葉はひとつひとつの文字の連なりから構成され、音楽はひとつひとつの音(音符)の連なりから構成されますね。
 (そういえば、そうやって出来た分節/音節は、共に「フレーズ」という言葉で表されます。)

 ここで注意してもらいたいのは、言葉の場合、文法によって規定されるのはひとつひとつの文字ではなく、あくまでそれが連なって完成したフレーズ、分節・文章に対してだということです。

 音楽も同じです。ひとつひとつの「単音」に文法(この場合音楽理論)を当てはめることは適当ではありません。
 
 例えば、「おはようございます、□…」という文があったとしますわな。
 □の部分に言葉を入れる。

 色々な言葉を入れることができますよね。
 「ああ、又遅刻しちゃったよ…」であったり「今日もよろしくお願いします」だったり。

 この、四角の枠の部分の最初の一字に、使ってよい言葉、いけない言葉というものはありません。
 もし、使っちゃったら、その言葉を含む文を作ってやればよい。

 たとえば、どうしても「さ」という言葉を入れて会話を成立させようとした場合、
「おはようございます、『さ』あ今日もがんばるぞ~」とか
「おはようございます。『さ』て、昨日の件だけどどうなってる?」とか、まぁ、どうにでもなりますよね。
 逆にある文字を使わないというのも、意識すれば可能です。
(むかし幽遊白書の中にそのような勝負があったように思う。蔵馬が戦ってたやつね。)

 こういう観点で考えれば
『どんな文字でも使うことができる』『使ってはいけない文字はない』、といえる。しかし、

「おはようございま□」であれば、これはかなり意味が変わってきます。

 この場合、ここに入れて意味が通る文字はかなり制限される。

例えば、先ほどと同じで「さ」を入れてみる。

「おはようございまさ」

  (……?)
  (「まさ?」)
  (「まさ? 何?」)
 などと、要らぬ憶測をよんでしまいますが、これは明らかに文法的に意味をなしませんし、その次に言葉を繋いで行くのもむずかしい。
 でもまあ、江戸弁の魚屋、みたいな言い方で「おはようございまさぁ!」とというなら、ありかもしれない。

 この例で解るように、同じ言葉を選ぶにしても、全く自由に選択することが許される部分と、文法的にストリクトに規定される部分(他の言葉の影響を受ける部分)があります。

 音符でもやはり同じようなことがいえるわけです。一つ一つの音符だけを見てゆくと、どこに何の音を置いても文章を成立することができるが、結局は他の音符との並びにて整合性が決まっていくわけです。

 なんとなく、いいたいことがわかりましたでしょうか?

「正しさ」は一つではない

 では、文脈における正しさ・正しくなさ、の基準は、具体的にはなんでしょうか?

 困ったことに、実はジャズ全般に通用する決まりは、ないと言えます。

「ジャズ」と一括りにしていますが、その理論的なアプローチは時代と共に相当変遷しております。
むしろ過去に作られた理論を覆す方向で新しい音楽理論は拡張される傾向がある。
表現として、時代が下るとともにどんどん多様な方向に向かっているのがジャズです。

ですから、例えば1950年代のビバップハードバップの文脈ではふさわしくない音使いでも、それは後代の理論的なアプローチ(モードとか)ではオッケーな可能性がある。
そもそもマイルスがモード・イディオムに移行した理由こそが、バップ・イディオムによるアドリブに限界を感じていたからに他ならないわけですし。

理論的な枠組みは、大体時代が下る毎に自由になる傾向があります。これは、後代の理論には、必ずその前の時代の理論が内包されているからです。

つづく。